はじめに
本資料について
本資料は、コーチングの基本概念、スキル、効果、種類、プロセス、そして他の指導方法との違いを体系的にまとめた入門ガイドです。現場で使える実践的な視点を大切にし、誰でも読みやすい言葉で説明します。
本資料の目的
コーチングが初めての方にも分かるよう、基礎から応用まで段階的に理解できる構成にしました。具体例を交え、日常や職場で使えるポイントを提示します。
想定読者
- コーチングを学び始めたい方
- 職場で部下育成を担当する方
- 自己成長やキャリア形成に関心がある方
コーチングとは(短い定義)
コーチングは、相手の目標達成や自己発見を支援するコミュニケーション手法です。コーチは答えを与えるのではなく、質問や傾聴を通して相手の気づきを引き出します。例えば、昇進を目指す社員が自分の強みと行動計画を明確にする場面で役立ちます。
この資料の使い方
各章を順に読み、紹介する基本スキルは実際に試してください。短い演習や振り返りを行うことで理解が深まります。今後の章では、具体的なスキルやプロセスを丁寧に解説していきます。
コーチングの基本定義と概念
1. コーチングとは
コーチングは、クライアントが自らの目標を達成するために必要な能力や行動を引き出す支援プロセスです。単に教えるのではなく、対話を通して気づきや意欲を引き出し、自己成長を促します。たとえば、仕事での昇進を目指す人に対して、目標を明確にし行動計画を作る手助けをします。
2. 特徴
- クライアント主体:主導権はクライアントにあります。コーチは援助役として問いを投げかけます。
- 具体的な目標設定:実現可能で測定できる目標を一緒に作ります。
- 行動重視:気づきだけでなく、具体的な行動につなげます。
3. コーチとクライアントの役割
コーチは傾聴し、的確な質問とフィードバックで気づきを促します。クライアントは自分の価値観や目的を明確にし、主体的に行動します。たとえば、健康改善が目標なら、コーチは習慣化の工夫を共に考え、クライアントは実行に移します。
4. よくある誤解
コーチングは答えを与える指導ではありません。代わりに、答えを見つけるための対話です。また、短期的な問題解決だけでなく、長期的な自己成長にも役立ちます。
5. 日常での応用例
上司との面談、キャリア設計、学習計画、生活習慣の改善など、さまざまな場面で使えます。誰でも取り入れやすいコミュニケーションの技術です。
コーチングの基本原則
はじめに
コーチングは教えることよりも、相手の中にある答えを引き出すことを大切にします。ここでは日常の対話で使える基本原則と具体例をわかりやすく説明します。
1. クライアント中心
原則:相手の目標や価値観を起点に進めます。
具体例:まず「今一番大切にしていることは何ですか?」と尋ね、相手の優先順位を確認します。
2. 無条件の受容
原則:評価せずそのまま受け入れます。
具体例:失敗の話でも否定せず「その時どんな気持ちでしたか?」と感情に寄り添います。
3. 傾聴
原則:相手の話を深く聞き、言外の意味も汲みます。
具体例:要約して返す(「つまり○○ということですね」)で理解を示します。
4. 質問で促す
原則:適切な質問で視野を広げます。
具体例:選択肢を出す質問(「他にはどんな方法が考えられますか?」)。
5. エンパワーメント(自立支援)
原則:相手が行動する力を引き出します。
具体例:小さな実行計画を一緒に作り、次の一歩を決めます。
6. 行動と責任
原則:決めたことを行動に移し、結果に責任を持ちます。
具体例:期限を設定し、次回の面談で振り返ります。
7. 信頼と守秘
原則:安全な場を作り、安心して話せるようにします。
具体例:面談の内容は外に出さない約束を明確にします。
8. 感情・価値観・信念への寄り添い(mentoの特徴)
原則:深い対話で内面の変容を支援します。
具体例:価値観に関する問い(「それはあなたにとって何を意味しますか?」)で気づきを促します。
これらの原則を日々の対話で意識すると、相手の主体性を尊重した効果的なコーチングができます。
コーチングの4つの基本スキル
1. 傾聴(リスニング)
相手の言葉だけでなく、声のトーンや表情、沈黙も注意深く観察します。相手の話を途中で遮らず、受け止める姿勢を見せると安心感が生まれます。例えば、部下が悩みを話すときに要約して返すと「伝わっている」と感じます。ポイントは判断を保留し、まず理解を優先することです。
2. 質問(クエスチョニング)
答えをこちらから与えず、考えを引き出す質問をします。オープンな質問(例:「それをどう感じましたか?」)は思考を広げ、具体的な質問(例:「次は何を試しますか?」)は行動に結びつけます。問いは相手の気づきを促すように簡潔にします。
3. 承認(アクノレッジメント)
小さな進歩や気づきを言葉で認めます。具体的に何が良かったかを伝えると自信が高まります(例:「今回の報告は要点が明確で分かりやすかったです」)。承認は励ましだけでなく、次の一歩へつなげる効果があります。
