リーダーシップとマネジメントスキル

初心者でも理解しやすいプロジェクトマネジメント基礎と実践ガイド

目次

プロジェクトマネジメントの「種類」とは何か

プロジェクトマネジメントの世界は多彩

ひと口に「プロジェクトマネジメント(PM)」と言っても、その取り組み方や使う道具にはさまざまな種類があります。たとえば、家の新築、アプリ開発、大規模なイベント運営など、どんな目的や規模のプロジェクトにも「うまく進めるコツ」があります。ただし、そのコツや進め方にはいくつかの代表的な“種類”が存在します。

主な“種類”と指すもの

この文脈での「プロジェクトマネジメントの種類」とは、大きく次の4つに分けられます。

  • 手法・体系(PMBOKやP2Mなど):プロジェクトを計画し、組織的に管理するためのルール集や枠組みです。ガイドブックのようなもので、作業手順や標準・役割分担などが示されます。

  • 道具・技法(PERT、ガントチャート、WBSなど):スケジュール可視化や仕事の分担、進行管理に使われる具体的なツールです。たとえばガントチャートなら、カレンダーと線を使って進捗が一目で分かります。

  • 管理レベル(PPMなど):複数のプロジェクトをまとめて見渡すときの管理の視点です。会社や部署全体の目標に合わせて、どの案件に力を入れるかを考えるイメージです。

  • 進行管理手法(CCPMなど):途中の遅れやトラブルを効率よく吸収する、独自の考え方です。バッファという余裕を持ち、全体の遅延を防ぎます。

適した方法を選ぶ理由

どの種類も「プロジェクトを成功させる」ための道具ですが、状況によって合う・合わないがあります。たとえば、規模が大きく関係者が多い現場では標準化された体系や見える化の技法が役立ちます。一方で、小さなチームではシンプルな道具でも十分な場合があります。

この違いを理解し、それぞれの特徴を知ることが、最適なプロジェクト運営につながります。

次の章では、国際標準とされる代表的なプロジェクトマネジメント体系「PMBOK」について詳しく解説します。タイトル:PMBOK:国際標準の体系(第6版と第7版の違い)

PMBOK:国際標準の体系(第6版と第7版の違い)

国際標準としてのPMBOKとは?

PMBOK(ピンボック)は、世界中でプロジェクトマネジメントの指針として使われている標準的なガイドです。アメリカのPMI(Project Management Institute)が作成しているため、国を問わず、様々な現場で共通言語として役立っています。計画、実行、管理など、「プロジェクトを成功に導くために必要な基本」を分かりやすく整理したのが特徴です。

第6版の特徴:工程ごと×管理項目で構造化

第6版での全体像は、「5つのプロセス群」と「10の知識エリア」で構成されています。
- 5つのプロセス群:
1. 立上げ(プロジェクトの開始準備)
2. 計画(やること・順番・方法の詳細決め)
3. 実行(実際に手を動かして進める)
4. 監視・コントロール(進捗や問題点の確認・修正)
5. 終結(完了や成果のまとめ)

  • 10の知識エリア(例:スコープ、スケジュール、コスト、品質等)で「何を」「どのプロセスで」管理するかを整理します。
    たとえば「コスト管理」なら、計画で予算を立て、実行中に支出を管理し、監視で予算超過していないかチェックします。

第7版の特徴:原則ベースと柔軟性

第7版では「従来の細かい手順」から離れて、「12のプロジェクトマネジメント原則」を軸にしています。代表的な原則には、
- チームを重視
- ステークホルダーとの協働
- システムとしての全体最適
- 適応力と回復力
- 効果的な価値の創出
などがあります。状況やプロジェクトの特性に応じて柔軟に対応できる考え方が増しました。特に“アジャイル”の要素を多く取り入れています。

第6版と第7版の使いどころ

第6版は「工程の全体図を可視化したい」「プロジェクト管理の教科学習に使いたい」時に適しています。一方、第7版は「変化が激しい」「アジャイル的な早い判断が必要」な業務現場で役立ちます。

次の章に記載するタイトル:P2M(日本発のプロジェクト/プログラム統合モデル)

P2M(日本発のプロジェクト/プログラム統合モデル)

