クリティカルパス法(CPM:Critical Path Method)は、
「プロジェクトの最短工期を決める経路(=クリティカルパス)」を特定する手法 です。
多くのプロジェクトが直面する
- 「なぜ遅れるのか?」
- 「どこがボトルネックなのか?」
- 「どこを短縮すれば納期に間に合うのか?」
といった疑問を、数値と構造で見える化します。
IT開発・建設・マーケティング・制作案件など、
あらゆるプロジェクト管理で必須となる基礎スキル です。
この記事では、クリティカルパスの仕組み、計算方法、実務での使い方まで体系的に整理して解説します。
この記事で分かること
- クリティカルパス法(CPM)の仕組み
- 「最長経路」がなぜ納期を決めるのか
- ES/EF/LS/LF の基本計算
- 実務で使うときのコツ
- 遅延が出たときの対処と短縮戦略
- CCPM(クリティカルチェーン)との違い
目次
クリティカルパス法(CPM)とは?
プロジェクトの“最短工期”を決める方法
CPMとは、以下の流れを整理して「納期のボトルネック」を特定する手法です。
- タスクの順序(依存関係)
- 所要時間
- 開始・終了可能なタイミング
- 最後までの経路
もっとも時間がかかる経路が クリティカルパス(CP:Critical Path) です。
なぜクリティカルパスが重要なのか?
“クリティカル=遅れるとプロジェクト全体が遅れる”
クリティカルパス上のタスクには 余裕(フロート)がゼロ です。
つまり「1日遅れると、プロジェクト全体が1日遅れる。」
逆に、クリティカルパスに入っていないタスクには「余裕時間(フロート)」があり、多少遅れても全体への影響はありません。
CPMの基礎:4つの時間(ES・EF・LS・LF)
クリティカルパスを特定するために、以下の4つを使います。
- ES(Earliest Start):最も早く開始できる時刻
- EF(Earliest Finish):最も早く完了できる時刻
- LS(Latest Start):遅くとも開始しなければならない時刻
- LF(Latest Finish):遅くとも完了しなければならない時刻
これらをネットワーク図に落とし込み、
- 前方向計算(フォワードパス)
- 後方向計算(バックワードパス)
を行うと、各タスクのフロート(余裕)が求まります。
フロート(Float)とは?
遅れても全体に影響しない“余裕時間”
フロート(自由余裕、全体余裕)は「タスクがどれだけ遅れてもプロジェクト完了日に影響しない時間 」のこと。
公式:
フロート = LS − ES = LF − EF
フロートが 0 のタスク = クリティカルパスということです。
CPMの手順(実務向けに簡潔に)
以下の5ステップが定番です。
ステップ① タスクを洗い出し、依存関係を整理する
- A → B → C のように「どのタスクが何に続くか」を明確にする
- 並列でできる作業は枝分かれの形にする
ステップ② 所要時間を見積もる
- 各タスクに「必要日数(工数)」を記入
- 平均・実績などを基準に現実的に設定
ステップ③ ネットワーク図(アローダイアグラム)を作成
タスクを矢印でつなぎ、依存関係を可視化します。
ステップ④ ES/EF の前進計算(フォワードパス)
左から右へ「最も早く完了するタイミング」を求める。
ステップ⑤ LS/LF の後退計算(バックワードパス)
右から左へ「遅くとも必要なタイミング」を求める。
ステップ⑥ フロートを計算しクリティカルパスを特定
フロートが 0 の経路が CP(Critical Path)。
実例:簡単なクリティカルパス計算
例)
A → B → D
A → C → D
の2経路があるとする。
タスク時間
- A:2日
- B:4日
- C:3日
- D:2日
経路1:A→B→D=2+4+2=8日
経路2:A→C→D=2+3+2=7日
よって クリティカルパスは A→B→D(8日)。
この経路が1日でも遅れると、プロジェクト全体が1日遅れる。
CPMを実務で活用するコツ
PMがよくやるのは“3つの誤り”
① タスクの依存関係を間違える
- 本当は順序があるのに並列にしてしまう
- 逆に、並列化できる作業を直列にしてしまう
これが最も多い失敗。
② 所要時間が「楽観 or 過剰」になる
- 現場の“なんとなく”による見積もり
- 担当者による差
- 経験不足
所要時間は
実績ベース + リスク分も考慮 が基本。
③ クリティカルパスを “一度作って終わり” にする
CP はプロジェクト中に変わることがあります。
- 遅延が発生した
- リソースが変わった
- タスクが追加された
よって、定期的に更新することが必須。
クリティカルパスを短縮するには?
最短工期を縮める6つの戦略
並列化(Fast Tracking):順序が緩いタスクを並行作業にする
リソース追加(Crashing):人員や設備を追加する
スコープ削減:必須でない要件を削る
タスク分割:細分化して短縮できる部分を探す
クリティカルパス上の担当者の負荷軽減:CP上のメンバーにタスクを集中させない
制約タスクへのリソース集中:ボトルネック工程の効率を上げる
CPMとCCPMの違い
“計画ベースのCPM” vs “制約ベースのCCPM”
| 観点 | CPM | CCPM |
|---|---|---|
| 前提 | 計画通り進む | 制約が必ず発生する |
| 余裕の扱い | 各タスクに個別に持つ | 余裕(バッファ)を全体に集約 |
| リソース | 無限前提になりがち | リソース競合を考慮 |
| 目的 | 工期算出が目的 | 納期遵守・遅延防止が目的 |
- CPMは“計算”
- CCPMは“現場の制約と心理”に対応した進化版
というイメージ。
▶ PMBOKプロセス群を完全整理|プロジェクト管理の基礎を体系的に理解する
(補足:プロジェクト全体の流れと管理領域を理解すると、CPMの位置づけがより明確になります)
まとめ
クリティカルパス法は「プロジェクトの最短工期を決める指標」
クリティカルパス法(CPM)は
- プロジェクトの最短工期を決める
- 遅れると影響が最も大きい経路を特定
- 計画・監視・遅延対策の基盤となる
という意味で、PMに必須の知識です。
さらにCCPMと組み合わせると、
“現場のリソース制約まで考慮した管理” ができるようになります。