目次
はじめに
企業で「経営者」と「取締役」という言葉を聞いて、どちらがどんなことをするのか分かりにくいと感じていませんか?本記事では、その違いと関係性を分かりやすく整理します。会社法上の位置づけや実務上の役割、選任方法、社長や執行役員との違いにも触れ、実務で役に立つ視点をお伝えします。
目的
- 用語の意味を明確にする
- 法的な責任と日常の業務の違いを示す
- 実務上のヒエラルキーと役割分担を理解してもらう
想定する読者
- 経営に関わる可能性のある人(起業家、管理職)
- 取締役会や会社組織の仕組みを知りたい人
- 経営と法務の違いを学びたい人
本記事の構成と読み方
以下の章で順に説明します。第2章は定義と基本的な違い、第3章は取締役の法的立場、第4章は経営者の実務、第5章で両者の関係性とヒエラルキー、第6章で執行役員との違い、最後にまとめを載せます。ひとつずつ読み進めると、実務での立ち位置が見えてきます。
経営者と取締役の定義・基本的な違い
定義
- 取締役:会社法で定められた「役員」です。株主総会で選任され、会社の大きな方針や戦略を決め、重要事項の意思決定とその監督を担います。法的な地位と責任が明確です。
- 経営者:企業の日々の運営や実務を取りまとめる人を指します。社長やCEOなど実務を統括する立場ですが、必ずしも取締役とは限らず、従業員として執行役員や部長が経営を担うこともあります。
基本的な違い(わかりやすく)
- 法的地位と役割:取締役は法律に基づく役職、経営者は実務的なリーダーです。
- 任命方法:取締役は株主総会で選ばれます。経営者は取締役会が任命したり、雇用契約で就く場合があります。
- 主な業務:取締役は方針決定と監督、経営者は方針に基づく実行と日常管理を行います。
具体例
- 小さな会社では、創業者が取締役であり同時に経営者として現場も回すことが多いです。
- 大きな会社では、取締役会が戦略を決め、経営陣(執行役員・部門長)が実行します。
取締役の役割・責任・会社法上の位置づけ
概要
取締役は会社法上の「役員」にあたります。株主総会で選任され、会社の重要事項を決める立場と、業務執行を監督する立場を兼ねます。
主な役割
- 経営方針や中長期の事業計画を決定します。例:新しい事業に参入するか、M&Aを行うかの判断。
- 代表取締役の選定や解任を行います。
- 業務執行を監督し、取締役会で報告を受けてチェックします。日常業務は経営陣に任せることが多いです。
法的責任
- 善管注意義務(ふつうの注意を払う義務):業務を行う際に合理的な注意を払わなければなりません。例:重要情報を見落として大きな損失を招くと責任が問われます。
- 忠実義務(会社の利益を優先する義務):自己の利益を優先する取引は回避し、利益相反を適切に開示する必要があります。
- 違反した場合、会社や株主に対する損害賠償責任が生じます。株主代表訴訟の対象にもなります。
報酬と選任の仕組み
取締役の報酬は株主総会の決議や定款で定めます。業績や職務内容を踏まえて決定されます。解任は株主総会で可能です。
実務上の留意点
重要な意思決定は取締役会で記録を残すこと、専門家の意見を求めること、利害関係を適切に開示することが実務上の基本です。
経営者の役割・実務的責任
経営者は取締役会で決まった方針に沿って、会社の日々の業務を実行・管理します。社長やCEOは戦略の立案から実行、組織の指揮、重要な現場判断まで担います。実務に即した具体的な役割を、わかりやすく整理します。
経営戦略の立案と実行
- 事業計画や予算を作成し、KPIを設定して進捗を管理します。
- 例:新商品をいつ・どの市場で発売するかを決め、販促と生産を調整します。
日常の業務管理と意思決定
- 資金繰り、人員配置、業務プロセスの改善を指示します。
- 緊急事案では現場で迅速に判断し、影響を最小限に抑えます。
組織づくりとチームマネジメント
- 幹部育成、評価制度の運用、社内文化の形成に責任を持ちます。
- モチベーション管理やコミュニケーションの仕組みを整備します。
対外的な代表業務
- 取引先や金融機関との交渉、メディア対応、株主説明を行います。
- 会社の顔として信頼を築く役割があります。
監督・報告の実務
- 定期的に取締役会に報告し、重要事項は承認を得ます。したがって、重大案件では事前に取締役会と調整します。