P2Mとは、「Project and Program Management」の略称で、日本独自に開発されたプロジェクトマネジメントモデルです。この手法は、単なるプロジェクトの進行管理を超えて、複数のプロジェクト(プログラム)をまとめて統合し、企業や組織の経営目標ともリンクさせていくことを重視しています。

P2Mの特徴

最大の特徴は、プロジェクト単体ではなく、複数の案件をまとめて経営と直結した価値への貢献を目指している点です。そのため、大型の建設案件、ITシステム全体の刷新、複数の部署を横断するような業務改善など、規模が大きくて複雑な計画で特に効果を発揮します。

例えば、駅の再開発プロジェクトを考えてみましょう。駅ビルの建設、交通インフラの整備、周辺の商業施設の誘致といったさまざまな小さなプロジェクトが関係します。P2Mでは、これらを別々に管理するのではなく、全体の目的(=地域全体の経済活性化や利便性向上)に向けて調整を図ります。

経営との結びつき

P2Mは、単なる進行スケジュールの管理にとどまらず、「投資の効果」「社会的な価値」「関係者全体の利益」といった点を重視します。つまり、企業や組織の中長期的なゴールや成長戦略に組み込む形でプロジェクトやプログラムを考えるのです。

P2Mが有効な場面

  • 新しい事業を立ち上げるとき
  • 既存のビジネスを大きく刷新したいとき
  • 複数の関連プロジェクトを並行して成功させる必要があるとき

このような場面でP2Mは、“全体最適”の視点から物事を計画しやすくします。個々のプロジェクトがバラバラに動いてしまい、全体としての成果が出しにくいという悩みに応えます。

次の章に記載するタイトル:PPM(Project Portfolio Management):複数案件を“束”で最適化

PPM(Project Portfolio Management):複数案件を“束”で最適化

プロジェクトを1つずつ管理するのではなく、会社全体や部門ごとに複数のプロジェクトを“ひとまとまり(ポートフォリオ)”として扱う考え方をPPM(Project Portfolio Management)と呼びます。たとえば、家族のお小遣いを何にどれだけ使うかを決める時、「旅行」「家電の修理」「外食」「貯金」とさまざまな選択肢を予算内で振り分ける状況を想像してください。PPMはその意思決定をビジネスの世界で組織的・科学的に行う方法です。

PPMで実際に行うこと

  • 全案件の現状と将来性を一覧で把握:進んでいる・止まっている・効果が期待できる案件などを整理します。
  • 経営戦略とのすり合わせ:限られたリソース(人員・費用・時間)を「会社として何を重視するのか」と照らし優先順位をつけます。
  • 新規着手・優先度変更・凍結/中止の判断:どの案件を追加するか、もっと投資するか、逆に止めるべきか検討します。

どんな場面で有効?

たとえば「やりたい人が多くて全員には人員を割り振れない」「一部の案件が予算を使いすぎて会社全体の利益が減っている」「将来の成長を見据えて投資先を選びたい」といった悩みに直面した時、PPMが力を発揮します。全てに均等とは限らず、どこに“力を入れるか”“引くか”を客観的に選びます。

日常の例で考える

身近な例としては、学園祭の実行委員会で複数イベント開催の予算と人員をどう割り当てれば盛り上がるかを考える場面を想像してください。限られた条件の中で、結果として全体満足度や効果が最大化されるよう調整を行います。

次の章に記載するタイトル:CCPM(Critical Chain Project Management):バッファで遅延を吸収

CCPM(Critical Chain Project Management):バッファで遅延を吸収

プロジェクト進行では、タスクごとに時間の“余裕”を見積もりがちです。しかし実際には、人は期限が近づくまで作業を始めない傾向があります。CCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)は、こうした人間の習性を考慮したユニークな進行管理手法です。

CCPMの特徴とは

CCPMでは、個々の作業タスクに安全余裕(バッファ)をたくさん持たせず、全体の終わりにまとめて「プロジェクトバッファ」を設けます。これによって、リソース(人や設備)の競合やタスクの遅延が発生しても、プロジェクト全体の期限を守りやすくなります。

例えば、イベント準備のプロジェクトを想像してください。本来は各担当者が「念のため」と余裕時間を追加しがちです。しかしCCPMでは、その余裕分を削り、全体終了直前に大型のバッファを準備します。万が一、用意や手配が多少遅れても、最後のバッファで吸収できるので、イベント自体の開催予定がずれるリスクを減らせます。

どんなプロジェクトに向いている?

