目次
はじめに
本資料の目的
本資料は、プロジェクトを効率よく進めたい方に向けて、標準的な進行管理手法「5つのプロセス群」をわかりやすく解説します。用語をなるべく避け、具体例を交えて紹介します。
対象読者
プロジェクトの担当者、これからプロジェクトに関わる人、進め方を整理したいマネージャーなど、幅広い方を想定しています。初心者でも読み進められるようにしています。
この資料でできること
- 各プロセス群の役割や流れを理解できます
- 実務で使えるポイントを知ることができます
- 日常のプロジェクトに当てはめて考える力がつきます
例:社内で新しいウェブサイトを作る場合、どの段階で誰が何を確認するかが明確になります。読めば、作業の抜けや重複を減らし、成果を出しやすくなるはずです。
読み方のヒント
各章は順に読むと流れがつかみやすいです。必要な章だけ先に読むこともできます。実務に即したチェックリストやポイントも後半で紹介します。
注意点
本資料は標準的な考え方をまとめたものです。組織やプロジェクトの特性に合わせて応用してください。
プロジェクトマネジメントの5つのプロセス群とは何か
概要
プロジェクトは始めから終わりまで段階を追って進みます。PMBOKなどで使われる「5つのプロセス群」は、プロジェクトを体系的に進めるための大きな区分です。各プロセス群は役割が異なり、全体を通して何をすべきかを示します。
5つのプロセス群一覧
- 立ち上げ(Initiating)
- 計画(Planning)
- 実行(Executing)
- 監視・コントロール(Monitoring and Controlling)
- 終結(Closing)
各プロセス群の役割と具体例
- 立ち上げ:目的や範囲、主要な関係者を決めます。例:新しいウェブサイト制作のゴールを確認し、発注者を確定します。
- 計画:スケジュール、予算、品質、リスク対策を詳細に決めます。例:サイト構成、作業分担、納期を決め、見積りを作成します。
- 実行:計画に沿って作業を行い成果物を作ります。例:デザイン作成、コーディング、コンテンツ投入を進めます。
- 監視・コントロール:進捗や品質をチェックし、必要に応じて計画を修正します。例:週次で進捗報告を行い、遅れや不具合を対処します。
- 終結:成果物の受け渡しと評価、教訓の整理を行います。例:最終検収、操作マニュアルの納品、振り返りを実施します。
特徴
各プロセス群は順番に進む場面が多いですが、実務では重なり合います。計画中に新たなリスクが見つかれば計画を見直し、実行中にも監視を続けます。これにより柔軟に対応しつつ、目標達成を目指します。
1. 立ち上げ(Initiating)
概要
立ち上げでは、プロジェクトの目的や範囲を明確にし、関係者(ステークホルダー)を洗い出して合意を得ます。最終的にプロジェクト憲章(Project Charter)を作成し、上位組織からの承認を受けます。ここでの合意がプロジェクト全体の基盤になります。
主な活動
- 目的・背景の明確化:なぜこのプロジェクトが必要かを簡潔に示します。
- スコープの大枠設定:最初に何を含めるか、何を含めないかを決めます。
- ステークホルダー特定:影響を受ける人や組織を洗い出します。
- プロジェクト憲章作成:目的、成果物、主要な成功基準、主要なリソースや制約を記載します。
- 承認取得:憲章に基づき正式な開始承認を得ます。
主要な成果物
- プロジェクト憲章(必須)
- 初期のステークホルダーマップ
- 高レベルの成果物一覧と成功基準
ステークホルダー対応のコツ
- 早期に関係者と話し、期待を聞き出します。
- 利害や影響度を簡単に分類して優先順位を付けます。
- 承認者には要点を絞った資料で合意を促します。
よくある落とし穴と対策
- 範囲があいまい:最初に「何をやらないか」も明確にします。
- ステークホルダー抜け:関係者リストは複数人でレビューします。
- 承認が遅れる:承認プロセスを事前に確認し、必要な資料を整えます。
立ち上げでしっかり基盤を作ると、後の計画や実行がスムーズになります。
2. 計画(Planning)
役割と重要性
計画は、プロジェクトを着実に進めるための道しるべです。スケジュールや予算、リソース、品質、リスク対策を具体化して、プロジェクトマネジメント計画書にまとめます。計画の精度がその後の実行と管理の土台になります。
主な要素
- スコープ(成果物と範囲の明確化)
- スケジュール(作業分解(WBS)→マイルストーン→ガントチャート)
- コスト(見積もりと予算配分)
- リソース(必要な人員・設備・期間の割当)
- 品質(受け入れ基準や検査方法)
- リスク(想定リスクと対応策)
- コミュニケーション(報告頻度・関係者)