実務上の注意点
- リスク管理やコンプライアンスを日常業務に組み込みます。
- 小さな変化でも早めに共有し、取締役会との連携を保ちます。
取締役 vs 経営者:実務上の関係性とヒエラルキー
概要
取締役は会社全体の方針や監督を担い、経営者(社長・CEO等)は方針を実行して日々の組織運営を統括します。社長は多くの場合、取締役の中から選ばれ、取締役会の決定を実務で指揮します。
日常の役割分担(具体例付き)
- 取締役:中長期戦略の承認、重要投資の決定、社外との重大な契約承認。例)新規事業へ10億円投資するかの判断。
- 経営者:戦略を実行する計画作り、人員配置、予算執行。例)投資後の事業計画作成とチーム編成。
意思決定の流れとヒエラルキー
取締役会が“方針の枠”を決め、経営者がその枠内で実行します。経営者は取締役会に報告し、必要時は追加の承認を求めます。リーダーは取締役会(監督)→社長(執行)という関係性です。
責任の分担とリスク管理
法的責任は取締役が中心ですが、経営者も取締役である場合は同じく責任を負います。リスク管理は取締役が方針と体制を設計し、経営者が運用・改善を行います。
実務上の良い関係を作るポイント
- 役割を明文化する(意思決定基準と権限を明確化)。
- 定期的な報告と迅速な情報共有。例)月次KPIと四半期の戦略レビュー。
- 建設的な対話を奨励し、経営者の実行力と取締役の監督力を両立させる。
これらで現場のズレを減らし、意思決定の速度と精度を高められます。
執行役員との違い
執行役員とは
執行役員は、取締役会の方針や決定に従って会社の業務を実行する役割です。企業が独自に設ける制度で、会社法上の「役員(取締役等)」には該当しないことが多い点が特徴です。たとえば「営業本部長(執行役員)」という肩書きで、日々の事業推進を担うことがあります。
会社法上の位置づけ
執行役員は法定の役員ではないため、就業規則や雇用契約で扱われることが多いです。取締役のように株主総会で選任されるわけではなく、取締役会や代表取締役の決定で任命・解任されます。責任は契約上や社内規程に基づくため、法的責任の範囲が取締役と異なります。
取締役との主な違い(わかりやすい例)
- 任命方法:取締役は株主総会で選ばれます。執行役員は社内の人事決定で任命されます。
- 法的責任:取締役は会社法上の忠実義務など法的責任が重いです。執行役員は雇用契約や社内規程に基づく責任が中心です。
- 役割の焦点:取締役は経営方針や監督に重点を置きます。執行役員は日常業務の実行に集中します。
実務上の利点と注意点
利点は、業務執行を専門化し意思決定のスピードを上げられることです。たとえば、営業や生産に専念させることで取締役会は戦略に集中できます。注意点は責任の所在があいまいになりやすいことです。トラブル時に誰が最終責任を負うかを定款や取締役会の議事録で明確にしておく必要があります。
どう確認すればよいか(実務的アドバイス)
就業規則、役員名簿、定款、取締役会の議事録を確認してください。社内で「執行役員は契約社員か役員か」を明確にしておくと、責任や手続きがぶれません。実務担当者と取締役の役割分担を文書化することをおすすめします。
まとめ:企業経営における「取締役」と「経営者」の理解が不可欠
要点の再確認
取締役は会社の方針や戦略を決め、経営全体を監督します。経営者はその方針を実行し、日々の組織運営や業務遂行を担います。取締役は法律上の義務や説明責任を負い、経営者は業績と現場の責任を負います。
実務での違い(具体例)
- 取締役会での決定:新事業の方針や中長期戦略の承認は取締役の役割です。
- 実行と運営:事業計画に基づく人事・予算配分・販売促進は経営者が実行します。
見分け方と注意点
名刺の肩書だけで判断せず、誰が意思決定をしたか、どの場面で責任を取るかを確認してください。小さな会社では同一人物が両方を兼ねることがありますが、役割を明確にするとガバナンスが改善します。
経営に活かすポイント
取締役と経営者が互いに役割を尊重し、情報を共有することが重要です。方針決定と実行の間に適切なチェックとフィードバックを設けると、透明性と効率が高まります。
この違いを理解すると、会社組織の仕組みや意思決定プロセスが見えやすくなります。経営の健全性と効率を高めるために、両者の役割を意識してみてください。