CCPMは、タスク同士の依存関係が複雑で、しかも社員や設備などの“取り合い”が激しいケースに強みを発揮します。研究・開発プロジェクトや、同時に複数現場が動く建設プロジェクトなどで効果的です。

注意すべきポイント

CCPMをうまく活用するには、チーム全体が手法の意図を理解して協力することが大切です。進捗報告のタイミングやバッファの使い方について明確なルールを作りましょう。バッファは「サボりの予備」と考えるのではなく、全体最適のための“緩衝材”として活用するのが秘訣です。

次の章に記載するタイトル:PERT(Program Evaluation and Review Technique):不確実性に強い所要時間見積り

PERT(Program Evaluation and Review Technique):不確実性に強い所要時間見積り

PERTとは何か

PERT(パート:Program Evaluation and Review Technique)は、1950年代にアメリカで開発されたプロジェクト管理のための手法です。特に、所要時間の見積もりが難しい研究開発や新技術の導入プロジェクトで使われてきました。特徴は、タスクの関係性を「ネットワーク図」で表し、それぞれの作業に対し楽観・最頻・悲観という3つの見積り値を用意する点です。

3つの見積り値を使った計算

PERTでは、各作業の所要時間を以下のように推計します。
- 楽観値(最も短く済む場合)
- 悲観値(最も長くかかる場合)
- 最頻値(もっとも起こりやすい見積り)
この3つから、平均的な所要時間を計算し、プロジェクト全体の進行スケジュールを立てます。たとえば「新商品の試作品づくり」では、設計→部品手配→組立→テスト、とタスクを並べていきます。

ネットワーク図で依存関係を可視化

タスク同士のつながりや並行作業とその順番を「矢印」と「丸」でネットワーク図として表します。この図を見れば、どのタスクが終わらないと次に進めないか、一目でわかります。各作業の見積時間をネットワーク図に記入していき、全体の流れをつかみます。

クリティカルパスの特定

PERTを使うと、最終的に「どの作業が遅れるとプロジェクト全体が遅れるか」(=クリティカルパス)を特定できます。たとえば、設計とテストが一番時間がかかるルートだった場合、ここに重点的に注意が必要と分かります。クリティカルパス以外のタスクには、多少余裕(バッファ)があるケースが多いです。

活用シーンとメリット

この手法は、作業ごとの所要時間が予測しづらいプロジェクト、想定より遅れがちになる仕事でとても役立ちます。ものづくりやIT開発、イベント準備など、多様な現場で応用されています。

次の章に記載するタイトル:WBS(Work Breakdown Structure):成果物起点の分解

WBS(Work Breakdown Structure):成果物起点の分解

WBS(Work Breakdown Structure)は、プロジェクトの目的や必要な成果物を「起点」として、どのように作業を分解していくかを整理する手法です。この技法では、大きな業務やプロジェクトを小さな作業単位まで「階層的」に分けていきます。たとえば、新しいホームページを作るプロジェクトなら、「デザイン」「コーディング」「テスト」「公開」といった高いレベルの作業から、それぞれを「トップページ作成」「お問い合わせページ作成」などの詳細な単位へ分解します。

なぜWBSを使うのか?

WBSの最大のメリットは、仕事の「抜け」や「重複」を防止できることです。最初に成果物と作業を分解して全体を見渡せるため、見落としが起きにくくなります。また、それぞれの作業をだれが担当し、いつ終わる予定かも明確にできます。作業ごとに見積もりを出す際や、実際に進捗を管理する場面でも役に立ちます。

WBSの作り方

まず、ゴールとなる成果物を洗い出します。次に、それを作るために必要な作業を上位から下位へ、順々に細分化していきます。各作業が担当者ベースで管理しやすい大きさになるまで分解するのがポイントです。手書きやExcelで表にしても良いですし、専用のソフトを使う方法もあります。

WBSが生む“設計図効果”

