目次
はじめに
メンタリングとコーチングとは
メンタリングとコーチングは、どちらも一対一で相手の成長を支援する対話です。メンタリングは経験に基づく助言やキャリア支援が中心で、コーチングは相手の気づきを促し目標達成をサポートします。例えば、職場での先輩が長期的なキャリアを語るのがメンター、目標達成のために行動計画を引き出すのがコーチです。
なぜ違いを知る必要があるか
目的や進め方が異なるため、適切な支援を選ばないと期待する効果が得られません。組織で育成プランを作る人、上司や人事、自己成長を目指す個人にとって違いを理解することは重要です。
本資料の使い方
以降の章で「概要」「目的」「関係性」「進め方」「期間・対象」を順に比較します。最後に比較表を示しますので、自分の状況に合わせて選ぶ際の参考にしてください。
概要の違い
定義
メンタリングは経験豊富な先輩(メンター)が自身の経験や知識をもとに助言し、メンティのキャリアや人としての長期的な成長を支援する関係です。コーチングはコーチが質問や傾聴を通じて相手の中にある答えや可能性を引き出し、比較的短期の目標達成や行動変容を支援するプロセスです。
主な違い
- 役割:メンターは具体的な経験や判断を共有して導きます。コーチは問いかけを用いて本人の気づきを促します。
- 期間と焦点:メンタリングは長期でキャリア全般に関わることが多いです。コーチングは数回〜数ヶ月と短期で特定の課題に集中します。
- 手法:メンターは自身の体験、助言、人脈紹介などを提供します。コーチは目標設定、行動計画、振り返りを通して行動変容を支援します。
具体例
- メンタリング例:ベテラン社員が若手に昇進準備や職場での人間関係の築き方を継続的に教える。
- コーチング例:3ヶ月でプレゼン力を高めるために、週1回の練習とフィードバックで改善を図る。
目的の違い
概要
メンタリングとコーチングは成長を促す点で共通しますが、目的の焦点が異なります。メンタリングは個人の人生や職業全体に関わる成長を支援し、コーチングは明確な目標達成や課題解決に集中します。
メンタリングの目的
メンタリングは長期的なキャリア形成や職場適応、人間関係の築き方など「人としての成長」を目的とします。具体例としては、キャリアの方向性を一緒に考える、組織での振る舞い方を助言する、価値観や働き方を深掘りするなどです。関係は相談相手として続きやすく、経験に基づく助言が中心になります。
コーチングの目的
コーチングは短期から中期での明確な目標達成や行動の変化を目的とします。例は、売上目標の達成、プレゼン技術の向上、習慣の定着などです。コーチは質問やフィードバックを通して当人の気づきを促し、具体的な行動計画を作り進捗を確認します。
選び方の目安
目標が漠然としている、人生やキャリアの迷いを整理したい場合はメンタリングが向きます。達成したい成果が明確で、行動変容を短期間で促したい場合はコーチングが適します。両者を組み合わせることで、方向性と実行力を両立できます。
関係性・立ち位置の違い
非対称な関係(メンタリング)
メンタリングは一般に先輩と後輩、あるいはロールモデルと育成対象という非対称な関係になります。メンターはその分野や組織での経験を持ち、具体的な助言や経験談を提供します。評価や進路選択に影響を与えることがあり、長期的な関係になりやすい点が特徴です。例えば、ベテラン社員が若手に業界の知識や人脈の作り方を教える場面が典型です。
対等なパートナー関係(コーチング)
コーチングは基本的に対等なパートナー同士の関係です。コーチは必ずしもクライアントの専門分野に詳しい必要はなく、問いかけや対話の進め方といったプロセスの専門家として支援します。相手の気づきや行動変容を促すことを重視し、短期間で目標達成を目指す場合が多いです。例として、キャリアの方向性を自分で見つけたい人にコーチが質問を重ねて気づきを引き出す場面があります。
立ち位置の違いが与える影響
立場の違いは信頼関係やフィードバックの受け取り方に影響します。メンターは具体的なノウハウ提供や推薦ができる一方で、受け手は指示と受け止めやすいです。コーチは答えを与えずに自発的な解決を促すため、当事者の主体性が高まります。組織内ではメンターが同じ職場にいる場合が多く、コーチは外部や別部門の場合もあります。
実務上の注意点
