はじめに
コーチングで「どんな質問をすればよいかわからない」「質問しても相手の反応が薄い」と悩んでいませんか？本シリーズでは、質問力を段階的に学べるように構成しました。質問は相手の内面を引き出し、気づきや行動変容を促す重要な道具です。使い方を身につけると、短時間で対話の質が変わります。
この記事の目的
本記事はコーチングにおける質問の役割や種類、具体的な技法までを分かりやすく解説します。初心者でも実践しやすいように例を交え、日常の会話でも使える形で紹介します。
全体の構成
第2章：質問の役割
第3章：基本的な種類
第4章：効果的な質問の分類
第5章：代表的な質問スキル
第6章：質問力を高めるポイント
第7章：使える具体例
第8章：まとめ
誰に向けた内容か
コーチングを学び始めた方、部下や家族との対話を改善したい方、日常の傾聴力を高めたい方に向いています。
使い方の提案
章を順に読み、紹介する質問を実際に使ってみてください。短い振り返りを習慣にすると理解が深まります。例えば、面談の終わりに「今日の会話で気づいたことは？」と自分に問うだけでも効果があります。
これから、具体的なスキルや例を丁寧に解説していきます。
コーチングにおける質問の役割
はじめに
コーチングにおいて「質問」は単なる情報収集の手段ではありません。相手の内側にある思い、価値観、可能性を引き出し、行動につなげるための中心的なスキルです。
質問が果たす主な役割
- 気づきを促す：普段意識していない考えや感情を明確にします。
- 視点を広げる：新しい選択肢や解決策に目を向けさせます。
- 自己責任を高める：答えを外部ではなく自分の中に見つけさせます。
アドバイスとの違い
アドバイスは答えを与えますが、質問は相手に答えを見つけさせます。自ら導いた結論は実行につながりやすく、変化が持続します。
コーチの姿勢と技術
- 好奇心を持ち、評価を控えます。聴くことを優先します。
- シンプルで一度に一つの問いを投げます。
- フォローアップで深め、具体化へ導きます。
実例（短い）
「今の状況で一番大切にしたいことは何ですか？」→価値観の確認へと進みます。
次章では、質問の具体的な種類について解説します。
質問の基本的な種類
はじめに
コーチングでよく使われる質問は大きく二つ、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンです。それぞれ目的が違うため、場面に応じて使い分けると効果的です。
オープンクエスチョン（開かれた質問）
特徴：答えが自由で、相手の考えや感情を広げます。
例：「あなたはどんな未来を実現したいですか？」「それについてどう感じますか？」
利点：気づきを促し、選択肢や価値観を明らかにします。
注意点：漠然としすぎると答えにくくなるので、場合によっては焦点を絞る補助が必要です。
クローズドクエスチョン（閉じた質問）
特徴：はい／いいえや選択肢で答えられる質問です。
例：「やりますか、やりませんか？」「締め切りは明日ですか？」
利点：決断や事実確認が速くできます。会話を整理したいときに有効です。
注意点：使いすぎると相手の思考を止めてしまうことがあります。
使い分けのポイント
基本はオープンで探る→クローズで確認する流れが自然です。例えば、まず「どんな結果を望みますか？」と聞き、具体が見えたら「それを今週中にできますか？」と確認します。中間的な質問（選択肢を示す質問）も有効です。
実践のコツ
- 中立的な表現を心がける。
- 相手の沈黙を恐れず待つ。
- 必要に応じて具体例を提示して答えやすくする。
- 質問の目的を意識して使い分ける。
これらを意識すると、質問がより相手の変化を引き出す道具になります。
その他の効果的な質問の分類
掘り下げる質問
目的：詳細や背景を深く理解するための質問です。効果：相手の考えや感情を明確にし、本質に近づけます。
例：「それについて、もう少し詳しく教えていただけますか？」
使い方のポイント：具体的な事実や感情を引き出すために、続けて細かい問いを重ねます。
広げる質問
目的：視野を広げて新たな可能性を見つける質問です。効果：固定観念をほぐし、多様な選択肢を生み出します。
例：「他にどんな可能性が考えられますか？」
使い方のポイント：まずは否定せずに多くの案を引き出します。
未来志向の質問
目的：行動計画や目標達成への意欲を高めます。効果：具体的な次のステップを描きやすくします。
例：「理想の状態を実現するために、どんなステップが必要でしょうか？」
使い方のポイント：期限や手順を一緒に描くと実行に結びつきます。
過去志向の質問
目的：経験から学びを引き出すための質問です。効果：成功や失敗の要因を明確にし、再現可能な方法を見つけます。
例：「これまでの経験から、何が学べましたか？」
使い方のポイント：評価ではなく気づきを促すように問いかけます。
肯定的な質問
目的：可能性や前向きな行動を引き出します。効果：自信や意欲を高め、行動を促します。