WBSはプロジェクト全体の「設計図」の役割を持ちます。これをもとにガントチャートでスケジュールを作ったり、コストを試算したりします。また、「ここからここまでが自分の担当」と協力メンバーで分担したいときも、WBSがあれば話がスムーズに進みます。そのため、多くのプロジェクト手法やツールでWBSが前提とされています。

次の章では、WBSと密接に使われるガントチャートについて解説します。

ガントチャート:進捗と負荷の可視化

ガントチャートとは

ガントチャートは、プロジェクトのタスクや工程を横棒で表現したスケジュール表のことです。作業名を縦軸に、カレンダーの日付や期間を横軸にして、各タスクの「いつ」「どれくらいの期間」進行するのかを一目で分かるように表示します。

具体的な特徴と利用場面

ガントチャートは、例えば家のリフォームやイベント企画など、複数の作業や段取りが必要なときに活躍します。タスク同士の開始日や終了日、並行して進める作業、担当者ごとの負荷状況も、色分けや担当名の表示で確認できます。「進捗率」のバーが埋まっていくことで、どの作業が遅れているかもすぐに把握可能です。

メリットと使い方

このチャートの最大の強みは、プロジェクトの全体像と細かな進捗をひと目で把握できることです。打ち合わせでメンバーと画面を見ながら計画を調整しやすく、共有や修正も簡単です。遅れが出た場合も、どの部分に支援が必要かをすぐに判断できます。

他手法との組み合わせ

ガントチャートは、WBS(作業分解)やPERT(不確実な所要時間の見積もり)など他の手法と組み合わせることで、計画の精度や運用のしやすさを高められます。まずWBSで細かく作業を洗い出し、PERTで各工程の見積もりを行い、その結果をガントチャートに落とし込むことで、信頼性の高いスケジュールが作れます。

次の章に記載するタイトル:PMBOKの知識エリア(第6版)で見る管理の種類

PMBOKの知識エリア(第6版)で見る管理の種類

PMBOK知識エリアとは

PMBOK(ピンボック)は、プロジェクト管理の世界でよく使われる指標のひとつです。第6版では、プロジェクトマネジメントを体系的に行うための“知識エリア”を10個に分類しています。これによって、どんな観点で物事を管理すればよいのか、分かりやすくなっています。

主な知識エリアとその役割

  1. 統合マネジメント
  2. 計画、実行、監視など、全体をまとめてプロジェクト全体の進行を管理します。
  3. スコープマネジメント
  4. どこまでがプロジェクトの範囲かを明確にし、途中でむやみに拡大しないよう管理します。
  5. スケジュールマネジメント
  6. 作業の順序や締め切りを決め、予定通りに進むようコントロールします。
  7. コストマネジメント
  8. 予算を決め、オーバーしないようにチェックします。
  9. 品質マネジメント
  10. 出来上がりの水準を定め、それを満たすよう見守ります。
  11. 資源マネジメント
  12. 必要な人手や道具、材料などを確保して適切に配置します。2017年からは、人だけでなく道具や設備など物的資源も含まれるようになりました。
  13. コミュニケーションマネジメント
  14. 連絡や情報共有のルールを決めて、関係者全員が同じ情報を持てるようにします。これにより認識のズレを減らします。
  15. リスクマネジメント
  16. 問題やトラブルが起きそうなこと(リスク)を事前に洗い出して対策を考えます。プラスのチャンス(好機)も管理するのが特徴です。
  17. 調達マネジメント
  18. 外部から必要な物やサービスを手に入れる場合、その計画や調整、契約などを行います。
  19. ステークホルダーマネジメント
    • プロジェクトに関わる人々の要望や意見を把握し、その対応策を進めます。

実際の現場での使い方

知識エリアは、すべてを一度に意識しなければいけないわけではありません。例えば、スケジュールが遅れてきたら「スケジュール」と「資源」、「リスク」のマネジメントが大切になります。あくまで、現場の状況に応じて組み合わせたり、重点的に見るエリアを変えることができます。

まとめ

これら10の知識エリアは、プロジェクト管理の基本的な“種類”をカバーしています。どのエリアが手薄になると全体に影響が出るため、バランスよく意識して管理することが重要です。

次の章に記載するタイトル:ドキュメントの種類(運用面の“種類”)

ドキュメントの種類(運用面の“種類”)

