目次
はじめに
概要
本書は、プロジェクトマネジメント手法の一つであるPERT(Program Evaluation and Review Technique)を分かりやすく解説します。定義や歴史、図の見方、時間見積もり、クリティカルパス、実際の活用例、他手法との比較、導入時の注意点まで体系的に扱います。
目的
PERTの特徴とメリットを理解し、現実のプロジェクトで役立てることを目的とします。工事現場や製品開発、イベント準備など、複数の作業が絡む場面での活用を想定しています。
対象読者
プロジェクト責任者、チームリーダー、現場の担当者、プロジェクト管理を学びたい方すべてに向けています。専門知識がなくても理解できるよう具体例で補足します。
本書の使い方
各章は順に読むと理解が深まりますが、必要な章だけ先に読んでも問題ありません。図の見方や時間見積もりの章は実務で役立ちます。
簡単なイメージ例
例えば新商品発売では、企画・設計・試作・検証・宣伝の順に作業が進みます。PERTは各作業の順序と時間を整理し、遅れを防ぐポイントを明確にします。これにより、全体の進行をコントロールしやすくなります。
PERTとは?定義と歴史
定義
PERT(プログラム評価レビュー技法)は、プロジェクトの計画と進行をわかりやすくする手法です。作業の順序や所要時間を図で表し、全体の流れをつかみやすくします。専門用語は最小限にし、たとえば「橋をかける工事」でどの作業が先に終わらないと次に進めないかを見える化するイメージです。
発案の背景
1950年代後半、米海軍は潜水艦搭載のポラリスミサイル開発という時間制約の厳しい大規模プロジェクトに直面しました。多くの企業と工程が同時に動き、全体の調整が難しくなったため、効率よく管理する手法が求められました。
歴史と普及
そこで生まれたのがPERTです。当初は軍事分野で使われましたが、製造や建設、ITなど民間にも広がりました。図で工程の順序と重要な遅延箇所を把握できる点が評価され、プロジェクト管理の基本ツールの一つになりました。
日常的な例
新製品の発売準備では、試作、試験、量産準備、販促準備といった作業が並行します。PERTを使うと誰が何をいつまでに終えればよいかが明確になり、無駄な待ち時間を減らせます。
PERT図の基本構成要素
はじめに
PERT図はタスクの流れと依存関係を視覚化します。図を見るだけで工程のつながりや重要な節目が分かるように、いくつかの基本要素で成り立っています。以下で順に説明します。
イベント(ノード)
イベントは重要なマイルストーンや開始・終了点です。円や四角で表し、番号とイベント名を付けます。例えば「設計完了」「試験開始」などをノードにします。ノードには最早開始時刻や最遅開始時刻を記入して、工程の余裕を確認します。
アクティビティ(矢印)
アクティビティは実際の作業を示す矢印です。矢印上に作業名と所要時間を書きます。矢印の向きで順序を表し、どのイベントからどのイベントへ進むかが一目で分かります。例:基礎工事→壁工事(5日)
ダミー・アクティビティ
ダミー・アクティビティは実作業を伴わない、論理的な依存関係を示すための点線矢印です。時間はゼロで、複数のタスクが同じノードに依存する場合などに使います。たとえば、AとBが両方完了してからCを開始する論理を示すときに便利です。
時間見積もり
各アクティビティに時間を設定します。一般的には最短・最可能(標準)・最長の三点見積もりを用います。簡単な例:最短2日、最可能3日、最長8日の場合、期待時間は(2+4×3+8)/6=約3.67日です。この考え方は、後のクリティカルパス計算で重要になります。
簡単な書き方の例
- ノードA(プロジェクト開始)→矢印(要3日:設計)→ノードB(設計完了)
- ノードB→矢印(要5日:実装)→ノードC(実装完了)
- 必要ならノード間にダミー矢印を入れて論理関係を明示します。
次章では、これらの要素を使ってプロジェクトの範囲と進行を管理する仕組みを説明します。
PERTによるプロジェクトスコーピングと管理の仕組み
スコーピングの目的と進め方
PERTではまず「何を達成するか」を明確にします。成果物(納品物)と主要なマイルストーンを定義し、小さな作業単位に分解します。例えばウェブサイト制作なら、設計、実装、テスト、公開をマイルストーンに分けます。
タスクとリソースの洗い出し
各作業に必要な人・時間・設備を洗い出します。担当者と依存関係を決め、作業順を可視化します。リソースの競合は早めに発見し、担当を割り振るか期間を調整します。
リスクの把握と優先順位付け
想定される遅延や障害を書き出し、発生確率と影響度で優先順位を付けます。重要なリスクには代替案や余裕日(バッファ)を設けます。例:主要担当者の病気に備え代替担当を準備する。
監視と調整(運用)
進捗を定期的に実績で更新し、PERTの図を再計算します。遅れが出たら作業の並列化やリソース増加で調整します。週次レビューや短い報告を習慣化すると早期発見につながります。
実務的なコツ
- マイルストーンは小さめに設定する
- タスクは誰が見ても分かるように記述する
- 変化があれば図をすぐ更新する
- チームと頻繁に情報共有する
これらを通して、達成可能で効率的な進行計画を立て、運用で維持する仕組みを作ります。
PERTの時間見積もりとクリティカルパス
3点見積り(最短・最頻・最長)
PERTでは各タスクについて「最短(楽観)」「通常(最頻)」「最長(悲観)」の3つの時間を見積もります。例えば、ある作業で最短2日、通常5日、最長8日と見積もると、現場の不確実性を反映できます。
