プロジェクトマネジメント

WBS(作業分解)の作り方を完全解説|誰でも抜け漏れなくタスク化できる方法

WBS(Work Breakdown Structure / 作業分解構成図)とは、プロジェクトを「抜け漏れなく・重複なく」タスク化するための分解手法です。

プロジェクトを成功させるためには、「そもそも何をやるのか」を正しく分解しなければ、どれだけスケジュールや管理方法が優秀でも破綻します。

この記事では、

  • WBSの基本概念
  • 作成手順(5ステップ)
  • 実例(Web制作/システム開発/イベント)
  • よくある失敗と注意点
  • Excel/スプレッドシートでのテンプレート構成

をまとめ、誰でも実務レベルのWBSが作れるようになるための完全ガイドとして解説します。

この記事で分かる事

  1. WBS(作業分解構成図)の基本概念と役割
  2. 抜け漏れを防ぐためのWBS作成の原則(100%ルール・階層構造など)
  3. 成果物から逆算して作業を分解する5ステップ
  4. Web制作・イベントなどの実務で使えるWBS構造例
  5. Excel・スプレッドシートで作るWBS表のテンプレート構成
  6. WBS作成で起きがちな失敗(粒度・依存関係・成果物の曖昧さ)
  7. CPM/ガントチャートなど、WBSと相性が良い関連手法
  8. プロジェクトを成功させるためのWBS運用フロー(レビュー・更新方法)

目次

WBSとは?(一言で)

WBS(Work Breakdown Structure)とは、
プロジェクトを「上から下へ」階層構造で分解し、作業の全体像を漏れなく整理するための設計図のことです。

プロジェクトは大きな箱のままでは

  1. 何から着手すべきか
  2. 何が終わっていないのか
  3. どこにリスクがあるのか

が見えません。

そこでWBSでは、次のように段階的に細かく分けていきます。

  • フェーズ(大枠)
  • サブフェーズ(中分類)
  • 作業(小分類 / タスク)

このように階層的に分解することで、
プロジェクト全体が“木の幹→枝→葉”のように構造となって見えるようになります。

つまりWBSの目的は、
プロジェクトを構造化し、抜け漏れゼロのタスク一覧を作ること。
これができて初めて、正確なスケジュール・見積り・リスク管理が可能になります。


WBSを作るメリット

抜け漏れが消える(プロジェクト失敗の8割を防ぐ)

多くのプロジェクトが炎上する原因は、
派手なトラブルではなく “やるはずだった作業が後から出てくること” です。

  • 想定外の修正作業
  • 追加の確認工程
  • 誰も気づかなかった前提タスク

こうした「隠れタスク」は、
WBSで構造化しない限り、ほぼ確実に発生します。

WBSで作業を階層分解すると

「この作業の前に何が必要か?」
「成果物を完成させるには何が足りるか?」

が明確になり、タスク漏れを根本から防げます。


● スケジュール・見積り・リスク管理が一気に精度アップする

WBSは 計画の“土台” です。
これがなければ、正確なスケジュールも見積りも作れません。

WBSなしで見積ると

  • 作業時間が甘くなる
  • 想定外のタスクが途中で出てくる
  • 「やっぱりこれも必要でした」の連続
  • 結果:納期遅延・追加費用・炎上

WBSありの見積りは

  • 各タスクの所要時間が具体的に出る
  • 依存関係が見えるのでスケジュールが現実的
  • リスクの位置が明確になり事前対策ができる

つまりWBSは

工数見積り・スケジュール作成・リスク管理の前提データ

となり、計画の精度が段違いに上がります。


● メンバーの認識がそろい、コミュニケーションロスが激減する

WBSは「プロジェクトの共通認識表」です。

  • “誰が”
  • “何を”
  • “どこまで”
  • “いつまでに”
  • “どの成果物を作るのか”

が視覚化されるため、

  • 言った言わない問題
  • タスクの取りこぼし
  • 認識のズレ

といったコミュニケーションロスが激減します。

特に外部パートナーとのプロジェクトでは、
WBSが契約書より強い実務上の「共通言語」になります。


WBS作成の基本原則

WBSは「ただタスクを分解する作業」ではありません。
PMBOKでも強調されているように、プロジェクト計画の品質を左右する“設計工程”です。

特に重要なのが次の3つの原則です。


① 100%ルール(抜け漏れゼロの必須原則)

