目次
はじめに

経営者の平均年収は「金額そのもの」を追いかけるのではなく、「自分の会社規模・立場に合っているか」で判断すべきです。
なぜなら、経営者という言葉の定義や企業規模が違うだけで、同じ「平均年収」という数字でも意味が大きく変わり、数字だけを見て判断すると簡単にズレてしまうからです。
実際、検索結果に出てくる経営者の平均年収は、社長と役員が混ざっていたり、上場企業と中小企業が同列に扱われていたりします。そのため、「思ったより高い」「自分は低すぎるのではないか」と感じても、それが正しい比較かどうかは別問題です。数字をそのまま受け取ると、必要以上に不安になったり、逆に安心しすぎたりすることがあります。これで本当に合っているのだろうか、そんな違和感を抱えたまま判断してしまうケースも少なくありません。
この記事では、経営者の平均年収という言葉の前提を整理しながら、数字をどう受け止め、どこを基準に考えるべきかを順序立てて確認していきます。年収が高いか低いかではなく、自分の会社にとって無理のない水準かどうかを見極める視点を持つことで、判断に振り回されずに済むようになります。
「経営者の平均年収」は誰の話?数字が食い違う一番の原因
社長と役員が同じ数字で語られている理由
経営者の平均年収として紹介される数字の多くは、実際には「役員報酬」の平均を元にしています。役員報酬には、社長だけでなく取締役や執行役員も含まれ、会社によっては創業者ではない役員の給与も混ざります。そのため、社長一人の年収を知りたい人にとっては、数字が必要以上に高く見えたり低く見えたりします。役員全体の平均だと聞いた瞬間、話がずれている気がする、そんな感覚を覚える人も多いはずです。
CEO・取締役まで含むと平均はいくらでもブレる
上場企業や外資系企業が含まれる統計では、CEOや高額報酬の取締役が平均値を大きく押し上げます。こうしたデータが混ざると、中小企業の社長が見ている現実とはかけ離れた数字になります。同じ「経営者」という言葉でも、前提条件が違えば比較対象として成立しません。ここまで差が出るなら比べる意味があるのか、そんな疑問が頭をよぎるのは自然なことです。
まず「自分はどの立場か」を確認しないと失敗する
平均年収を見る前に必要なのは、「自分がどの立場で、その数字を見ているのか」をはっきりさせることです。中小企業の社長なのか、役員報酬を受け取る立場なのか、それとも将来の目安として見ているのかで、参考にすべき数字は変わります。立場を曖昧にしたまま平均年収だけを見ると、無理な目標設定や不必要な不安につながります。そもそも比較の土俵が違っているのではないか、そう立ち止まって考えることが欠かせません。
経営者の平均年収は「いくらか」より「どう見るか」が重要
平均値が高く見えるのはなぜ?
| 経営者の年収帯 | 全体に占める割合(イメージ) | この層が平均に与える影響 |
|---|---|---|
| 500万円未満 | 約15% | 平均値を下げる影響は小さい |
| 500万〜800万円 | 約25% | 中央値を形成する中心層 |
| 800万〜1,000万円 | 約20% | 「現実的なボリュームゾーン」 |
| 1,000万〜1,500万円 | 約20% | 平均値を押し上げ始める |
| 1,500万〜3,000万円 | 約15% | 平均値を大きく引き上げる |
| 3,000万円超 | 約5% | 平均値を一気に跳ね上げる |
経営者(社長クラス)の平均年収は、おおよそ1,300万円〜1,700万円前後に収まるケースが多く見られます。この数字だけを見ると、「思ったより高い」と感じる人も少なくありません。平均という言葉が示すとおり、全体を一つの数値にまとめた結果ですが、その中にはごく一部の非常に高い報酬も含まれています。こんなに高い人ばかりなのだろうか、と頭の中で小さな疑問が浮かぶのは自然な反応です。
中央値を見ると?
