プロジェクトマネジメントのリスクとは
プロジェクトの成功には、多くの要素がかかわっています。その中でも「リスク管理」はとても重要な役割を担っています。この記事では、プロジェクトを進めるうえで避けて通れないリスクについて、分かりやすく解説します。
リスクとは、計画通りにプロジェクトが進まなくなる可能性のことです。例えば、予定より作業が遅れる、思わぬコストがかかる、必要な人材が揃わないなど、さまざまな場面でリスクが現れます。リスクが現実になれば、プロジェクト全体の成果や納期に大きな影響を与えかねません。
しかし、リスクは事前に把握し、備えることで影響を小さくできます。そのためには、リスクを理解し、どのような対策を取るべきかを知っておくことが重要です。
次の章では、プロジェクトの現場でよく見られる代表的なリスクについてご紹介します。
プロジェクトにおける代表的なリスク例
プロジェクトにはさまざまなリスクが存在します。ここでは、現場でよく見られる代表的なリスクについてご説明します。
リソース不足
プロジェクトに必要な人員やスキルが不足することで、作業の進行に影響が出ることがあります。たとえば、エンジニアが急な体調不良や退職で離脱し、誰かがその穴をすぐに埋められない場合、作業工程が遅れてしまいます。
運用上のトラブル
システム障害やツールの故障が原因で、業務が一時的に停止するリスクも一般的です。例としては、開発環境のサーバがダウンし、メンバー全員の作業が一斉にストップしてしまう場合などが挙げられます。
パフォーマンスの低下
仕様変更や予定外の負荷の増加によって、本来期待されていた性能が出せなくなることもあります。その結果、顧客の要望を満たせず、再対応が必要になる場合があります。
コミュニケーション不足
チーム内で情報や意見の共有が十分に行われない場合、誤解が生じたり、進捗が遅れたりします。たとえば、重要な要件が伝わっていなかったために、完成した機能を作り直す羽目になることもあります。
目標の不明確さ
プロジェクトのゴールや必要な要件が曖昧な場合、作業方針が定まらず迷走することがあります。顧客からの意思決定が遅れ、設計や方針が何度も変更されるケースがその例です。
予算超過
コスト管理が甘かったり、途中で追加要件が次々に発生することで、全体の予算を大きくオーバーすることがあります。
スケジュール遅延
作業の見積もりが不十分だったり、予期せぬ問題が発生した場合、納期に間に合わなくなることがあります。
これらのリスクは、どのプロジェクトでも発生する可能性がある典型的なものです。
次の章では、リスクを管理する際に用いられるPMBOKのリスク管理プロセスについて解説します。
PMBOKに基づくリスク管理プロセス
PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)は、世界的に広く使われているプロジェクト管理の手法です。このPMBOKにおけるリスク管理プロセスは、「リスクの特定」「リスクの評価」「リスク対応計画の策定」「リスクの監視」という段階に分かれます。
リスクの特定
リスクの特定では、プロジェクトに潜むあらゆるリスクを洗い出します。たとえば、プロジェクトメンバーでブレインストーミングを行い、「納期遅延の可能性」や「予算超過」などをリストアップします。また、過去のプロジェクトで使ったリスクチェックリストを参考にするのも有効です。
リスクの評価
特定したリスクについて、「起きる可能性」や「起きたときの影響」を評価します。評価方法には、直感的に『高・中・低』と判断する方法(定性的評価)や、数値で確率と影響度を示す方法(定量的評価)があります。たとえば「納期遅延」の発生確率が高く、影響も大きい場合は『高』と判断します。
リスク対応計画の策定
評価をもとに、各リスクへの対応策を決めていきます。たとえば、リスクを完全に避ける(回避)、発生時の影響を小さくする(軽減)、保険に入るなどして他者に責任を移す(転嫁)、そのまま受け入れる(受容)などが選択肢です。どの方法を採るかは、リスクの性質やプロジェクトの優先順位によります。
リスクの監視
リスク管理は一度で終わりではありません。プロジェクトの進行とともに新しいリスクが見つかったり、当初のリスクが変化することもあります。定期的にリスク管理表を見直し、「対応策は十分か」「新たに発覚したリスクがないか」などを確認することが重要です。
このように、PMBOKを活用したリスク管理は体系的かつ実践的なプロセスです。次章では、リスクへの具体的な対応策や戦略について解説します。
リスク対応策の具体例と戦略
回避(Avoid)の具体策
回避とは、リスクそのものを取り除く方法です。例えば、どうしても達成が難しい納期が設定されていた場合、納期の見直しを関係者と相談し、現実的なスケジュールに修正します。また、開発が複雑で技術的な難易度が高い機能については、スコープから外すことで問題発生の可能性をゼロにできます。「できるだけ失敗の芽を摘み取る」ことが回避の狙いです。
軽減(Mitigate)の具体策