期待時間と分散の計算
期待時間(E)は簡単な式で求めます:E = (楽観 + 4×通常 + 悲観) ÷ 6。上の例だとE = (2 + 4×5 + 8) ÷ 6 = 5日です。ばらつきの指標として分散も使い、分散 = ((悲観 − 楽観) ÷ 6)² と計算します。
クリティカルパスの求め方
期待時間を使って順方向に「最早開始(ES)/最早終了(EF)」を計算し、逆方向に「最遅開始(LS)/最遅終了(LF)」を計算します。各タスクの余裕(スラック)= LS − ES。スラックが0の連続経路がクリティカルパスです。クリティカルパス上の遅延がプロジェクト全体の遅延に直結します。
実務での使い方と注意点
クリティカルパスを短縮するには、作業の並列化や人員増加、仕様の見直しが有効です。リスク管理にはばらつきを考慮して予備日を設定します。見積り精度は経験に左右されるため、都度実績と比較して改善してください。
PERTの活用例とメリット
はじめに
PERTは複雑で不確実性の高いプロジェクトで特に役立ちます。ここでは具体的な活用例と、現場で実感しやすいメリットをわかりやすく紹介します。
活用例
- 製品開発:試作→評価→改良と工程が多い新製品の立ち上げに使うと、順序と並行作業を整理できます。具体例:デザインと試験を同時進行にして期間短縮を図る。
- 建設プロジェクト:複数業者が関わる工事で依存関係を明示できます。例:基礎工事の遅れがどの工程に波及するかが見えます。
- 研究開発:実験の成否が不確定な場合に、代替工程や並行試験の計画に役立ちます。
- イベント運営:会場手配・協力者調整・広報を並行管理し、締切の優先順位を決めやすくします。
- ソフトウェア開発:機能ごとに並行作業を割り振り、クリティカルな依存を浮き彫りにします。
主なメリット
- プロジェクト全体像が把握しやすくなります。ノードと矢印で工程が可視化され、抜けや重複を見つけやすいです。
- 依存関係やボトルネックを可視化できます。どの工程が遅れると全体に影響するかが明確になります。
- リソースの最適配分とスケジュールの合理化が可能です。余裕時間を把握して人員や機材を効率配分できます。
- 変更や問題発生時にも柔軟に対応しやすいです。代替ルートを用意しておくことで影響を最小化できます。
実務のヒント
- 見積もりは現場の担当者の意見を取り入れて現実的に設定してください。
- 進捗に応じてPERT図を定期的に見直すと精度が上がります。
- プロジェクトが非常に大きい場合は、全体を細かく描くより重要工程だけPERT化すると運用負荷を抑えられます。
他のプロジェクト管理手法との比較
概要
代表的な手法はPMBOK、CCPM、WBS、PPM、アジャイル、ウォーターフォールなどです。それぞれ得意な場面が異なります。ここでは分かりやすく特徴と簡単な適用例を示します。
主な手法と特徴
- PMBOK:プロセスや役割を体系化します。大規模組織や複数プロジェクトで標準化したい場合に向きます。例:企業の基幹システム導入。
- CCPM(クリティカルチェーン):リソースを集中させ遅延を吸収します。人手や設備に制約がある現場で有効です。例:製造ラインの短納期対応。
- WBS:作業を細分化して管理します。見積もりや責任分担が明確になります。例:イベント運営の段取り。
- PPM(ポートフォリオ管理):複数プロジェクトの優先順位や投資配分を決めます。例:製品開発の投資判断。
- アジャイル:短い反復で柔軟に方針を変えます。変化が多いソフト開発に適します。例:ウェブアプリ開発。
- ウォーターフォール:工程を順に進めます。要件が安定している案件で効率的です。例:工場の設備設計。
PERTの位置付け
PERTは不確実性や依存関係が多い工程の所要時間を扱うのが得意です。複数作業の同時進行や確率的な見積もりを用いてクリティカルパスを見つけます。例:研究開発プロジェクトや複雑な建設工事で有効です。
長所・短所の目安
- 長所:依存関係の可視化、時間の不確実性を扱える点。
- 短所:図が大きくなりやすく更新作業が増える点。データ入力の手間がかかります。
選び方のポイント
- 変化の速さ:変化が大きければアジャイル、安定していればウォーターフォールやWBS。
- 資源制約:人や設備が限られるならCCPMを検討。
- 不確実性と依存関係:こちらが課題ならPERTを優先。
現場の目的と組織の運用に合わせて手法を選ぶと効果が出やすくなります。
PERT導入のポイントと注意点
導入前の準備
プロジェクトの目的と主要成果物を明確にします。関係者を早期に集め、作業の大まかな流れを洗い出します。例えば、ウェブサイト制作なら企画→デザイン→実装→検査の順に分けます。
時間見積もりのコツ
三点見積もり(楽観・最頻・悲観)を使い、現実的な期待値を算出します。短時間の作業は個別に見積もり、長期タスクは分割します。経験のあるメンバーの意見を優先します。
チームと情報共有
PERT図とスケジュールは全員が見られる場所に置きます。週次の進捗確認でズレを早期に修正します。コミュニケーションを習慣化するとリスクが減ります。
業種・規模への適用
小規模なタスクでも簡易なPERTで効果があります。建設や新製品開発では詳細化すると有効です。他手法と組み合わせると柔軟に運用できます。
注意点
初期の見積もりが甘いと計画が崩れます。依存関係を過剰に複雑化しないでください。ツールに頼りすぎず、現場の状況を定期的に確認します。導入は段階的に進め、改善を続けてください。