- 変更管理(変更時の手続きと承認フロー)
具体例:ウェブサイト構築なら、デザイン、開発、テストをWBSで分け、各工程に期間と担当を割り当て、テストで合格しない場合の予備日を用意します。
作成の流れ(実務的)
- スコープを合意する
- WBSで作業を洗い出す
- 工数と費用を見積もる
- スケジュールとリソースを調整する
- リスクを洗い出して対策を決める
- 計画書を作成し承認を得る
実践のポイント
- 関係者を早めに巻き込んで認識を揃える
- バッファを設けて現実的に見積もる
- 変更は記録してベースラインを管理する
- 定期的に見直し、必要に応じて計画を更新する
この章で示した計画作成の手順を実践すれば、実行段階での混乱を減らし、成果物の品質や納期の達成率を高められます。
3. 実行(Executing)
概要
計画で決めた作業を実際に進め、成果物を作成します。ここではチームが動き、リソースを投入してプロジェクトを前に進めます。進捗の見える化と早めの問題対応が重要です。
チーム編成と役割分担
役割を明確にして責任を割り当てます。たとえば、開発プロジェクトなら「Aさんが実装担当、Bさんがテスト担当、Cさんがレビュー担当」のように具体的に決めます。権限も明示して意思決定を速めます。
リソースの動員と管理
必要な人員、設備、予算を確保して配分します。外部委託や機材手配が必要なら早めに手続きを行います。ツール(タスク管理ボードやスケジュール表)を使い、負荷の偏りを防ぎます。
コミュニケーション
定期ミーティングやデイリースタンドアップで情報を共有します。利害関係者には週次やマイルストーンごとに報告し、期待値を合わせます。記録を残して合意事項を明確にします。
品質管理と変更対応
レビューやテストを組み込み、受け入れ基準を満たすことを確認します。変更要求は影響を評価して優先順位を付け、必要なら計画を見直します。
実行時のチェックポイント
- 進捗が計画通りかを可視化する
- リスクや課題を早期に発見して対応する
- 重大な問題は適切にエスカレーションする
- ステークホルダーの合意を定期的に確認する
- 品質基準と受け入れ条件を常に確認する
4. 監視・コントロール(Monitoring and Controlling)
概要
監視・コントロールは、プロジェクトが計画通りに進んでいるかを常時確認し、必要な軌道修正を行う工程です。進捗、コスト、品質、リスクなどを比較・分析し、是正措置や予防措置を実施します。ステークホルダーへの報告や変更管理もここに含まれます。
主な活動
- 進捗管理:実績と計画を比較し、遅延やボトルネックを特定します。日次・週次の稼働報告やバーンダウンチャートが有効です。
- コスト管理:発生コストを追跡し、予算超過を早期に検知します。アーンドバリューなどの指標を使うと客観的です。
- 品質管理:成果物の検査やレビューを行い、基準に沿っているか確認します。合格基準を明確にします。
- リスク監視:既知のリスクを監視し、新たなリスクを発見したら対策を追加します。
- 変更管理:スコープや要件の変更要求を評価し、影響範囲と承認を管理します。
- 報告・コミュニケーション:定期報告と臨時報告で関係者の安心を保ちます。
実践ポイント
- 定期レビューを習慣化し、問題を小さく早く対処します。
- 測定可能な指標を設定して、判断を数値化します。
- 是正措置は迅速に実行し、関係者へ透明に説明します。
具体例
リリース遅延が判明したら、作業の優先度を見直し、追加リソース投入やスコープ調整で短期対策を取ります。変更は必ず影響範囲と承認記録を残します。
注意点
過度な監視はチームの負担になります。目的を明確にし、必要な情報だけを追うようにします。
5. 終結(Closing)
概要
プロジェクトの成果物を確認・評価して正式に完了とする段階です。成果物の引き渡し、契約や請求の精算、関係者への最終報告、得られた知見の整理・文書化を行います。ここで手を抜くと次のプロジェクトや運用に支障が出やすいので、丁寧に実施します。
主な作業
- 成果物の受領・承認(受領書や承認サインの取得)
- 最終検査と品質確認(チェックリストに基づく検証)
- 契約・請求の精算(最終支払い、サブコントラクタの清算)
- 引き渡し手続き(マニュアル、アクセス権、納品物の移管)
- 教訓の整理(Lessons Learned の記録)
- 関係者への最終報告と承認取得
具体的な手順(チェックリスト例)
- 成果物一覧と要件照合を実施し、不備を特定する。
- 不備があれば修正を依頼し、再検収する。
- 受領書や最終報告書を作成して関係者の承認を得る。
- 契約関連の完了報告(請求処理、保証対応含む)を行う。