役割を混同すると期待のズレが生じます。相談者が答えを求めているのか、自分で考えたいのかを確認してから手法を選ぶと効果的です。場合によってはメンタリングとコーチングを併用することも有効です。
進め方・アプローチの違い
基本的な考え方
メンタリングはメンターが自分の経験や判断を伝えて、具体的な助言や道筋を示します。コーチングは問いかけと傾聴を通じて、相手が自分で気づきや選択肢を見つけるプロセスを重視します。
メンターの進め方(具体)
- まず相手の状況を聞き、過去の経験や事例を交えて方向性を示します。
- 明確な答えや判断を与えることが多く、短期間での問題解決に向きます。
- フィードバックは具体的で、改善点や次の行動を提案します。
- 例:仕事のやり方や業界の慣習について「自分ならこうする」と助言する。
コーチの進め方(具体)
- 傾聴とオープンな質問で相手の考えを深めます。
- 答えを教えず、相手自身が選択肢や優先順位を見つけるのを助けます。
- 承認や要約で気づきを促し、行動計画は本人が主体的に決めます。
- 例:キャリアの軸を探るために価値観や目標を問い、本人の言葉で整理させる。
進行のテンポ・頻度の違い
- メンタリングは相談ベースで不定期に進むことが多く、状況に応じて即断即決の助言が出ます。
- コーチングは定期的なセッションを通じて少しずつ変化を促します。短期間で成果を出すより、自己理解の深化を目指します。
どちらを選ぶかの目安
- 具体的なノウハウや経験に基づく答えが欲しいときはメンターが向きます。
- 自分の考えを深めたい、主体的に決めたいときはコーチが適します。
注意点
- メンターは助言が押し付けにならないよう配慮してください。
- コーチは導きすぎて答えを与えないよう注意します。
場合によってはメンターとコーチの要素を組み合わせると、より効果的に進みます。
期間・対象の違い
概要
メンタリングは中長期で関わることが多く、成長を段階的に支援します。コーチングは短期で成果や習慣の変化に焦点を当てます。
期間の特徴
- メンタリング: 半年〜数年の継続が一般的です。定期的な面談や仕事への同行を通じてスキルや価値観の醸成を目指します。
- コーチング: 数回〜数カ月で区切ります。目標設定と振り返りを短いサイクルで行い、具体的な行動変化を促します。
対象の特徴
- メンタリング: 新入社員や若手、キャリア初期の人に向きます。基礎力や職務理解、キャリア観の形成を支援します。
- コーチング: 管理職やリーダー層、既に一定の役割やスキルを持つ人に適します。成果改善やリーダーシップ発揮など、具体的な変化を求める場面で使われます。
具体例
- メンタリング: 配属後の1年間、先輩が業務のコツや社内文化を伝える。
- コーチング: 3カ月の集中セッションで部下指導の手法を改善し、チームの目標達成率を高める。
留意点
組織は目的に応じて期間と対象を設計してください。両者を組み合わせることも有効です。
一目でわかる違い表
| 項目 | メンタリング | コーチング |
|---|---|---|
| 主な目的 | キャリアや人としての中長期的成長(例:職業観や価値観の形成) | 具体的な目標達成や課題解決(例:プロジェクトの目標達成) |
| 関係性 | 先輩と後輩、ロールモデルと育成対象。経験や助言を伝える関係 | 対等なパートナー。問いかけと傾聴で気づきを引き出す関係 |
| 進め方・アプローチ | 経験共有、助言、指導が中心(例:過去の失敗談を共有) | 質問と傾聴で考えを深める(例:ゴール設定や行動計画を明確化) |
| 期間 | 中長期(数ヶ月〜年単位) | 比較的短期(数回〜数ヶ月) |
| 対象 | 新人・若手・キャリア初期の人 | 実務経験者・管理職・即成果が求められる人 |
| 成果の尺度 | 成長の度合いや視野の広がり(例:進路変更や職務拡大) | 目に見える成果や達成度(例:KPI達成やプロジェクト完了) |
| フィードバック | 指導的で具体的な助言を行う | 質問で気づきを促し、本人の行動を引き出す |
| 進行役 | メンターが主導で方向性を示す | コーチがファシリテートし本人が答えを見つける |
簡単な使い分け例:新人で将来の方向性を考えたい場合はメンタリングを、短期間で成果を出す必要がある局面ではコーチングを選ぶと効果的です。