例：「どうすれば成功できると思いますか？」
使い方のポイント：小さな成功や強みを具体的に引き出します。
否定的な質問
目的：問題の本質理解や課題特定に使います。効果：原因分析やリスク把握に役立ちます。
例：「なぜうまくいかなかったのですか？」
使い方のポイント：問い方に配慮し、防御的な反応を避けるように穏やかに尋ねます。
コーチングの代表的な質問スキル
概要
コーチングで多く使われる質問スキルは、抽象度を上下させる「チャンクアップ／チャンクダウン」と、構造的に進める「GROWモデル」です。これらを使い分けると、本質の理解と具体的な行動につなげやすくなります。
チャンクアップ（抽象度を上げる）
目的や価値観を明確にします。例：
- 「その目標はあなたにとってどんな意味がありますか？」
使いどころ：迷いや優先順位を整理したいとき。
チャンクダウン（具体化）
行動や事例に落とし込みます。例：
- 「それは具体的にどういうことですか？」
- 「直近でできそうな一歩は何ですか？」
使いどころ：実行可能な計画を立てたいとき。
GROWモデルでの質問例
- Goal（目標）：どんな状態を目指しますか？具体的に？
- Reality（現状）：今の状況はどうですか？事実は？
- Options（選択肢）：どんな方法が考えられますか？他に試せることは？
- Will（意志）：いつから何をしますか？達成のための次の一歩は何ですか？
活用のコツ
好奇心を持ち、評価せずに聞くことが大切です。抽象と具体を行き来しながら、本人の気づきを促すと効果的です。
質問力を高めるためのポイント
前提：関心と傾聴
質問力は相手への純粋な関心と傾聴が土台です。相手の話を遮らず、表情や声のトーンも含めて観察します。まずは理解しようという姿勢を示すだけで、相手は安心して話しやすくなります。
質問の前にすること
・要点を整理する：相手の話の核心はどこかを自分の言葉で確認します（例：「つまり○○ということですか？」）。
・沈黙を活用する：敢えて間を置くと深い気づきが促されます。
「なぜ？」を使うときの注意
「なぜ？」は原因探究に有効ですが、連続で使うと詰問に聞こえます。代わりに「その時どう感じましたか？」「何が一番影響しましたか？」と具体的に聞くと答えやすくなります。
否定的な質問の扱い方
否定的な問い（問題点やミスを問う）は目的を明確にしましょう。責めるのが目的ではなく、改善や学びを引き出すために使います。例：「この状況で次に試せることは何だと思いますか？」と転換すると建設的です。
実践のコツ
・短く具体的に聞くこと
・相手の言葉を繰り返して確認する（パラフレーズ）
・フォローアップ質問で深掘りする
ロールプレイや録音で自分の質問のクセを確認すると、実践力が早く伸びます。
コーチングで使える具体的な質問例
現状把握（今を知る）
- 「あなたがこれまでに一番達成感を感じた経験は何ですか？」
- 強みや価値観を引き出せます。
- 「今、最も気になっていることは何ですか？」
- 問題の焦点が明確になります。
目標設定（未来を描く）
- 「実現したい未来を、具体的にイメージするとどんな風景が見えますか？」
- 視覚化で目標が具体化します。
- 「理想の結果を得るために、どんな小さな一歩が踏み出せそうですか？」
- 行動に落とし込みやすくなります。
課題発見と資源確認
- 「今の課題を乗り越えるために、どんなリソースが使えそうですか？」
- 内外の資源に気づきを与えます。
- 「その選択をした理由は何ですか？」
- 意思決定の背景を理解できます。
行動促進と振り返り
- 「次の一週間で試せる具体的な行動は何ですか？」
- 実行可能な計画を促します。
- 「その行動をしたら、どんな違いが生まれそうですか？」
- 動機と期待を確認します。
使うときのコツ：質問は一度に一つに絞り、相手の話を十分に聞いてから次の質問をしてください。相手が考える時間をつくることが大切です。
まとめ
コーチングにおける「質問」は、相手の内面を引き出し、主体的な気づきと行動を促す重要なツールです。本記事で触れたポイントを踏まえ、日々の対話で質問を意識的に使うことで、相手の可能性を引き出せます。
- 質問の目的を明確にする: 情報収集か気づき促進かで使う質問が変わります。目的を決めてから問いを作ると効果が高まります。
- 質問の種類を使い分ける: オープン／クローズド、掘り下げる質問、視野を広げる質問を状況に応じて選びます。
- 聞く姿勢を大切にする: 沈黙を恐れず、相手の言葉を受け止めて深掘りします。誘導的な言い方は控えます。
- 練習と振り返りを続ける: 実践後に質問の効果を振り返り、改善点をメモします。
今日から使える小さな行動:
1) セッション前に3つの目的別質問を用意する。
2) 1回の対話で必ず沈黙を3秒以上置く練習をする。
3) 終了後に1つだけ改善点を記録する。
質問は道具です。意図をもって使えば、相手の気づきや行動を大きく変えられます。ぜひ日常の対話で試してみてください。