| 年収帯 | 人数の集まり方(イメージ) |
|---|---|
| 〜500万円 | 少なめ |
| 500万〜800万円 | 多い |
| 800万〜1,000万円 | 最も多い |
| 1,000万〜1,500万円 | やや多い |
| 1,500万円超 | 少数 |
同じデータを中央値で見ると、状況は大きく変わります。中央値は、年収順に並べたときの真ん中にあたる数値で、800万円〜1,000万円前後が実態に近い水準になります。平均値と並べて見ると、その差に驚く人も多いはずです。これで同じ集計なのか、と一瞬立ち止まって考えてしまうほど、受け取る印象が変わります。
統計データとアンケート結果を同列に扱う危険性
平均年収の数字がさらに分かりにくくなる原因は、データの種類が混ざっていることです。国税庁などの統計データは網羅性が高い一方で、社長以外の役員報酬も含まれます。アンケート調査は実感に近い反面、高年収層が回答しやすい傾向があります。これらを同じ「平均年収」として並べると、数字のブレは避けられません。一体どこを基準に見ればいいのか、と迷ってしまう場面が出てきます。
この差が生まれる理由は、一部の高額報酬の経営者が平均値を大きく押し上げているためです。平均年収は目安にはなりますが、それだけで自分の状況を判断すると、必要以上に不安になったり、逆に安心しすぎたりします。平均と中央値を並べて見ることで、数字の意味を立体的に捉えられるようになります。
会社規模が違えば、経営者の年収が別物になる理由
| 会社規模の目安 | 経営者年収の現実的ゾーン | 読者が感じやすいズレ |
|---|---|---|
| 売上1億未満・少人数 | 500万〜800万円 | 「平均より低いのでは?」 |
| 売上1〜5億・10人前後 | 700万〜1,000万円 | 「中央値に近い」 |
| 売上5〜10億・数十人 | 900万〜1,300万円 | 「平均に近づく」 |
| 売上10億超 | 1,200万円以上 | 「平均より高く見える」 |
中小企業の社長が年収1,000万円を超えるライン
中小企業の社長が年収1,000万円を超えるケースは、売上の大きさよりも利益の安定性が影響します。売上が数億円あっても、固定費や人件費が重く、利益が薄ければ年収は抑えられます。一方で、売上規模がそれほど大きくなくても、利益率が高く、毎年安定して黒字を出している会社では、自然と報酬水準も上がります。売上だけ見て判断していなかっただろうか、そんな考えがふと浮かぶ場面です。
売上が伸びても年収が増えない会社の共通点
売上が伸びているのに経営者の年収が増えない会社には、共通して「お金が社内に残らない構造」があります。設備投資や借入返済、過剰な人員配置が続くと、利益は出ても現金が不足しがちです。その結果、報酬を増やす余裕がなくなります。数字上は成長しているのに、手元感覚がまったく楽にならない、そんな違和感を抱えた経験がある人も少なくありません。
同じ黒字でも年収差が出る決定的な違い
同じ黒字企業でも、経営者の年収に差が出る最大の要因は、利益の使い道です。内部留保を厚くする会社もあれば、役員報酬として一定額を安定的に支払う会社もあります。どちらが正しいという話ではなく、会社の成長段階と資金余力に合っているかどうかが重要です。他社と比べて低いのではないか、と気になったとしても、その背景を見ずに結論を出すとズレやすくなります。
業種別の平均年収は「高い業界探し」では意味がない
IT・製造・サービスで差が出る構造の違い
業種による平均年収の差は、単純な人気や景気ではなく、収益構造の違いから生まれます。ITは初期投資が比較的軽く、利益が積み上がりやすい一方、製造業は設備投資と固定費が重く、同じ売上でも手元に残るお金は少なくなりがちです。サービス業は人件費の比率が高く、拡大と同時にコストも増えます。業種名だけで高そうと判断して「本当に合っているのか」と考え直す瞬間が出てきます。
利益率が高くても年収が伸びない業種の落とし穴
利益率が高いと聞くと年収も高いと思いがちですが、実際にはそうならない業種もあります。市場が小さく成長余地が限られている場合、利益が出ても将来への備えを優先し、報酬を抑える経営判断が選ばれます。数字だけを切り取ると魅力的でも、現実は意外と慎重だと感じることがあります。
業種より「ビジネスモデル」で差がつく理由
同じ業種でも、ストック型かフロー型かで経営者の年収は大きく変わります。毎月安定収入が入るモデルは、報酬を一定に保ちやすく、単発収益に依存するモデルは年ごとの波が激しくなります。業種ランキングを眺めるよりも、自社のビジネスモデルを見た方が参考になると気づく場面も多いはずです。
平均より低くても、高すぎても危険な理由
年収が低すぎる経営者が陥りやすい判断ミス
経営者の年収が平均より低い状態が続くと、無意識のうちに個人の生活を削りすぎてしまいます。生活費を抑え、将来の不安を抱えたまま経営判断をすると、必要な投資や人材確保をためらいやすくなります。会社のためだと思って我慢してきたが、本当にこれで回っているのだろうか、そんな疑問が頭に浮かぶこともあります。
年収を取りすぎた結果、会社が苦しくなるケース
一方で、平均より高い年収を取り続けることも安全とは限りません。利益が出た年に報酬を引き上げすぎると、翌年の業績悪化や資金繰りに影響が出ます。税金や社会保険料の負担も重くなり、結果として会社のお金が先に細ってしまうことがあります。今は大丈夫でも、来年も同じ水準を維持できるのかと考える瞬間が訪れます。
「平均からズレている状態」を放置する本当のリスク
年収が低すぎても高すぎても、その状態を見直さずに放置することが最大のリスクです。ズレが続くと、会社の成長段階と報酬のバランスが崩れ、経営判断が歪みやすくなります。平均と比べる目的は、安心するためでも焦るためでもなく、軌道修正のきっかけをつかむためだと気づくと、見方が変わります。
経営者の年収は「いくら欲しいか」で決めると失敗する
売上・利益・キャッシュ、どれを基準に考える?
