プロジェクトマネジメント

CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)とは?納期遅延を防ぐ方法

目次

クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント(CCPM)とは何か?
基本の仕組みと効果

★CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の仕組み・CPMとの違い・導入ステップまで解説★

クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント(CCPM)は、「納期通りに終わらない」「思ったよりコストが膨らむ」といったプロジェクト現場の悩みを、バッファ管理で解決する手法です。

従来のCPM(クリティカルパス法)よりも、実際のボトルネック(制約)とリソースの競合にフォーカスしているのが大きな特徴です。

この記事では、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の基本から、CPM(クリティカルパス法)との違い、どんなプロジェクトに向いているか、導入の具体的な進め方までを整理して解説します。

この記事でわかること

  • CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の基本概念と理論的背景
  • 従来手法(CPM:(クリティカルパス法))との違いと、なぜ今CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)が注目されるのか
  • プロジェクトバッファを軸にした進捗管理の仕組み
  • CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)が向いている業務分野・向いていない業務分野
  • 導入時のメリット・デメリット・失敗しがちなポイント
  • 現場で使えるCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)導入のステップと簡易事例

 

CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)とは何か?
制約に着目するプロジェクト管理手法

CCPM(Critical Chain Project Management:クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)は、プロジェクトの中で「一番ボトルネックになりやすい連鎖(クリティカルチェーン)」に着目し、そのチェーンを中心にスケジュールとリソースを最適化する管理手法です。

背景にある理論は「制約理論(TOC:Theory of Constraints)」です。
制約理論では、組織やプロジェクト全体のパフォーマンスは、最も弱い部分=制約によって決まると考えます。したがって

・その制約を特定し、
・制約が最大限働けるようにリソースとスケジュールを設計し、
・他の部分は制約に合わせて調整する


ことで、全体のスループット(完了量)を最大化していきます。

CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)ではその考え方をプロジェクト管理に適用し

・タスクの依存関係だけでなく
・人や設備といった「リソース競合」
・遅れを吸収するための「バッファ」


を一体で設計することで、納期遅延のリスクをコントロールします。

CPM(クリティカルパス法)やPMBOKなど、プロジェクト管理の基本を合わせて理解しておくと、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の位置づけがよりクリアになります。


PMBOKプロセス群を完全整理|プロジェクト管理の基礎を体系的に理解する
CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)が扱う「制約」「スケジュール」「リソース管理」の基礎となる PMBOKの全体像を一度確認しておくと理解が深まります。


CPM(クリティカルパス法)との違い
どこを見るか・どうバッファを置くか

従来よく使われるのがCPM(Critical Path Method:クリティカルパス法)です。
CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)は、CPM(クリティカルパス法)と似た点もありますが、狙っているポイントと管理の軸が異なります。

■ ① タスクの管理軸の違い

・CPM(クリティカルパス法)
 – タスク同士の「順番・依存関係」に着目
 – 最も長く時間がかかる経路=クリティカルパスを重視
 – 原則として「リソース(人・設備)は十分ある」前提でスケジュールを考えがち

・CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)
 – 「誰が・どの設備が・いつどのタスクに入れるか」というリソースの制約に着目
 – リソースの競合まで考慮した最も時間のかかる連鎖=クリティカルチェーンを重視
 – 現実の「人も機械も限られている」状況を前提に計画する

■ ② スケジュールの組み立て方の違い

・CPM(クリティカルパス法)
 – 各タスクに開始日・終了日を細かく決め、ガントチャートで管理
 – 「計画通りに遅れなく進める」前提で組み立てやすい

・CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)
– クリティカルチェーン全体の流れを決め、そこにリソースを集中させる
– 個々のタスクの日付より、「チェーンを途切れさせないこと」を重視
– 遅れはバッファで吸収し、必要になった時点で対策を打つ

■ ③ バッファ(余裕時間)の考え方の違い


・CPM的(クリティカルパス法)な運用では:

