リーダーシップとマネジメントスキル

介護現場のリスクマネジメントとは?事例・原因分析・実践対策をやさしく解説

目次

はじめに

介護の現場には、日々さまざまな事故やヒヤリとする場面があります。転倒や誤嚥、誤薬、夜間の見守り不足など、どの施設でも起こりうるリスクが存在します。本記事では、こうした事故を防ぐためのリスクマネジメントの基礎と、現場でそのまま使える対策をやさしく整理してご紹介します。

この記事は、介護職員の方はもちろん、施設管理者や新人スタッフ、介護に関わる家族の方にも役立つ内容を意識しています。専門的な言葉は可能な限りわかりやすく説明し、「なぜ必要なのか」「どう取り組めば良いか」を丁寧に解説します。

読み進める中で、よく起きる事故の例や、その背景にある原因、改善の具体的な方法を知ることができます。また、日常業務で実践できるチェックポイントや、施設で共有しやすい考え方も紹介します。

このあと、第2章ではリスクマネジメントの基本から整理し、第3章で介護現場の典型的な事故例、第4章で実際の取り組み方を順に解説します。最後には、現場に定着しやすい改善のヒントもまとめています。

日々の業務で「これは危ないかもしれない」「どうしたら防げるのだろう」と感じている方にとって、少しでも安心と具体的な行動につながる情報になると幸いです。

介護のリスクマネジメントとは

介護のリスクマネジメントとは、事故やトラブルを未然に防ぎ、安全なケアを提供するために取り組む仕組みづくりのことです。介護の現場では、転倒、誤嚥、誤薬、移乗時の事故など、多くのリスクが日常的に存在します。これらを「発生する可能性のある課題」として捉え、早めに気づき、改善していくことが大切です。

まず大切な考え方は、事故は職員の注意不足だけが原因ではなく、環境や手順、情報共有の不足など、複数の要因がかかわって起こるという点です。そのため、個人の努力に頼るのではなく、施設全体で安全を支える仕組みを整えること がリスクマネジメントの中心となります。

具体的には、以下のような取り組みが含まれます:

  • 利用者の状態やリスクの把握
  • ヒヤリハットの記録と共有
  • 手順書やチェックリストの整備
  • 環境の点検と福祉用具の活用
  • 職員間の連携や研修の実施

これらは、「事故を防ぐ」という目的だけでなく、事故が発生した場合の対応や、再発防止の仕組みづくりにもつながります。
リスクマネジメントは、日常の小さな気づきを形にしていく積み重ねであり、介護の質と利用者の安心を支える重要な土台です。

今なぜ介護にリスクマネジメントが必要なのか

介護の現場では、利用者の身体機能や認知機能が変化しやすく、日々の状況によってリスクが大きく変わります。

その中で安全を確保するには、偶発的な事故を減らすだけでなく、事故が起こる前に気づき、備える仕組みが欠かせません。
近年、介護でのリスクマネジメントの重要性がより強く求められている理由には、次の3つがあります。

① 利用者の生活と安全を守るため

介護を必要とする方は、転倒や誤嚥などのリスクが高い状態にあります。事故は身体への影響だけでなく、その後の生活の質にも関わります。リスクマネジメントによって、日常の中に潜む小さな危険を早期に見つけ、本人に合った安全な支援を行うことができます。

② 職員の心理的負担や離職リスクを減らすため

事故が起きたとき、「自分のせいではないか」と感じてしまう職員は少なくありません。責任を個人に向ける職場では、職員が萎縮し、報告や共有が進まない悪循環が生まれます。リスクマネジメントの取り組みは、事故を「仕組みの課題」として捉え、職員が安心して働ける環境を整えることにもつながります。

③ 経営リスクや法的責任を避けるため

介護中の事故は、利用者や家族とのトラブルにつながり、賠償責任や施設の評価低下に直結することがあります。事故が起きた際に、適切な対応や説明ができる体制があるかどうかは、施設の信頼に大きく影響します。日頃からの安全対策や記録が、経営の安定にも役立ちます。

このように、リスクマネジメントは単に事故防止のためだけではなく、利用者の安心、職員の働きやすさ、そして施設の健全な運営を支える重要な取り組みです。

介護現場でよく起きる事故とヒヤリハット

介護の現場では、日常の中にさまざまな事故のきっかけが潜んでいます。
その多くは、少しの見落としや状況変化から発生し、どの施設でも起こり得るものです。ここでは、特に頻度が高く影響の大きい事故例を整理し、背景にあるリスクを理解しやすい形でまとめます。