経営者の年収は、売上ではなく利益とキャッシュの状態から決まります。売上が伸びていても、利益が薄く現金が残っていなければ、報酬を上げる余裕はありません。逆に、利益とキャッシュが安定していれば、売上規模が小さくても無理のない年収水準を保てます。売上だけ見て安心していなかったか、そう自分に問い直す場面が出てきます。
税金だけを見て報酬を決めると何が起きる?
税金を減らすためだけに役員報酬を抑えると、手元に残るお金が少なくなり、生活面の不安が大きくなります。一方で、税金を気にせず報酬を上げすぎると、社会保険料を含めた負担が重くなり、結果として会社の資金繰りを圧迫します。節税のつもりが逆効果になっていないか、そんな疑念がふと浮かぶこともあります。
安全に年収を決めている経営者の共通点
年収を安定させている経営者は、短期の業績ではなく、数年単位での利益とキャッシュの流れを見ています。好調な年でも急に報酬を引き上げず、悪化した年でも極端に下げないことで、会社と個人の両方を守っています。このバランス感覚があれば、年収に振り回される感覚は薄れていきます。これくらいの水準が一番落ち着く、と感じられる状態が続くのです。
今の年収は妥当?自分で判断できる3つのチェック
同規模・同業と比べてズレていないか
自分の年収が妥当かどうかを見るときは、全国平均ではなく、会社規模と業種が近い経営者と比べる方が現実的です。売上や従業員数が大きく違えば、同じ「経営者」でも前提条件がまったく異なります。数字だけを見て一喜一憂していたが、比べる相手が違っていたのではないか、そう感じることもあります。
会社と個人のお金が無意識に混ざっていないか
年収の妥当性を判断するうえで見落としがちなのが、会社のお金と個人のお金の境界です。報酬を抑えているつもりでも、私的な支出を会社で処理していれば、実質的な受け取りは変わってきます。逆に、個人で立て替えが多いと、数字以上に負担を感じます。きちんと分けられているかと考えたとき、少し引っかかる感覚が出る人もいます。
来年も同じ年収を払える状態か
今の年収が妥当かどうかは、今年だけでなく来年も同じ水準を維持できるかで判断できます。一時的な好調を前提にした年収は、業績が少し崩れただけで重荷になります。来年も問題なく払えるかを考えると、自然と無理のない水準が見えてきます。ここまで考えてみて初めて、今の数字に納得できるかどうかがはっきりします。
まとめ
経営者の平均年収は、高いか低いかを競うための基準ではありません。
大切なのは、会社の規模・業種・資金状況に対して、その年収が無理のない水準かどうかです。
社長と役員が混ざった数字や、平均値だけを見て判断すると、不安になりすぎたり、逆に安心しすぎたりします。平均より低くても問題ないケースは多く、反対に平均より高くてもリスクを抱えている場合があります。年収は結果であって、目的ではありません。ここを取り違えると、経営判断そのものが歪みやすくなります。
数字を見るときは、「誰の年収か」「どの規模の話か」「来年も続けられるか」を一つずつ確認することが欠かせません。この視点を持てば、平均年収という言葉に振り回されることはなくなり、自分と会社にとってちょうどいい水準が自然と見えてきます。