 – 各タスクに「念のため」の余裕をそれぞれ持たせることが多い
 – 結果として、全体の工期は長くなりがち
 – 余裕があると人は「まだ大丈夫」と先延ばししやすく(学生症候群・パーキンソンの法則)、結局その余裕を使い切る

・CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)では:

 – 各タスクの余裕をできるだけ削り、「ギリギリの見積もり」でチェーンを作る
 – 代わりに、プロジェクトの最後に「プロジェクトバッファ」として大きな余裕をまとめておく
 – 遅れが出たタスクは、このバッファから時間を“切り崩して使う”運用にする

この「バッファの集約」が、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の一番大きな特徴です。

CPM(クリティカルパス法)の前提を理解しておくと、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)がどこを改善する手法なのかがはっきりします。

クリティカルパス法(CPM)とは?仕組み・計算法・実務での使い方をわかりやすく解説
CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)と比較するときに必須となる「クリティカルパス」の考え方を丁寧に整理しています。


CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の仕組み
プロジェクトバッファで進捗を管理する

CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)では、進捗の見方そのものを変えます。
従来は「タスクごとの予定日と実績日」を見るのが中心でしたが、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)では「バッファの消費状況」を重視します。

■ プロジェクトバッファとは?

・クリティカルチェーンの最後(納期の直前)に置く、プロジェクト全体の余裕時間
・途中タスクにあった“バラバラの余裕”をかき集めて、ここにまとめたもの
・途中で遅れが出たら、その分だけバッファを消費して納期を守る考え方

▼簡単なイメージ例

タスクA:本来10日だが、安全を見て14日と言いたい
タスクB:本来8日だが、安全を見て11日と言いたい
タスクC:本来6日だが、安全を見て8日と言いたい

従来:

・A:14日、B:11日、C:8日 → 合計 33日

CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)では:

・「うまくいけばこのくらい」として本来の時間(10日+8日+6日=24日)でチェーンを組む
・各タスクの“安全分” 4+3+2=9日 をまとめて「プロジェクトバッファ:9日」として最後に置く

■ 進捗の見方:バッファ消費率で判断する


CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)では、

・「どれだけタスクが進んだか(進捗率)」と
・「どれだけバッファを使ったか(バッファ消費率)」


の2軸でプロジェクトの健全性を見ます。

例:

・進捗 50%完了、バッファ消費 20% → かなり順調(緑)
・進捗 50%完了、バッファ消費 50% → 注意(黄)
・進捗 50%完了、バッファ消費 80% → 危険(赤)

このように、バッファの残り方を“メーター”として使い、遅れが大きくなる前に手を打つのがCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の管理スタイルです。

納期遅延を防ぐには、バッファをどのように管理するかが重要です。

プロジェクト納期を守る進捗管理術|遅延を防ぐための実務フレームワーク
CCPMで活用する「バッファ消費率」と相性の良い、納期管理の実務的な方法をまとめています。


CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)が向いている業務・向かない業務

■ 向いている業務(プロジェクト型・タッチタイムが多い仕事)

・ソフトウェア開発、システム導入プロジェクト
・新製品開発、設備導入・工場のレイアウト変更
・注文住宅や受注設計など「毎回条件が違う」案件
・社内の業務改革プロジェクト、DXプロジェクト など

これらの仕事は

・タスクが毎回変化し、
・人や設備のリソースが限られ、
・予期しない遅れが発生しやすい


という特徴を持っています。
このような環境では、バッファ管理とリソース集中が大きな効果を発揮します。

■ 向かない業務(量産・ルーチン型の仕事)

・同じ製品をひたすら作る量産ライン
・手順が完全に決まっている定型事務処理
・タスク時間がほぼ変動しない自動処理

こういった業務は

・工程管理や自動化、標準作業の徹底の方が効果的で、
・CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)のような「バッファを積極的に設計する手法」はオーバースペックになりがちです。

プロジェクトの種類によって、適切な管理手法は変わります。

要件定義の基本と進め方|プロジェクトを失敗させない準備のすべて
要件定義の段階でスケジュール・制約を明確にすると、CCPMの効果を最大化できます。


CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)導入のメリット
納期・コスト・心理面の3つに効く

納期遵守率が高まる

・バッファをまとめて管理することで、「どこまで遅れても間に合うか」が明確になります。
・バッファの消費を早期に検知できるため、納期直前になってから慌てる、という事態を減らせます。