運用上必要なドキュメントの全体像

プロジェクトを円滑に進めるためには、様々な種類のドキュメント(書類)が必要です。これらは、プロジェクトの計画や実施のガイドとなるもので、内容は多岐にわたります。どんなドキュメントが必要かを知ることは、プロジェクト成功のカギです。

基本中の基本「計画書」

計画書はプロジェクトの設計図ともいえる重要な資料です。そこには以下のような内容が含まれます。
- プロジェクトの目的や概要
- 完成させるべき成果物の範囲
- 全体と詳細のスケジュール
- 必要なコストや予算
- メンバーの体制と役割分担
- マネジメント手法とルール
- 発生が予想されるリスクと、そのための対応策

この計画書を作成し、関係者で合意することが、出発点となります。

具体的なスケジュールドキュメント

スケジュールに関するドキュメントだけでもいくつかの種類が存在します。
- 総合スケジュール:全体の流れをざっくりと示すもの
- 詳細スケジュール:各作業を細かく分解し、誰が、いつ、何をするかを具体的に記載
- テストスケジュール:検証や試験に特化した工程表

これらはガントチャートやカレンダー形式にしてわかりやすく見せることで、進捗管理やメンバーへの情報共有がしやすくなります。

必要文書を体系化する工夫

文書の抜け漏れ防止には、PMBOK(プロジェクト管理知識体系)でまとめられている10の管理領域に沿って分類する方法が役立ちます。たとえば「品質」「コスト」「コミュニケーション」など、領域ごとに必要な書類を整理することで、後で「大事な書類をつくり忘れた!」という事態を防げます。

具体例でイメージしやすく

たとえばソフトウェア開発プロジェクトだと、以下のようなドキュメントが最初から最後まで必要となります。
- プロジェクト憲章
- 作業分解構成図(WBS)
- 進捗報告書
- 変更管理リスト
- 問題管理・リスク一覧

こういった運用面でのドキュメントの種類を知っておくことで、「何をいつ誰が用意するか」が事前に分かり、現場での混乱を避けられます。

次の章に記載するタイトル:使い分け早見(要点)

使い分け早見(要点)

主要なプロジェクトマネジメント手法の適用場面

プロジェクトマネジメントには様々な手法がありますが、それぞれ適する状況が異なります。ここでは、代表的な手法を「どんな場面で使うと良いか」に絞って整理します。


1. 不確実性が高い研究開発案件

研究や新技術開発など、先が読みにくいプロジェクトでは「PERT」(パート)手法が有効です。作業ごとに楽観・悲観・標準の3種類の所要日数を見積もることで、全体のスケジュールに幅を持たせられます。加えて、PMBOKでいうリスク管理(発生可能性と影響度でリスクを洗い出し、対応策を計画)が不可欠です。

2. 人や設備が“取り合い”になる環境

工場現場や大規模なシステム開発など、限られた担当者や機械・設備が重複利用される現場では、「CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)」が強みを発揮します。CCPMは“バッファ”という余裕期間を要所に組み込み、遅れやすい工程をカバーします。加えて、資源(人・モノ)の配分と優先順位付けをしっかり行うことが、全体最適に直結します。

3. 複数案件を束ねて経営判断したい時

本部や経営層など、複数のプロジェクトや事業を同時に管理し投資効率を考える場合は、「PPM(プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント)」が推奨されます。プロジェクトの重要度や利益優先度に応じて、リソースの再配分や投資先の取捨選択を冷静に判断できる仕組みです。必要に応じて、「P2M」(プロジェクト/プログラム統合モデル)で個々のプロジェクトと複数案件の関係を整理します。

4. 標準化・品質保証が求められる環境

建設・生産業など、成果物の品質や手順標準化が重視される環境では、「PMBOK(ピンボック)」を基盤に「WBS(作業分解図)」と「ガントチャート(工程表)」を組み合わせるのが現実的です。WBSで抜け漏れなく作業内容を棚卸しし、ガントチャートで進捗と負荷を可視化します。

5. 環境や要件が頻繁に変化するプロジェクト

IT開発など、柔軟な仕様変更や方向転換が必要になりやすい現場では、PMBOK第7版の「原則主義」によるテーラリング(各現場に合わせて手法をカスタマイズ)が効果的です。状況の変化に応じてワークフローや管理手順の柔軟性を保ちます。