● 転倒や転落

浴室、廊下、ベッドや椅子からの立ち上がりなど、さまざまな場面で発生します。
滑りやすい床、環境の変化、認知機能低下、焦りや不安などが影響し、予想外のタイミングで起こることがあります。

● 移乗時の事故

車椅子への移乗やトイレ介助の際などに多く見られます。
支え方の違い、利用者の体調変化、職員の判断や手順の違いが重なると事故につながります。

● 誤嚥や窒息

飲み込み機能の低下や食事中の姿勢、食形態の不一致などが影響します。
食事のスピードや声かけなど、日頃の支援方法が安全に大きく関わります。

● 誤薬や誤飲

薬の受け渡し時の確認不足や、服薬準備の環境要因が原因になることがあります。
薬の取り扱いやチェックの仕組みが整っていない場合、発生しやすいリスクです。

● 夜間の事故や無断離棟

夜間は人手が少なく、利用者も不安定になりやすい時間帯です。
転倒や徘徊などのリスクが高まり、見守りや環境整備の重要性が大きくなります。

これらの事故は、どの施設にも共通して発生する可能性があり、「特別な状況だから起きた」のではなく、日常の延長線上にあることが特徴です。

事故の種類を知ることは、「どこに気を付けるべきか」を理解し、現場での観察や対策につながる第一歩となります。

事故が起きやすい背景と共通する気づき

介護現場で起きる事故は、単なる偶然ではなく、いくつかの共通した背景や流れがあります。
これを理解しておくことで、「なぜ起きたのか」「どこに注意すべきか」が見えやすくなり、再発防止に役立ちます。

● 小さな兆候の見逃し

事故の多くは、急に起きたように見えて、実は事前に兆しがあります。
歩行が少し不安定になっている、食事のペースが以前より遅い、夜の落ち着きがないなど、
ほんの小さな変化に気づけるかどうかが重要です。

● 経験からくる過信

「いつもできているから大丈夫」という思い込みが、注意を薄めることがあります。
慣れが油断につながり、確認や声かけが省略される場面は少なくありません。

● 申し送りや情報共有の不足

利用者の状態や注意点が共有されていないと、
別の職員が知らないまま支援を行い、事故のきっかけになることがあります。

● 人手不足による手順の省略

忙しい時間帯や夜勤では、手順や観察が省かれてしまうことがあります。
「本当はこうしたいけれど、時間がない」という状況が事故のリスクを高めます。

こうした要因はどの施設でも共通しており、事故の背景には個人や一瞬の判断だけでなく、職場全体の体制や習慣が影響しています。

事故が起きたときには、誰かのミスを責める前に、なぜその状況が生まれたのか、仕組みの視点で振り返ること が再発防止の第一歩です。

介護現場でのリスクマネジメントの進め方

リスクマネジメントは、特別な仕組みではなく、日々の業務の中に組み込んで進めていくものです。
ここでは、現場で実践できる分かりやすい流れを4つのステップに整理します。

● ① 事例の収集と記録

ヒヤリハットや事故が起きた際には、「どこで」「いつ」「何が起きたか」を簡潔に記録します。
小さな気づきでも共有する体制があると、予防につながりやすくなります。

● ② 原因分析と背景の理解

記録した事例を振り返り、「なぜ起きたのか」「どんな状況が背景にあったのか」を整理します。
人の状態、環境、道具、手順など、複数の視点から考えることで本質が見えてきます。

● ③ 対策の検討と実行

原因が明らかになったら、小さな改善から始めていきます。
例として、声かけの工夫、手すりの位置変更、チェック表の追加など、現場の負担にならない対策が効果的です。

● ④ 共有と教育の定着

実施した対策は、職員同士で共有し、新人教育やミーティングの場に取り入れていきます。
改善策が繰り返されることで、職場に安全の習慣が根づきます。

● ⑤ 振り返りと改善のサイクル

対策がうまくいったかどうかを定期的に確認し、必要があれば見直していきます。
このサイクルを続けることで、事故が減り、組織としての成長につながります。

リスクマネジメントは一度整えれば終わりではなく、日々の小さな改善を積み重ねていく活動です。
誰か一人ではなく、職員全員で取り組むことで、より安全な介護環境が実現できます。