リードタイム(完了までの期間)の短縮

・各タスクにバラバラに持たせていた“盛られた余裕”を削るため、計画上の工期は短くなります。
・実際の導入現場でも、20〜30%程度のリードタイム短縮が報告されるケースがあります(規模やプロジェクト特性によります)。

品質・コスト・納期のバランス改善

・バッファ消費を通して問題点が早めに見えるようになるため、
 – 無理な残業で押し切る
 – 品質を犠牲にして間に合わせる


といった“最後の力技”に頼らず、早い段階で調整・軌道修正ができます。

・結果として、品質・コスト・納期の三要素のバランスが取りやすくなります。

メンバーの心理的負担の軽減

・「タスクを早く終わらせると、次から見積もりを削られる」といった不信感が減り、
・「バッファは全体のもの」「使って良い前提」という共通認識を作ることで、
 学生症候群やパーキンソンの法則を抑えつつ、前倒しの行動を促せます。

経営レベルでの応用可能性

・プロジェクト単位だけでなく、部門予算にもCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)的な発想を応用できます。
 – 各部門が“安全を盛った予算”を個別に持つのではなく、
 – 一律数%を会社全体の「経営バッファ」としてまとめる


といったやり方は、「どこかの部門がコケても全体としては目標を達成する」ための仕組みとして機能します。


CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)のデメリット・導入が失敗しがちなポイント

部門間・組織間の協力が不可欠


・CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)は「全体最適」が前提の手法です。

 – 部署ごとにサイロ化している
 – 他部署の遅れは知らない/手伝わない


という文化が強い組織では、メリットを十分に発揮しにくくなります。

バッファに対する誤解


・バッファを「絶対に使ってはいけないもの」と捉えてしまうと

– 遅れを正直に報告しない
– 見かけ上の進捗だけを合わせにいく

といった歪みが生じます。

・逆に「バッファは使い切っても良い」と理解されすぎると、浪費の温床にもなります。

→「バッファは使うためにあるが、減り方によって早めに対策する指標でもある」という位置づけを、マネジメントから丁寧に説明する必要があります。

▶現場からの“時間を削られる”感覚による反発


・タスク見積もりから安全余裕を削るため

 – 「結局、現場にしわ寄せが来ているだけでは?」

と受け取られやすい側面があります。

・導入時には、

 – 「個々のタスクから余裕を引き上げて、全体の安全として戻している」
 – 「バッファを使うこと自体は悪いことではない」

ことを繰り返し伝えることが重要です。

ツール・可視化の仕組みがないと形骸化しやすい


・バッファ消費状況やクリティカルチェーンの状況が見えないと

 – 単なる“きつい見積もり”だけが残ってしまう

可能性があります。

・最低限

– バッファ残量と進捗率を色分けするダッシュボード
– 週次・日次の確認ミーティング

など、運用の枠組みもセットで整える必要があります。


CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)導入のステップ
現場で使えるシンプルなやり方

ここでは、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)的な考え方をプロジェクトに導入する際の基本ステップを、シンプルにまとめます。