- 教訓と改善案を文書化して、ナレッジベースに登録する。
実務でのポイント
- 証跡(承認書、検査報告、メール)は必ず残すこと。後で争点になりにくくなります。
- 引き渡し時は受け手の視点で説明資料を用意すると、運用の立ち上がりがスムーズです。
- 教訓は具体的な事例と対策をセットで記録すると次回に活かしやすいです。
よくある落とし穴と対策
- 未解決事項を残してクローズ:必ず未完事項一覧を作り、責任者と期限を決める。
- 契約手続きの遅延:早めに経理や発注先と調整しておく。
- ナレッジが散逸する:要点を短くまとめ、関係者がアクセスできる場所に保管する。
本章では、確実な完了手続きと知見の継承が次の成功につながることを意識して進めることをおすすめします。
各プロセス群の特徴と実践ポイント
はじめに
プロジェクトは開始と終了が明確な活動です。5つのプロセス群はPDCAに似ますが、有期性を前提に進みます。ここでは各プロセス群の特徴と、実務で使える実践ポイントを具体例とともに紹介します。
共通の特徴
- 目的と成果を明確にすることが最優先です。
- 「10の知識エリア」が各プロセスに関わり、品質・コスト・納期をバランスします。
立ち上げ(Initiating)の実践ポイント
- スコープと目的を一文で定義します。例:社内イベントの開催目的と成功基準。
- 利害関係者を早期に洗い出して合意を得ます。
計画(Planning)の実践ポイント
- 作業を小さく分け(WBS)、現実的なスケジュールを作ります。
- リスクをリスト化し、対策を事前に決めます。
実行(Executing)の実践ポイント
- 定例ミーティングで進捗と課題を共有します。
- 品質チェックを決め、手戻りを減らします。
監視・コントロール(Monitoring and Controlling)の実践ポイント
- 予実(予定と実績)を定期的に確認します。
- 変更要求は評価プロセスを通して承認します。
終結(Closing)の実践ポイント
- 成果物の引き渡しと検収を確実に行います。
- 振り返りで学びを記録し、次プロジェクトへ活かします。
実務上の注意
- 文書は必要最小限にとどめ、意思決定を早めます。
- ステークホルダーとの対話を続け、期待値を合わせてください。
5つのプロセス群の概要表
ここでは、5つのプロセス群を1ページで確認できるように、目的・主な作業・具体例・実践ポイントを分かりやすくまとめます。
立ち上げ(Initiating)
- 主な作業:目的・範囲の定義、ステークホルダー特定、プロジェクト憲章作成
- 具体例:新製品投入の目的、関係部署と外部ベンダーの洗い出し
- ポイント:関係者の合意を早めにとることで後のずれを防ぎます
計画(Planning)
- 主な作業:スケジュール・予算・品質・リスク計画、詳細計画書作成
- 具体例:ガントチャート作成、リスク対策リスト作成
- ポイント:実行可能な細かさで計画を作り、重要な前提を明示します
実行(Executing)
- 主な作業:作業推進、成果物作成、チーム運営、コミュニケーション
- 具体例:開発作業、進捗会議、レビュー実施
- ポイント:報告ルールを決めて情報共有を習慣化します
監視・コントロール(Monitoring and Controlling)
- 主な作業:進捗・コスト・品質監視、軌道修正、報告・調整
- 具体例:予算差異の是正、スケジュール調整、品質検査
- ポイント:定期的に測定指標を確認し、小さいうちに対処します
終結(Closing)
- 主な作業:成果物評価、知見整理、クローズ手続き、最終報告
- 具体例:納品検収、レッスン・ラーンド(学び)のまとめ
- ポイント:知見を文書化して次に活かせる形で残します
実務での活用と注意点
実務での活用
各プロセス群は必ず順番に進めるだけでなく、状況に応じて並行・反復的に使います。たとえば、小さなウェブサイト制作では「計画」と「実行」を短いサイクルで回して早く成果を出します。大規模な製品開発では、初期に時間をかけて要件やリスクを洗い出し、後半は変更管理を厳密に行います。
注意点
- プロジェクトの規模や特性に合わせてプロセスを調整(Tailoring)してください。単に手順を追うだけでは成果に結び付きません。
- ステークホルダーとの合意を頻繁に確認してください。期待値のズレが失敗の大きな原因です。
- 変更は記録し、影響を評価して承認の流れを作ってください。
実務で役立つ習慣
- 定期レビューを設ける(短い振り返りを含む)。
- 重要な決定は書面で残す。
- リスクと課題は早めに見える化する。
プロセス群の理解はPMP試験対策だけでなく、現場での安定した成果につながります。柔軟に運用して、学んだことを次に生かしてください。