現場でできるリスク低減策

リスクマネジメントを進めるうえで重要なのは、「小さな工夫を積み重ねること」です。
ここでは、どの施設でも取り組みやすい具体的な方法を整理します。

● 環境を整える(床・照明・設備)

・滑り止めマットの活用
・手すりや補助具の適切な配置
・夜間は足元の照明を確保
・ベッド周りの物を整理し、転倒の原因を減らす

こうした環境整備は、利用者にとって安心感につながります。

● 職員の配置と声かけを工夫する

・移乗や排泄介助の際は声かけを行う
・状態変化がある利用者は、重点的に観察する
・急ぎの場面でも丁寧さを意識する

人の関わり方が、安全性に大きく影響します。

● 手順やチェックリストを整える

・申し送りのポイントを整理する
・薬の受け渡しや食事介助の確認項目を作る
・夜勤や新人職員が迷わない手順書を整える

手順を明確にすることで、ミスを減らす効果があります。

● 記録・報告の仕組みをつくる

・ヒヤリハットをため込まず共有する
・事故内容や背景を簡単に記録できる様式を用意する
・情報共有の時間を確保する

これにより、事故の背景を理解しやすくなります。

● 見守りや支援の技術を使う

・移乗や体位変換に介助用具を使う
・状態の変化を早期に把握するため観察を習慣化する
・見守りシステムやセンサーを補助的に利用する

テクノロジーをうまく組み合わせることで、負担の軽減にも役立ちます。

● 事故が起きたときの対応と振り返り

・まず安全の確保
・状況の整理と迅速な報告
・原因分析と再発防止策の検討

事故が起きても、冷静に対応する体制がリスク低減につながります。

このような取り組みは、日常業務の延長線上で無理なく始められるものです。
小さな改善を続けることで、事故の予防と安心できる介護環境の両方が実現できます。

場面に応じた原因分析と対策の考え方

事故を防ぐためには、「何が起きたか」だけでなく、なぜ起きたのか、どんな状況が重なったのか を整理することが大切です。
ここでは、よくある場面ごとに原因の考え方と対策の例をまとめます。

● 転倒事故の原因と多層防御

転倒の背景には、身体機能の変化、環境の整備不足、判断の違いなど複数の要因が関係しています。
対策としては

・歩行状況の観察
・手すりや滑り止めの設置
・排泄リズムに合わせた声かけ

などを組み合わせることで、事故の可能性を減らせます。

● 誤嚥事故のサインと対策例

食事中のむせ込みや飲み込みの違和感は、誤嚥のサインになることがあります。
対策としては

・食事の姿勢調整
・食形態の見直し
・食事速度や声かけの工夫

などが有効です。

● 移乗時の事故に共通するポイント

移乗は介助者と利用者のタイミングや動きが重なる場面です。
支え方や手順の違いが事故のきっかけになることがあります。

対策として

・声かけの統一
・介助用具の活用
・利用者の体調変化に注意する

ことが事故の予防につながります。

● 夜間の事故リスクと対応の仕組み

夜間は見守りが難しい時間帯であり、不安や徘徊が起きやすくなります。

対策としては、

・夜間照明の確保
・定期巡視のルール化
・見守りセンサーの活用

などが挙げられます。

● 原因分析に役立つ視点(人・環境・手順)

事故を振り返るときは、「人」「環境」「道具」「手順」など多角的に見ることが大切です。
どれか1つが原因というより、複数の要素が重なっていることがほとんどです。
これらの視点で整理すると、再発防止策が考えやすくなります。