ステップ1:WBSでタスクを分解する

・まずは従来どおり、プロジェクトをWBSで細かいタスクに分解します。
・この段階では、「漏れのないタスク分解」を優先します。

CCPMの前提となる「漏れのないタスク分解」はWBSで行います。

WBS(作業分解)の作り方を完全解説|誰でも抜け漏れなくタスク化できる方法
タスク分解の精度が高いほど、クリティカルチェーンの特定精度も上がります。

ステップ2:正規の計画(HP:Highly Possible)を作る

・各タスクに対して、「普通にやればこのくらい」という安全側の見積もりを出し、
・それを積み上げたものを「正規の計画(対外的に約束する工期・コスト)」とします。

ステップ3:ぎりぎりの計画(ABP:Aggressive but Possible)を作る


・同じタスクを、「順調に行った場合」を想定して見積もり直します。

 – 目安として、正規見積から一律20〜30%を削る
 – もしくは「完了確率50%くらい」の感覚で見積もる

・それらを積み上げたものが「ぎりぎりの計画(内部目標)」です。

ステップ4:正規計画とぎりぎり計画の差をバッファにする


・プロジェクト全体で

正規の計画(HP) − ぎりぎりの計画(ABP) = プロジェクトバッファ
とし、この差分を納期前にまとめて置きます。

・必要に応じて

– クリティカルチェーン以外の経路に「フィーディングバッファ」
– リソースの負荷が集中する手前に「リソースバッファ」

などを配置しても構いません。

ステップ5:進捗とバッファ消費を定期的にレビューする


・週次・日次で

– どのタスクがどこまで進んでいるか
– 予定に対して何日分のバッファを消費したか


を確認します。


・「進捗率」と「バッファ消費率」から

– 緑(問題なし)
– 黄(注意)
– 赤(要対策)


を判断し、赤に近づいた段階でリソース追加・スコープ調整などの対策を検討します。


簡易事例イメージ
ソフトウェア開発プロジェクトへの適用

例:6ヶ月規模のソフトウェア開発プロジェクト

・要件定義 → 基本設計 → 詳細設計 → 実装 → テスト → リリース
・従来は、各工程がそれぞれ余裕を乗せて見積もっていたため、計画工期は「8ヶ月」になっていたとします。

CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)導入後:

各工程の「安全分」を分解

 – 要件定義:1.5ヶ月 → 本来1ヶ月+余裕0.5ヶ月
 – 基本設計:1.5ヶ月 → 本来1ヶ月+余裕0.5ヶ月
 …といった形で、安全分を特定

「本来必要な時間」のみでクリティカルチェーンを組む
 – 合計6ヶ月を「ぎりぎりの計画」として設定

余裕分を合算し、プロジェクトバッファとして最後に配置
 – 余裕合計 2ヶ月 → プロジェクトバッファ 2ヶ月

対外的には「8ヶ月のプロジェクト」としてコミットしつつ、
 – 内部的には6ヶ月で完了を目指し、
 – 途中の遅れは2ヶ月のバッファで吸収

結果として

・大きなトラブルがなければ6〜7ヶ月でリリースできる可能性が高まり、
・仮に問題が発生しても、2ヶ月のバッファ内で調整しやすくなります。

実務では見積もり精度がプロジェクト成功を大きく左右します。

プロジェクト工数の見積もり方|PMが使う3つの実務手法と精度を上げるコツ
CCPMの「正規計画」と「ぎりぎりの計画」の見積もりにも応用できる内容です。


まとめ
CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)は「余裕を見える化して使い切るための仕組み」

CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)は

・タスクごとに分散していた“なんとなくの余裕”を、
・プロジェクト全体のバッファとして設計し直し、
・そのバッファの消費状況を指標に、納期リスクをコントロールする手法です。

従来のCPM(クリティカルパス法)との違いは

・「制約(ボトルネック)とリソース競合」に正面から向き合うこと
・「バッファをまとめて管理する」ことで、先延ばしの心理を抑えつつ工期短縮をねらうこと


にあります。

大型システム開発や新製品開発など

・一度きり・毎回条件が違う
・人や設備が限られている


といったプロジェクトでは、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)は強力な選択肢になります。

「納期を守りたい」「リードタイムを短縮したい」「現場の負担を減らしたい」こうした課題を感じているなら、まずは一つのプロジェクトから


・バッファを集約して設計する
・バッファ消費率と進捗率でプロジェクトを見てみる

ことから始めてみると、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)の効果を実感しやすいはずです。

コスト・納期・要件がズレると、どんな管理手法を使ってもプロジェクトは失敗しやすくなります。
外注トラブルを防ぐ見積書の読み方|プロジェクト失敗を防ぐ実務ポイント
見積書の読み違いは、納期遅延やリソース不足の原因になりやすいため、CCPMと相性の良いテーマです。

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