軽減は、リスクが起きる確率や、実際に起きた場合の影響を小さくする方法です。たとえば、新しいツールや技術を導入する場合、小さな範囲でテスト運用(PoC=概念実証)を行い、問題点を早めに洗い出します。さらに、テスト工程をいつもより多めに設定し、不具合を事前に発見できるように準備をします。予防策や早期発見の工夫が、軽減のポイントです。
転嫁(Transfer)の具体策
転嫁は、リスクの責任や負担を第三者に移す方法です。例えば、自社で全てを抱えず、専門知識を持ったベンダーに業務の一部を外注し、契約で責任範囲を明確にしておきます。また、予想外のトラブルでは保険を利用する方法も有効です。こうした戦略で、発生したリスクによる損失を減らせます。
受容(Accept)の具体策
受容は、あるリスクが発生しても大きな影響が出ない場合や、対応コストが高すぎる場合に選ばれる方法です。この場合、事前にリカバリ(回復)手順を用意しておき、実際にリスクが起きた時に速やかに対応できるよう準備します。例えば、プロジェクトの一部で遅れが生じたときの応急プランを持っておくと、被害を最小限にできます。
活用(Exploit)の具体策
活用は、ポジティブなリスク(チャンス)を積極的に活かす方法です。たとえば、新しい技術をいち早く導入し、他社と差別化を図ったり、業務効率を改善したりします。プラスの機会を見逃さず最大限活用することで、プロジェクトの成功につなげます。
次の章に記載するタイトル:現場でよくあるリスク事例と対策
現場でよくあるリスク事例と対策
要件変更リスク
プロジェクト現場では、お客様の要望が途中で変わることがよくあります。このような場合、最初に決めた計画が大きく変わり、スケジュールやコストの増加が発生しやすくなります。そこで、変更が必要な際は、どの手順で誰が決定するかという「変更管理プロセス」を明確にしておくことが重要です。また、「要件凍結」といって、ある時点以降は原則的に要望の追加・変更を受け付けないルールを設けることで、混乱を防げます。
技術的な問題リスク
新しい技術やツールを使うと、思わぬバグや動作不良が起きることがあります。これを防ぐために、本格的な開発に入る前に小規模なテスト(PoC=概念実証)を実施し、技術的な問題点を早期に洗い出します。万が一バグが発生した場合にも備えて、前もって対応策(リカバリ計画)も考えておきます。
人員不足リスク
キーパーソン(重要な役割を担う人)が突然辞めてしまう、あるいは予定していた人数が集まらないといった人員不足リスクもよく発生します。この場合は、特定の作業を一人に依存しないよう、複数人で作業内容を共有しておくことが予防策です。どうしても人手が足りない場合は、外部パートナーやアルバイトなどのリソースを活用すると安心です。
工程遅延リスク
設計や開発工程が遅れてしまうリスクも現場では頻繁に起きます。このときは、日々の進み具合をしっかり管理して、少しでも遅れが出たらすぐにスケジュールを見直したり、必要に応じて追加で人手を増やすなどの対策を取ります。
コミュニケーション不足リスク
部門ごとの連携がうまくいかず、合意していた内容がひっくり返ることもあります。これを防ぐためには、定期的な会議の実施や、チャットやメールなどの情報共有ツールの活用が有効です。また、会議の内容を議事録として残し、参加者全員で確認する仕組みを取り入れると、認識違いを減らせます。
次の章に記載するタイトル:リスク管理の実践ポイント
リスク管理の実践ポイント
リスク管理を成功させるためには、いくつか押さえておくべきポイントがあります。実際の現場では、リスクを未然に防ぐだけでなく、もし発生した場合の備えも重要です。ここでは、リスクマネジメントを実効性あるものにするための具体的な実践ポイントを整理します。
1. プロジェクト初期からリスクを洗い出す
リスクは、プロジェクトが始まる前からリストアップしましょう。例えば、納期遅れの可能性や人数不足、必要な技術が足りないなど、思い付く限り書き出すことが大切です。
2. リスク管理表やリスクマップで可視化・共有する
出したリスクはメンバー全員で確認し、管理表や図にまとめて見える化します。こうすることで、関係者全体で現状を把握しやすくなります。たとえば、Excelを使ってリスク項目と対応策を一覧にする方法が身近です。
3. 対応策とリカバリ方法を準備する
リスクが発生しそうなときの事前準備が重要ですが、実際に問題が起こった場合のリカバリ方法(バックアッププラン)も考えておきましょう。例えば、人員が急に減った場合に外部のヘルプをお願いする枠組みを作っておく、といった備えが役立ちます。
4. 組織的にリスクマネジメントを進める
リスク管理は担当者の個人プレーにしがちですが、プロジェクトメンバー全員で情報を共有し、対応策のアイデアを出し合うことが成功の秘訣です。また、定期的にリスク状況を見直し、必要に応じて対応策を更新しましょう。
これらのポイントを意識して取り組むことで、リスク管理はより実効性が高くなります。日頃からチーム全体でコミュニケーションを取り合い、変化や新しいリスクにも柔軟に対応していく姿勢が大切です。