このように、現場の特徴や目的によって最適なプロジェクトマネジメント手法は異なります。無理に1つに決めつけず、それぞれの特性を活かして選び分けることが成功のカギです。

次の章に記載するタイトル:よくある誤解と注意点

よくある誤解と注意点

PMBOKの位置づけに関する誤解

PMBOKは「プロジェクトマネジメントの方法」を示すものだと捉えられがちですが、実際は知識体系です。第6版までは「プロセス重視」で手順が強調されていましたが、第7版では「原則」と「価値提供」が重視され、様々な現場に応じて柔軟に設計できるようになっています。この違いを知らず、古いやり方に固執することで効果的な運用が難しくなる場合があります。

ツールや技法の役割について

ガントチャートやWBSといったものは「プロジェクト管理の方法」そのものと思われがちです。しかし、これらはあくまで“道具”であって、全体の運用方針や組織の標準プロセスと組み合わせて活用する必要があります。例えばガントチャートだけ作成しても、進捗管理のルールや変更方法が定まっていなければ実務では機能しません。PMBOKの知識エリアや、組織独自の手順と連携させて運用することが大切です。

CCPMの“余裕”の考え方

CCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)については、「各工程から余裕を削って厳しく管理する」という誤解があります。実際には、各タスクから分散していた“余裕”を、プロジェクト全体の終了間際にまとめて「バッファ」として確保し、遅れが出た時に全体への影響を抑える方法です。部分的な最適化(ローカル最適)を全体最適(グローバル最適)に切り替える発想がポイントです。

PPMの対象範囲

PPM(プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、現場のプロジェクト進行管理ではなく、組織全体でどの案件に資源を集中させるか、採用または中止するかといった「案件選定」や「全体最適化」の枠組みです。プロジェクト進行そのものの管理と混同されることが多いため、役割の違いを正しく理解して使い分けることが重要です。

次の章に記載するタイトル:導入ステップ(実務アクション)

導入ステップ(実務アクション)

1. 現状を把握しましょう

まず最初に、ご自身やチームのプロジェクト運営について現状診断をおこないましょう。たとえば「不確実な要素や変更がどれくらい多いか」「複数の案件がどれほど並行しているか」「担当できる人や時間の余裕がどの程度あるか」などを整理します。さらに、求める成果物の品質や管理レベルについても明確にしておきます。こうすることで、このあと紹介するマネジメント手法のどれを重点的に導入すべきかが分かります。

2. 基盤を整える

次はプロジェクト管理の基盤づくりです。まずは、PMBOKで整理されている「WBS(作業分解構造)」の種準や、計画書・記録のフォーマット(ひな形、テンプレート)を用意しましょう。加えて、作業の進め方やリスク発生時の対応フロー、伝えるべき情報とそのタイミングを決めておきます。これだけでも日々の管理負担がかなり軽減されます。

3. 見える化を実行する

実際にプロジェクトが始まったら、WBSを作成し、ガントチャートでタスクの進捗や誰がどれだけ忙しいかを分かるようにしましょう。もし不確実な作業時間が多い場合は、PERT(3点見積もり)を使うのも有効です。あわせて、人の割り当て表も作成し、負荷の偏りを「見える化」します。

4. 上位最適の導入

プロジェクトが複数ある部署や組織なら、PPM(プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント)を検討しましょう。これにより、どの案件に力を入れ、どこで中断や中止を判断するかの基準が明確になります。事業全体の成果につながりやすくなります。

5. ボトルネックと遅延対策

進捗が遅れがち、予定通りに終わらない、といった悩みが続くなら、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクト・マネジメント)の考えで「余裕(バッファ)設定と進捗の見守り」を試すのが効果的です。余計なタスク詰め込みや遅れの早期発見に役立ちます。

6. アジャイル適応とテーラリング

状況に応じて柔軟に手法を使い分けることも大切です。たとえば変化が早い分野では、PMBOKの第7版の原則を参考にしつつ、自社流に合わせて「テーラリング(手法やルールを部分的に変更)」するのも良いでしょう。アジャイル開発が適する場面ではその手法も選択肢に加えてください。

-リーダーシップとマネジメントスキル