はじめに
目的
本資料は、介護現場で働く方々が日常的に直面するリスクを正しく理解し、安全なケアを提供するための基本をまとめたものです。転倒・転落、誤嚥、服薬ミスなど具体的な事故事例を通して、予防と対応の考え方を学べます。
対象読者
介護職員、介護施設の管理者、介護に関わる家族など、介護現場で安全確保に関心のある方に向けています。専門知識がなくても理解できるよう、専門用語は最小限にし具体例で補足します。
本資料の構成と読み方
全5章で構成します。第2章でリスクマネジメントの基本を説明し、第3章でよくあるヒヤリハットや事故事例を紹介します。第4章で現場で使える実践方法を示し、第5章で具体的な低減対策を挙げます。まずは第1章で目的と全体像をつかんでください。
リスクマネジメントの重要性
介護は人と人の関わりから生じる業務です。小さな見落としが大きな事故につながるため、日常的な観察と情報共有が欠かせません。職員間で声をかけ合い、予防を習慣化することが、安全で質の高い介護につながります。
次章から具体的な考え方や事例を丁寧に解説します。
介護におけるリスクマネジメントの基本理解
リスクマネジメントとは
介護におけるリスクマネジメントは、事故やトラブルを事前に見つけ出し、原因を整理して防ぐ取り組みです。転倒や誤嚥、薬の取り違えなど日常的に起こり得る事象を対象にします。利用者の状態を評価する「アセスメント」と、実際に起きた「ヒヤリハット」報告の活用が中心です。
具体的に何をするか
- 予測:個々の利用者の健康状態や環境を確認します(例:歩行のふらつき、嚥下状態)。
- 評価:どれくらい危険かを判定し優先順位をつけます。
- 対策:転倒防止マット設置、食事形態の変更、投薬管理のチェックリスト作成など具体策を行います。
- 評価と改善:対策の効果を確認し、必要があれば見直します。
なぜ重要か
事故を減らして利用者の安全を守れます。組織としての安全対策が整うと、報酬面や法的リスクの軽減にもつながります。職員の負担軽減や安心して働ける環境づくりにも役立ちます。
日常でできる工夫
- 朝の申し送りで危険点を共有する
- ヒヤリハットを恐れず報告して傾向をつかむ
- 簡単なチェックリストを常備する
これらを習慣にすると、事故を未然に防ぐ力が確実に高まります。
介護現場でよくあるヒヤリハットと事故事例
転倒事故(浴室・廊下・送迎時)
最も多いのが転倒です。浴槽やシャワーチェアから起き上がる際に滑って転倒する例、廊下で足元がふらついて尻もちをつく例、送迎時に車の乗り降りで踏み外す例があります。具体例:滑りやすい床で足を滑らせ、手すりに届かず転倒した利用者。
転落(ベッド・椅子からの落下)
夜間に起き上がろうとしてベッドから落ちることが多いです。センサーマットで早めに気づいた事例や、夜間見回りで未然に防いだ事例もあります。具体例:足元が冷えて夜中にトイレへ行き、ベッドから転落した。
移乗時の事故(車椅子・トイレ移乗)
移乗中に車椅子のブレーキがかかっておらず、立ち上がりで後ろに倒れた事例や、介助の手順が合わず利用者が滑り落ちた事例があります。具体例:車椅子ブレーキの確認を忘れて立ち上がった瞬間に転倒した。
誤嚥・窒息事故
食事中のむせや小さな異物による窒息が発生します。声がかれたり、咳が止まらない場合は注意が必要です。具体例:大きめの固形物を飲み込もうとして気道を塞いだ。
誤薬・誤飲
薬の誤配や服薬タイミングの混乱で起こる事故に加え、認知症の利用者が危険物を誤って口にする例もあります。具体例:複数の錠剤が混ざり、誤って多量に服用してしまった。
各事例は日常の小さな見落としから起きます。次章で具体的な対策や現場ですぐ使える工夫を紹介します。
介護現場でのリスクマネジメント実践方法
4ステップの流れ
- 事例収集:過去の事故やヒヤリハットを集めます。
- 事例分析:原因や共通点を探してリスクを特定します。
- 対策立案:予防策を具体的に決めます。
- 共有:職員全員に周知し実行します。
各ステップの具体的なやり方
- 事例収集
- 事故記録やヒヤリハット報告を一覧にします。夜間の記録や家族からの聞き取りも含めます。
-
例:移乗時に滑った事例を日時・場所・担当者で整理。
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事例分析
- 「いつ」「どこで」「誰が」「何をしていたか」を簡潔に書き、原因をさかのぼります。
-
例:床が濡れていた、靴の滑り止めが不十分、介助手順が統一されていなかった。
-
対策立案
- 小さな対策から始めます(例:滑り止めマット設置、移乗手順の写真付きマニュアル)。
-
優先順位をつけ、担当者と実施期限を決めます。
-
共有と周知
- 朝礼や掲示板、短い記録シートで全員に伝えます。月1回の振り返りで効果を確認します。
- 研修やロールプレイで新しい手順を体験的に覚えさせます。
実践のコツ
- 小さな改善を積み重ねる。全てを一度に変えない。
- 現場の声を優先し、現場で使える対策を選ぶ。
- 効果を数値や写真で記録し、評価する。
- 責任を明確にして実行の抜けを防ぐ。
よくある落とし穴と対処法
- 共有が形だけになる:短時間の報告を定例化する。
- 対策が続かない:担当を決め、チェックリストで確認する。
- 個人任せになりがち:チームで支援し助け合う仕組みを作る。
実施と振り返りを繰り返すことで、現場の安全が徐々に高まります。
具体的なリスク低減対策
はじめに
リスク低減は複数の対策を組み合わせることが大切です。ここでは現場ですぐ実行できる具体策を分かりやすく紹介します。
多層防御の考え方
一つの対策に頼らず、重ねて守ることで事故を減らします。例:転倒対策は床環境整備+歩行補助具+見守り+排泄スケジュールの調整です。
環境対策(物理的整備)
- 床の滑り止めや段差解消、余計な物の撤去
- 手すりや夜間照明の設置、ベッド周りの整理
- 移乗用具・車椅子の整備と適切な配置
人的対策(教育と配置)
- 新人・既存職員とも定期的な研修
- 業務分担を明確にし適正配置を実施
- 日常の声かけやバイタル確認で変化を早期発見
手順・チェックリスト・記録整備
- 標準手順書を作成し実践
- 交代時の申し送りチェックリストを導入
- ヒヤリハット記録を習慣化し分析に生かす
テクノロジーの活用(補助的に)
- 見守りセンサーや通報システムを導入
- 電動介護機器は点検を定期実施
事故発生時の対応と学び
- まず利用者の安全確保と報告を行う
- 原因を職員で共有し再発防止策を決定・実行
導入時のポイントと継続改善
- 小さく始めて評価し拡大する
- 職員と家族の意見を取り入れ定期見直しする
現場で取り入れやすい対策を組み合わせ、日々の実践と振り返りを続けることが最も効果的です。