リーダーシップとマネジメントスキル

リスクマネジメントと危機管理の基本から実践まで詳しく解説

はじめに

本資料の目的

本資料は「リスクマネジメント(危機管理)」について、実務で役立つ基礎知識を分かりやすくまとめています。企業や団体が直面する損失や混乱を減らすための考え方と方法を提示します。具体例を交えて、導入と運用の第一歩が踏み出せるようにしています。

なぜ重要か

リスクは自然災害、情報漏えい、取引先の倒産、品質トラブルなど形を変えて現れます。適切に管理すると、被害の発生確率を下げ、発生時の影響を小さくできます。被害を最小限に抑えることで、事業継続や信頼維持につながります。

対象読者

・リスク管理の基礎を学びたい経営者や担当者
・実務でリスク対応を整えたい部署
・初めて方でも取り組める実践的な手順を求める方

本書の構成案内

第2章で定義と基本概念、第3章で4段階のプロセス、第4章で具体的手段、第5章で関連概念との違いを解説します。各章は実務を意識した例を交えて説明します。

リスクマネジメントの定義と基本概念

リスクマネジメントとは

リスクマネジメントは、組織が直面する損失や影響を計画的に減らす活動です。リスクが現れる前に準備を整え、発生時の被害を小さくします。たとえば、部品供給の遅れに備えて複数の仕入先を確保することもリスクマネジメントの一例です。

リスクと不確実性の違い

リスクは起こり得る事象とその結果を把握できる状態です。発生確率や影響の見積もりが可能です。対して不確実性は予測が難しく、把握が難しい事柄を指します。例えば天候の急変は不確実性が高い事象です。

可能性と影響の考え方

リスクは「発生する可能性」と「発生したときの影響」で評価します。頻度の高い小さな損失と、稀だが大きな損失を区別して対策を決めます。ITシステムの停止は影響が大きいため予防やバックアップを重視します。

リスクアペタイト(受容度)

組織ごとに許容できるリスクの大きさが違います。新興企業は成長優先でリスクを多めに取ることがあります。一方、公共機関は安全性を重視してリスクを低く抑えます。

ステークホルダーと目的

リスク管理は経営者、従業員、取引先、顧客など多くの利害関係者の信頼を守ります。目的は資産や業務の継続、法令順守、企業価値の維持向上です。

なぜ重要か

適切なリスク管理は意思決定の質を高め、予期せぬ損失を減らします。結果として効率的な運営と信頼の獲得につながります。

リスクマネジメントの4段階プロセス

リスクマネジメントは順序立てて行うと効果が出ます。ここでは4つの段階を具体的に説明します。

1) リスクの特定

事業の目的や業務の流れを見ながら、起こり得る問題を洗い出します。関係者への聞き取りや過去の事例の確認、作業現場の観察が有効です。例:納期遅延、情報漏えい、設備故障など。

2) リスクの分析

リスクごとに「発生しやすさ(発生頻度)」と「発生したときの影響(影響度)」を評価します。簡単な表(低・中・高)で分類すると分かりやすいです。優先度の高いリスクから対策を検討します。

3) リスクへの対応

主な対応は4つです。回避(原因をなくす)、軽減(影響を小さくする)、移転(保険や外部委託で負担を減らす)、容認(許容範囲として受け入れる)。具体例:重要データはバックアップで軽減し、外部業務は契約で責任を明確にして移転します。

4) リスクの評価と改善

実施した対策の効果を定期的に点検します。結果をもとに改善案を作り、PDCAサイクルで継続的に見直します。新たなリスクが出たら1)に戻り、順序を繰り返します。

リスク対応の具体的な手段

概要

リスク対応は大きく「リスクコントロール」と「リスクファイナンシング」に分かれます。それぞれの手段を具体例とともにわかりやすく説明します。

リスクコントロール(発生を抑える・被害を小さくする)

  • 回避:リスクを伴う活動自体をやめます。例:安全基準を満たせない新製品の発売中止。
  • 損失防止:損失が発生しないよう対策します。例:機械の定期点検や社員教育で事故を未然に防ぐ。
  • 損失削減:損失が起きても規模を小さくします。例:工場にスプリンクラーを設置して火災被害を抑える。
  • 分離・分散:リスクを分けて一度に大きな損失にならないようにします。例:在庫を複数倉庫に分けて保管する。

リスクファイナンシング(損失の費用対応)

  • 移転:第三者に損失負担を移します。例:火災保険や請負契約で損害賠償責任を明確にする。
  • 保有:損失を自社で負担します。例:一定額まで自己負担する、または予備費を積む。

実務上のポイント

費用対効果を見て複数手段を組み合わせます。重要なのは残るリスク(残余リスク)を把握し、対策を文書化して定期的に見直すことです。

リスクマネジメントと関連概念の違い

冒頭

リスクマネジメントは、予測される問題を見つけ、評価し、抑えるための一連の仕組みです。日常業務での備えを中心に考えます。

リスクヘッジとの違い

リスクヘッジは特定の損失を減らす手段です。例えば、為替リスクをヘッジするために先物取引を使う、保険で損害を補償する、といった具合です。ヘッジは道具であり、リスクマネジメントはその道具を含む全体の計画です。

リスクアセスメントとの違い

リスクアセスメントは「特定・分析・評価」に限定します。危険を洗い出し、発生確率と影響度を評価する段階です。対処方法の実行までは含みません。

クライシスマネジメントとの違い

クライシスマネジメントは、リスクが現実になった後の対応です。迅速な情報発信や被害拡大の防止が中心になります。普段のリスクマネジメントが整っていると、危機対応の負担を小さくできます。

実務的な関係

日常はリスクマネジメントで予防と準備を行い、アセスメントで優先順位を決め、ヘッジや対策で備えます。万一のときはクライシスマネジメントに切り替えます。役割を分けておくと対応がスムーズになります。

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