この記事でわかること
- なぜ図でプロジェクトを可視化するのか
言葉だけでは伝わりにくい複雑な情報を、図にすることで直感的に理解できる理由。 - PERT図の役割と使いどころ
タスクの順序や依存関係、クリティカルパスを明確にして遅延リスクを把握する方法。 - ガントチャートの特徴と活用法
スケジュールや進捗を横棒グラフで分かりやすく管理する実務での使い方。 - WBS(作業分解構成図)の重要性
大きな仕事を細かく分け、抜け漏れを防ぎ、役割を明確化する基本手法。 - プロジェクト体制図の意義
誰がどの役割を担い、どこに報告・指示を出すのかを一目で理解できる指揮系統の整理。
目次
はじめに:なぜ「図」でプロジェクトを可視化するのか

プロジェクトが順調に進むためには、「全体の流れ」「各タスクの所要時間」「どの作業がどれに影響するのか」「進捗状況」「誰が何を担当しているのか」など、たくさんの情報を正確に把握し、共有することが欠かせません。しかし、大勢が関わるプロジェクトでは、口頭や文章だけで説明すると、分かりづらかったり、情報の抜け漏れや誤解が生まれやすくなります。
このような時に力を発揮するのが「図」です。たとえば、道順を言葉だけで説明するより地図を描いた方が分かりやすいのと同じように、複雑なプロジェクトも図にすることで全体像を直感的につかむことができます。また、図を使えば、どこが遅れているのか、どの作業がカギになるのか、といったリスクやポイントも一目で分かります。そのため、図の活用はプロジェクトの効率化やトラブル防止に大いに役立ちます。
本記事では、代表的な4つの図を紹介し、それぞれの特徴や使い分けについて分かりやすく説明していきます。それぞれの図には以下のような強みがあります:
- PERT図…タスク同士の関係や最短所要時間の分析が得意
- ガントチャート…進捗状況やスケジュール管理が分かりやすい
- WBS…作業を細かく分解し、抜け漏れを防ぐ
- プロジェクト体制図…指揮系統や役割分担がはっきり分かる
これらの図を活用することで、情報共有がスムーズになり、全員が同じ方向を向いてプロジェクトに取り組めるようになります。
次の章では、最初に「PERT図」について詳しくご紹介します。
PERT図(Program Evaluation and Review Technique)
PERT図とは?
プロジェクト管理の現場でよく使われる「PERT図」は、作業(タスク)同士のつながりや、作業にかかる時間を“図”にして表す方法です。各作業を四角や円などのノード(点)で、作業の順番や関係を矢印でつなぎます。たとえば「Aの作業が終わらないとBは始められない」という流れを、矢印1本でハッキリ示せます。これによって、計画のどこが遅延しそうなのか、どこを特に気をつけて管理すればよいかが一目で分かります。
どんな時に使うと効果的?
PERT図は、次のようなときに特に威力を発揮します。
- 作業の順番が複雑で、どこから手を付ければいいか分かりづらいとき
- 工程の一部に不確定な要素(例:見積もりが難しい期間)が含まれているとき
- プロジェクト全体の中で“絶対に遅らせてはいけない部分”=クリティカルパスを明確にしたいとき
たとえば、新しい製品を開発する場合、設計→部品調達→組み立て→検査……のように多くの工程があり、それぞれに依存関係があります。PERT図ならこれらを整理し、遅れが波及しそうな部分を事前に見つけられます。
PERT図の作り方を簡単に
PERT図の作成は次のような手順で進みます:
1. まず必要な作業(タスク)をすべて洗い出します。
2. 各作業がどれに依存しているか(先に終わっていないとできない作業はどれか)を決めます。
3. 各作業にかかる時間をざっくり見積もります。
4. ノードと矢印でネットワーク図を作り、全体の流れを“見える化”します。
5. 最も時間がかかるルート(=クリティカルパス)を確認します。ここが遅れると全体が遅れてしまうため、注意が必要です。
注意点・工夫のポイント
PERT図はとても便利ですが、プロジェクトが大きくなるとノードや矢印が複雑になり、見づらくなることがあります。そうした場合は、WBS(タスク分割表)と組み合わせたり、工程をいくつかのフェーズに区切って個別に描いたりすることで、わかりやすさを保てます。
次の章に記載するタイトル:ガントチャート(Gantt Chart)
WBS(Work Breakdown Structure)
WBSとは?