場面ごとの原因と改善策を知っておくことで、日々の支援の中で「気づき」が増え、事故の予防につながりやすくなります。

リスクマネジメントが定着する職場づくり

リスクマネジメントは、仕組みを作っただけでは十分ではありません。
職員全員が安全を意識し、自然と行動できる職場の雰囲気づくり が重要です。

ここでは、リスクマネジメントが現場に根づくためのポイントを整理します。

● 責任を個人にしない文化

事故が起きたとき、誰かを責めてしまうと、報告がためらわれ、情報が共有されなくなります。
事故は仕組みの問題として捉え、改善を考える姿勢が必要です。

● ヒヤリハットを共有できる雰囲気

「報告しても責められない」「気づきが歓迎される」
そんな環境があると、小さな危険が見過ごされず、対策しやすくなります。

● 改善を続ける仕組み

掲示やミーティング、定期振り返りなど、改善が習慣になる仕組みがあると、取り組みが続きます。

● 安全をチームの価値として扱うこと

安全は誰か一人が担うものではなく、チーム全体で守る価値として共有することが大切です。
新人への教育や日常の声かけが、その意識を支えます。

リスクマネジメントが根づいた職場には、安心して働ける雰囲気や、失敗を振り返って成長する姿勢が育ちます。
それが結果として、利用者と職員の双方にとって安全で質の高い介護につながります。

管理者・経営者が押さえるべき視点

リスクマネジメントは現場の努力だけでなく、管理者・経営者の姿勢や仕組みづくり が大きな影響を持ちます。
事故が起きた際には、施設としてどのような責任が問われるかを理解し、そのリスクを減らすための体制を整えることが必要です。

● 賠償責任が成立する仕組み

介護中の事故が訴訟につながる場合

「事実」「結果」「因果関係」「過失」

の4つが判断材料になります。
過失が認められると、施設に責任が生じる可能性があります。

● 組織として問われる責任

事故は個人のミスとして扱われがちですが、実際には体制不足や教育不足が背景にあることが多いです。
そのため、管理者が仕組みとしての問題に向き合う姿勢が求められます。

● 安全管理は経営リスクを下げる投資

見守り体制の整備や職員研修、福祉用具の導入などは、一見すると費用に見えるかもしれません。
しかし、事故による信頼低下や訴訟リスクを考えれば、安全対策は施設運営を守る大切な投資です。

管理者が率先して安全の価値を示し、職員の気づきや改善提案を受け止めることで、安心して働ける環境と利用者の安全が両立しやすくなります。

すぐに使えるチェックリストと研修例

リスクマネジメントは、「知っている」だけでは定着しません。

日常で使えるツールや、学びを共有する場があること で行動につながり、習慣化が進みます。
ここでは、現場でそのまま活用できるチェックリストと研修のヒントを紹介します。

● 日常チェック表の例

日々の支援の前後に、次のような項目を確認するだけでも事故予防に役立ちます。

・床が濡れていないか
・手すりや補助具が正しく配置されているか
・利用者の歩行や表情に変化がないか
・薬や物品の置き場が整理されているか

短時間で見直せる内容を決めておくと、忙しい時間帯でも活用しやすくなります。

● ヒヤリハット共有のルール例

・小さな出来事も記録してよい雰囲気づくり
・共有する時間を事前に確保する
・責任追及ではなく気づきを歓迎する姿勢
・「対策まで出す必要はない」という伝え方

こうしたルールがあると、報告が増え、改善の幅が広がります。

● ロールプレイや研修で扱う内容例

研修の内容は、現場の課題に合わせて具体的に設定すると効果的です。

・誤嚥を疑う場面での声かけや観察方法
・移乗時の支え方や声かけの統一
・夜間の巡視のポイントと見守り方法
・ヒヤリハットの振り返りと対策検討の演習

実際の場面を想定した学びは、自信と安全意識の向上につながります。

このようなツールや学びの場を続けることで、安全を支える仕組みが現場に残りやすくなり、改善が自然と進むようになります。

まとめ|安全は仕組みと文化で守る

介護における安全は、特別な一部の人だけが担うものではなく、日常の小さな気づきと改善を積み重ねることで支えられます。

事故やヒヤリハットは、どの施設でも起こりうる現実ですが、それを予防し、対策を続けることによってリスクは確実に減らすことができます。

安全が定着した職場には次の特徴があります:

・気づきを共有できる雰囲気がある
・失敗を責めず、学びとして扱う文化がある
・改善が習慣になっている
・新人や職員全員で安全を守ろうとする価値観が根づいている

こうした文化があると、介護する側もされる側も安心できる場になります。

リスクマネジメントは一度整えたら終わりではなく、振り返り、改善し続けることで成長していく取り組み です。

本記事が、介護現場で安全を高めたいと考える皆さまの具体的な行動と見直しのきっかけになることを願っています。

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