WBSでは、成果物に必要な作業を100%含めることが絶対条件。
1つでも漏れれば、後工程で必ず破綻します。

後から発覚する「想定外の作業」
“誰がやるの?” となる曖昧なタスク
誰も見ていなかった前提作業

こうした問題は、100%ルールが守られていない時に起こります。

成果物 → 必要作業を全て階層化して網羅する


これがWBSの核です。


② 階層構造で整理する(構造化で見通しが一気に良くなる)

WBSは「大きいものを小さくしていく」技法です。

フェーズ(例:設計)
サブフェーズ(例:画面設計/API設計)
タスク(例:WF作成/レビュー/修正)

このように階層を設けることで、
複雑なプロジェクトでも“森 → 木 → 枝 → 葉”の順に見える形になるため、

担当者の役割が明確になる
工数やリスクを粒度ごとに把握できる
ガントチャート/CPMへの連携が容易

といったメリットが生まれます。

階層化されていないWBSは、
ただの「やることメモ」であり管理に耐えません。


③ 作業ベース(アクティビティ)で書く(抽象語を排除)

WBSは「具体的な行動」に落とすことが必須です。

よくある失敗例:

×「要件定義」
×「会議する」
×「資料作成」

これらは抽象的で、
“何をもって完了とするのか” が不明確なタスクです。

WBSでは必ず

ポイント

誰が何をするかまで分解した活動レベル(アクティビティ)

で書きます。

例:

〇「ヒアリング実施」
〇「要求整理シート作成」
〇「要件定義書ドラフト作成」
〇「関係者レビュー実施」

このように具体化されて初めて、

工数を見積もり
リスクを把握し
依存関係を整理できる

“管理可能なWBS” になります。

WBSの作り方(5ステップ)

STEP1 プロジェクトの成果物(アウトプット)を定義する

WBSは「成果物」から逆算して作るのが正解です。

例:Webサイト制作

  • 仕様書
  • 設計書
  • デザインデータ
  • HTML/CSS/JS一式
  • テスト結果
  • 公開手順書

成果物が曖昧だと、後の階層が崩れます。

STEP2 成果物をフェーズに分割する

一般的なフェーズ例:

  1. 要件定義
  2. 設計
  3. デザイン
  4. 開発
  5. テスト
  6. リリース
  7. 運用・引き継ぎ

イベントの場合:

  1. 企画
  2. 会場選定
  3. 集客
  4. 当日運営
  5. アフターフォロー

「大きい塊」をまず箱にして並べるイメージです。

STEP3 フェーズを小さな作業に細分化する

ここがWBSの本番です。

粒度の目安:1作業が「数時間〜3日」で終わるレベル が理想。

例:デザインフェーズ

  1. トップページ構成案作成
  2. カラーパレット決定
  3. キービジュアル作成
  4. 下層テンプレ設計
  5. 修正反映
  6. 最終デザイン確定

STEP4 担当者・前提条件・制約を整理する

タスクの横に以下をセットします。

  1. 担当者
  2. 必要リソース
  3. 前提タスク
  4. 制約(レビュー必須・資料待ちなど)

WBSはタスク一覧だけでは不十分で、
管理できる形にするために 属性情報をセット します。

STEP5 WBSを表形式に落とし込む(Excel / スプレッドシート)

実務では表形式が最も扱いやすいです。


WBSテンプレ

| No | フェーズ | タスク | 詳細作業 | 担当 | 所要時間 | 依存関係 | 成果物 | 備考 |
|----|----------|--------|-----------|-------|-----------|-----------|---------|-------|
| 1  | 要件定義 | 要求整理 | ヒアリング実施 | PM | 1日 | - | 要件メモ | |
| 2  | 要件定義 | 要件定義書作成 | ドキュメント整理 | PM | 2日 | 1 | 要件定義書 | |
| 3  | 設計 | 画面設計 | WF作成 | UX | 3日 | 2 | WF一式 | |
  • そのままExcelに貼れる
  • ガントチャート・CPMの元データになる

実例:Web制作プロジェクトのWBS

フェーズ一覧

  1. 要件定義
  2. 情報設計
  3. デザイン
  4. コーディング
  5. テスト
  6. リリース準備

● 一部抜粋

要件定義
├── ヒアリング
├── サイトマップ作成
└── 要件定義書

設計
├── ワイヤーフレーム
├── ページ構成決定
└── UIガイドライン作成

デザイン
├── トップページデザイン
├── 下層ページテンプレデザイン
└── 画像素材作成

実例:イベント開催のWBS

企画
├── コンセプト策定
├── 予算計画
└── 登壇者リスト作成

会場準備
├── 会場選定
├── 見積取得
└── 契約

集客
├── LP制作
├── 広告準備
└── メール配信

WBS作成でよくある失敗(アンチパターン)