WBS(Work Breakdown Structure、日本語では「作業分解構成図」「作業分解構造」)は、プロジェクトの目標を達成するために必要な作業を階層的に分解し、ツリー状に整理する図です。大きな作業を小さな作業へと段階的に落とし込み、最終的に「どこまでやれば完了か」を明確にします。
なぜWBSが必要か?
- 全体像の把握:大きな目標を具体的なタスクに落とし込むことで、プロジェクトの全体像を直感的に理解できる。
- 抜け漏れ防止:作業を網羅的に分解するため、忘れや重複を防ぎやすい。
- 役割分担の明確化:誰が何を担当するかがはっきりする。
- 次の作業が一目でわかる:順序や優先度が明確になる。
WBSの構成要素
- 階層構造:目標 → 大きな作業 → 小さなタスクへ分解。
- タスクの明確化:作業ごとに名前をつけ、意味を曖昧にしない。
- 応用編:担当者や期限を紐づけることも可能。必要に応じて「WBS辞書(用語解説集)」を作ると混乱を防げる。
WBSの作り方
- プロジェクトの最終目標を最上位に置く。
- その下に大きな作業を列挙する。
- さらに細かなタスクへ分解し、必要に応じて小ステップまで掘り下げる。
- 適切な粒度(数日〜1週間で終わる程度)で止め、作業一覧として整理する。
具体例
「新商品発売プロジェクト」の場合:
- 新商品発売
├ 商品開発
├ 材料調達
├ 試作品作成
├ 販売準備
├ パンフレット作成
└ 販売店との契約
「ホームページ制作」の場合:
- ホームページ制作
├ デザイン
│ ├ トップページデザイン
│ └ サブページデザイン
├ コーディング
└ テスト
他の図との関係
これらと組み合わせることで、スケジュールや進捗管理がより実用的になる。
PERT図:WBSで分解したタスクを、順序や依存関係で表現。
ガントチャート:WBSの作業を時間軸に展開し、担当・進捗を管理。
プロジェクト体制図(組織図)

プロジェクト体制図とは?
プロジェクト体制図(組織図)は、「誰がどのような役割を持って、どこに報告・指示を出すのか」を目で見て分かるようにまとめた図です。例えば、建設工事やITシステム開発など、人が集まって作業するプロジェクトでは、役割や指揮命令の流れが複雑になりがちです。体制図を作ることで、現場が混乱せず、連絡や意思決定がスムーズになります。
組織図の基本構成
体制図の一番上には、プロジェクト全体の責任者である「プロジェクトオーナー」や「クライアント責任者」が配置されます。その下に「プロジェクトマネージャー(PM)」がいて、現場のPL(プロジェクトリーダー)やチームメンバーと直接やりとりします。例えば、大きな工事プロジェクトであれば、オーナー→工事現場監督(PM)→各作業班長(PL)→作業員、という形が一般的です。その構造を図で示すことで、誰に何を伝えるべきかが一目で判断できます。
実務で大切なポイント
プロジェクトが大きくなると、人の数も増え、体制もどんどん複雑になります。このときは「どの担当が窓口になるか(問い合わせ先)」「どこまでの権限や責任があるか」「問題が起きた場合は誰にどう相談するか(エスカレーション経路)」といった情報を、体制図の中で明確に示すことが大切です。例えば、営業担当はクライアントと直接話してもよいのか、技術担当はオーナーに何を報告するのかを決めておくことで、不要な混乱が減ります。
分かりやすさを優先する工夫
組織図は四角や丸で役職を書き、線で上下関係や連絡経路をシンプルにつなげます。複雑な体制でも、「誰に聞けば分かるか」「指示は誰から出ているか」に注目すれば、図解の意味が伝わりやすくなります。
次の章に記載するタイトル:4つの図の使い分け(比較と実務手順)
作成のベストプラクティス
効果的な図の作成ポイント
プロジェクト管理の図を作成する際には、見やすさと分かりやすさを重視することが大切です。例えば、複雑な情報は色分けやグループ分けを使って一目で理解できるよう調整します。また、必要な情報だけを載せて、細かすぎる内容は別資料で補足すると全体像が把握しやすくなります。
図ごとの工夫
- WBS:最初に大きな作業をグループ分けし、そこから徐々に細分化する方法がよく使われます。いつ、どの段階で誰が作成するのか明確にしておくと、見直しや追加もスムーズです。
- PERT図:タスク同士の関係が複雑な場合は、矢印や線の色を変えることで重要経路(クリティカルパス)や、並行可能な作業が分かりやすくなります。
- ガントチャート:開始日・終了日や人員名を明記し、進捗状況は定期的に更新するのが効果的です。ガントチャートの横軸は日付の間隔を調整し見やすさを優先しましょう。
- 体制図:役割と報告ラインを明確に示すため、名前・役職・担当範囲をはっきり記します。チームの変更があれば速やかに更新して現状に合った図にしましょう。
図をチームで活用するコツ
作成した図は、チーム全員がいつでも見られる場所に置くのが望ましいです。会議での説明や問題発生時の確認にも効果的です。修正があった場合は全員に伝え、常に最新情報が共有されていることを意識します。
次の章に記載するタイトル:よくある質問(FAQ)
よくある質問(FAQ)
この章では、図の作成や活用について、多くの人が疑問に思うポイントをFAQ形式でまとめます。
Q1. 図の作成にはどれくらい時間がかかりますか?