WBSは「作れば終わり」ではありません。
作り方を誤ると、むしろプロジェクトは混乱し、
“作ったのに役に立たないWBS”になってしまいます。

現場で頻発する典型的な失敗例を整理します。


● 作業の粒度が大きすぎる(=管理できないWBS)

工程名で止めるWBSは、ほぼ確実に失敗します。

×「デザイン」
×「コーディング」
×「テスト」

これでは

「どの作業にどれくらい時間がかかるのか?」
「どの順番で進めるべきか?」


が全く見えません。

粒度が大きいWBSは

ガントも作れない/CPMも計算できない/工数も曖昧


という三重苦に陥ります。

→ 目安:1タスク=数時間〜3日で終わるレベルまで分解する。


● 担当者と確認せずに作る(=現場が“知らない”WBS)

PMだけがWBSを作り、
現場メンバーに確認しないまま進めるのは最悪のパターンです。

現場「この作業、そもそも必要ありません」
現場「ここは別の工程が先です」
現場「このタスクはもっと工数がかかります」

— という“後出しの事実”がどんどん出てきて破綻します。

WBSは「管理者のための書類」ではなく、チーム全員で共有すべき“作業の真実”です。

→ 作成後に担当者レビューを必ず入れること。


● 成果物が曖昧(=タスクが無限に増える危険な状態)

WBSで最も多い根本問題は、
成果物が曖昧なままタスク分解してしまう」こと。

たとえば:

要件定義書の範囲が曖昧
デザインのアウトプットが不明確
テスト項目の基準があいまい
“今回はどこまで作るか”の線引きがない

成果物が曖昧なWBSは、
後から作業が追加 → 追加 → 追加…
と無限に膨らんでいきます。

→ まず成果物(Deliverable)を確定するのが絶対条件。


● 依存関係がセットになっていない(=スケジュールが作れない)

WBSは作って終わりではありません。
本来の価値は 「依存関係(どの作業がどれに先行するか)」 が決まった瞬間に発揮されます。

依存関係が曖昧だと、

スケジュールが組めない
クリティカルパス(CPM)が計算できない
どこが遅れると危険か判断できない
タスクを前倒し・後ろ倒しする判断ができない

つまり、ただの“タスク一覧表”で止まってしまうのです。

依存関係はWBSの“骨格”であり、これが決まって初めてプロジェクトが“動かせる”状態になります。

→ WBS完成後に、必ず前後関係(先行・後続タスク)を全て紐づけること。


WBSと相性がいい関連手法

WBSは単体では「作業の構造化」までが役割です。
しかし、プロジェクトは WBS → スケジュール → 管理 の流れで回す必要があります。

そのためWBSと組み合わせると強力になる手法を押さえておくと、
計画の精度も管理のスピードも格段に上がります。


● クリティカルパス法(CPM)

WBSで分解したタスクを 「どの順番で・どれくらいの期間で進めるべきか」 に落とし込むための手法。

どのタスクが納期に直結するか
どの作業を優先管理すべきか
どこに遅延リスクがあるか

を明らかにできるので、スケジュール管理の中核になります。

WBS(やることの構造) → CPM(時間構造)

という流れで使うと効果が最大化します。

タスク優先度の判断基準が明確になります。
▶ クリティカルパス法の基礎|タスク優先度の判断に役立つ


● PERT(Program Evaluation and Review Technique)

不確実性の高いプロジェクトで使う「所要時間の確率的な推定方法」。

WBSでは “何をするか” を整理しますが、
PERTは “どれくらい時間がかかるかのばらつき” を整理します。

楽観値(O)
最頻値(M)
悲観値(P)

から期待時間を出すため、
研究開発・新規事業・初めての技術領域などで特に有効です。

WBSだけでは見えない “見積りの不確実性” を補完します。


● ガントチャート(Gantt Chart)

WBSを実際のカレンダーに落とし込み、
「いつ・誰が・どのタスクを・どれくらいの期間で進めるか」 を可視化するための最強ツール。

WBSが木構造の「縦の設計図」だとしたら、
ガントチャートは「横の時間軸」を重ねた完成形のイメージ。

WBSの各行がそのまま横棒(バー)になるので、

スケジュールの重なり
担当者の負荷
進捗状況(色変化)
クリティカルパスの色分け

などが一目でわかります。

特に外部パートナーやクライアントへの状況説明で絶大な効果を発揮します。


WBS作成の最適な進め方(実務フロー)

  1. 成果物リストを作る
  2. 大分類(フェーズ)を洗い出す
  3. 小分類に分割
  4. 担当者・依存関係を整理
  5. WBS表(Excel/Spreadsheet)にまとめる
  6. 関係者とレビューし、修正
  7. ガントチャート化(必要ならCPM計算)
  8. 週次で更新し続ける

WBS作成に役立つツール(実務で使える定番)

WBSは紙やスプレッドシートでも作れますが、
ツールを活用すると 作成スピード・更新性・共有性 が格段に向上します。
ここでは、プロジェクト現場で実際に使われている代表的なツールを紹介します。


Excel/Googleスプレッドシート

もっとも手軽で、どの現場でも対応できる鉄板ツール。

  • 表形式で階層化しやすい
  • 計算式で工数や進捗を管理できる
  • ガントチャートの元データとして流用できる
  • メンバー全員が扱える

特に 小〜中規模のプロジェクトの初期WBS では最も使われる形式です。


Asana / Wrike / ClickUp / Notion

タスク依存関係・担当者割り当て・ガントチャート・通知など、
プロジェクト運用に必要な機能を一式備えたクラウド型ツール。

  • 依存関係管理が強い
  • タスクの進捗がリアルタイムで共有される
  • リソース計画・ガントチャートを自動生成
  • 中〜大規模のプロジェクトと相性が良い

特に Asana と ClickUp は、WBS → そのままガントチャートに変換できるため便利です。


Miro / FigJam(オンライン付箋ツール)

WBSの初期段階、「タスクの分解(ブレイクダウン)」で最強のツール。

  • 付箋感覚で無限に広げられる
  • チームで同時に意見を出せる
  • 優先順位や依存関係の整理がしやすい
  • 完成したら画像やCSVで書き出せる

最初に 全体像を粗く構成する段階 では、スプレッドシートより圧倒的に適しています。


実務でよく使われる関連サービス

(※自然な文脈での紹介に調整済み)

Udemy:プロジェクトマネジメント講座

WBSをきちんと体系的に学びたい人向け。
実務形式でWBS・WBS辞書・ガントチャートまで手を動かせます。

「WBSを場当たりではなく、体系的に作れるようになりたい」という読者と特に相性が良いサービス。

Microsoft 365

ExcelベースでWBSを運用する場合は、Microsoft 365 が最も効率的。

  • OneDriveで共有
  • 共同編集
  • バージョン管理

など、WBS・工数管理・ガントチャートの運用を一元化できます。

Notion AI

最初の「WBSの叩き台」を作るのに非常に便利。

  • タスク分解案を数秒で生成
  • リスト構造を自動化
  • WBS辞書のひな型作成にも使える

「まずは粗い構造を作りたい時」に活用できます。

Backlog(国産プロジェクト管理ツール)

日本語UI・日本企業の運用に最適化されており、PM初心者でも扱いやすい。

  • タスク管理
  • ガントチャート
  • 課題管理
  • Wiki管理
  • バーンダウンチャート

が揃っており、中小企業のプロジェクトと相性が良いです。


ツール選びだけでWBSの質が大きく変わる

  • Excel / スプレッドシート:誰でも扱えて柔軟
  • Asana / ClickUp:依存関係管理・ガント生成まで自動
  • Miro / FigJam:タスク分解フェーズで最強
  • Udemy / Microsoft 365 / Notion AI / Backlog:学習・運用・効率化を支援する補助ツール

プロジェクトの規模と目的に合わせてツールを使い分けることで、WBSの作成スピード・品質・更新性が圧倒的に向上します。


まとめ:WBSはプロジェクト成功の “土台” になる

  1. WBSはプロジェクトのタスクを構造的に整理する技法
  2. スケジュール・工数・リスク管理の基礎になる
  3. 100%ルールで抜け漏れゼロ
  4. 成果物 → フェーズ → タスクの順に分解する
  5. 実務ではExcel構成が最も使いやすく、CPMやガントへ連携しやすい

WBSがしっかり作られたプロジェクトは、その後のスケジュール遅延・工数ズレが圧倒的に減り、PMのコントロールが劇的に向上します。

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