A:初めて作成する場合は半日以上かかることもありますが、慣れてくればプロジェクトの規模や複雑さによって1〜2時間程度で作れます。テンプレートを活用すれば効率化も可能です。
Q2. WBSやガントチャートを後から修正しても大丈夫ですか?
A:はい、大丈夫です。プロジェクト状況は常に変化するため、図も柔軟に修正することが前提です。むしろ定期的な見直しこそがプロジェクト成功の鍵となります。
Q3. どの図から作成すれば良いですか?
A:多くの場合、まずWBS(作業分解図)を作るのが効果的です。その後、作業の順序や依存関係を明確にするためにPERT図を作成し、最後にガントチャートでスケジュールと担当を割り当てる流れがスムーズです。
具体例
- WBS:要件定義、設計、開発、テストに分解
- PERT図:設計→テストの順序を整理、クリティカルパスを把握
- ガントチャート:誰が・いつ作業を行うかをカレンダー形式で可視化
Q4. 線表とガントチャートの違いは何ですか?
A:線表は工程表の総称で、複数の作業を線で示したシンプルな図です。ガントチャートはその中の代表的形式で、作業を棒グラフ(バー)で表し、詳細な進行管理ができます。
具体例
- 建設現場:手書きの簡単な線表を利用
- IT・事務系プロジェクト:Excelや専用ツールでガントチャートを利用
Q5. 小規模な案件の場合、省略や簡略化はできますか?
A:小規模案件ではWBSを大まかに作るだけでも十分です。その後はガントチャートを中心に進行管理し、必要なら簡単なPERT図で流れだけ確認します。場合によってはPERT図を省略しても問題ありません。
具体例
短期イベントやキャンペーンなら「WBSで大枠を整理 → ガントチャートで進行管理」、要所だけ簡易PERT図を追加、といった方法が効率的です。
Q6. 無料のツールでも十分に作成できますか?
A:はい。Excel、Googleスプレッドシート、無料のオンラインツールなどでも十分に作成可能です。ただし、チーム全体で共有・更新する場合は専用ソフトを検討すると管理がスムーズになります。
Q7. 図をチームで共有する際のコツはありますか?
A:図だけでなく注釈や説明文を添えて、誰が見ても理解できる状態にすることが大切です。また、定期的にレビュー会議を設けて図を更新し、共通認識を保つと効果的です。
各図の一言まとめ
PERT図
プロジェクトにおける各作業間の順序や、所要時間のネットワークを図で表現します。主に「どの作業が遅れると全体に影響するか(クリティカルパス)」を見抜くのに役立ちます。車のカーナビが目的地までの最適ルートを示すように、最も効率よくゴールへ到達する道筋を探せます。
ガントチャート
プロジェクトの進行を横棒(バー)で視覚化するスケジュール表です。「いつ・だれが・どの仕事を・どれくらい」行うのか分かります。カレンダーのように全体の予定と進捗管理がしやすくなります。
WBS(作業分解構成)
大きな仕事を細かく分けて、ひとつずつ作業内容・担当者・範囲を明らかにします。パズルのピースを形で分けるように、全体の作業がもれなく整理できます。
体制図(組織図)
プロジェクトチーム内の役割と、誰が誰の指示を受けるか(指揮命令系統)を図で表します。グループ内の関係や責任が一目で分かるようになります。
この記事では、様々な図でプロジェクトを可視化する手法とその使い分けを解説しました。必要に応じて、ぜひ活用してください。