4. フィードバック
事実に基づき具体的に伝えます。観察したこと、影響、期待する行動の順に話すと受け取りやすいです(例:「会議で発言が少なかったため意見が共有されませんでした。次回は一つ意見を出してほしいです」)。批判ではなく改善のための情報提供を心がけます。
コーチングの効果と価値
自己認識の促進
コーチングは質問を通して自分の考えや感情、行動パターンに気づかせます。たとえば毎回会議で発言を避ける人が、なぜそうするかを言葉にすることで原因が見え、改善の一歩を踏み出せます。
目標設定が容易になる
コーチは抽象的な願いを具体的な目標に変える手助けをします。例として「仕事で評価されたい」を「四半期で3件の成果を社内報告する」に落とし込みます。具体化すると行動計画が立てやすくなります。
問題解決能力の向上
対話を通して選択肢を広げ、実行可能な解決策を見つけます。短いワークで試行錯誤する習慣がつき、同様の問題に自分で対処できる力が育ちます。
行動変容の促進
気づきと計画がそろうと、人は実際に行動を変えやすくなります。小さな実験を繰り返すことで習慣化が進み、望む成果に近づきます。
組織やチームへの価値
個人の成長がチームのパフォーマンス向上につながります。コミュニケーション改善や目標共有が進み、生産性や満足度が上がることが多いです。
測定と実例
効果は定量(達成数や時間短縮)と定性(自信や満足度)で測れます。たとえばある社員がコーチングで提出物の遅れを半分にし、上司との関係も改善した例があります。
コーチングの種類
ライフコーチング
日常生活や人間関係、価値観の整理を支援します。例えば、転居や子育て、時間管理で迷う人に向いています。目標設定や小さな行動計画を一緒に作り、継続しやすい方法で進めます。
ビジネスコーチング
仕事の成果やキャリア形成を高めるための支援です。営業成果を伸ばしたい人、マネジメント力を高めたい人が対象です。具体的には目標達成の戦略立案や時間配分の改善を行います。
エグゼクティブ/リーダーシップコーチング
経営者や上級管理職向けに、意思決定や組織運営、影響力向上をサポートします。戦略的な視点の育成やステークホルダーとの関係構築を重点的に扱います。
チームコーチング
チーム全体のコミュニケーションや協働を改善します。チームの役割分担やミーティングの進め方を見直すなど、実務に直結した支援を行います。
スポーツコーチング
アスリートの技術向上やメンタル強化を目的とします。練習計画の設計や試合での集中力維持など、競技特有の課題に合わせて指導します。
ウェルネス/ヘルスコーチング
健康習慣の定着やストレス管理を支援します。運動や食事の習慣化、睡眠改善のための具体的な行動計画を一緒に作ります。
選び方のポイント
目的と現在の課題を明確にし、実績や相性を確認してください。短期の課題解決なら具体的スキル指導型、長期の自己変容なら対話中心のコーチングが向いています。
コーチングのプロセス
はじめに
コーチングは目標設定、現状分析、アクションプラン作成という流れで進みます。対話を通して相手の気付きと行動を引き出し、少しずつ前に進めるよう支援します。
1. 目標設定(Goal)
達成したいことを明確にします。具体的で測れる目標を立てると効果的です。例:「来月までに新規営業を月10件獲得する」「次回の発表で緊張を減らす」。期限と達成基準を決めます。
2. 現状分析(Reality)
今の状況や障害を共有します。何ができているか、どこに課題があるかを具体的に話します。例:「現在は月5件、見込みは○件。面談数が足りない」などです。
3. アクションプラン作成(Options → Will)
達成のための選択肢を複数出し、その中から実行する行動を決めます。行動は小さく分け、担当と期限を明確にします。例:「週に5件の新規アプローチを行う」「毎回の面談で1つ改善点をメモする」。
GROWモデルの活用例
GROWはGoal(目標)、Reality(現状)、Options(選択肢)、Will(実行意志)の略です。例えばプレゼン力向上なら、目標→現状→練習方法の検討→いつ何をするかを決めます。
実践のポイント
- 小さな行動で試し、早めに振り返る
- 進捗を数値や記録で確認する
- 支援(フィードバック)と挑戦のバランスを保つ
- 次のセッションで成果と学びを必ず扱う
このプロセスを繰り返すことで、目標に近づく実感が得られます。
ティーチングとの違い
概要
コーチングは相手の内在する答えや可能性を引き出す対話型の手法です。ティーチングは知識や手順を教える伝達型の指導です。両者は目的と方法が異なりますが、補完して使えます。
目的の違い
- コーチング:相手の気づきと自発的行動を促します。
- ティーチング:短時間で特定の知識やスキルを習得させます。
方法の違い(具体例)
- コーチング:質問や傾聴で相手に考えさせる。例)部下に「どうしたいですか?」と問うて、自分で解決策を見つけさせます。
- ティーチング:説明と模範、反復練習で技術を伝える。例)エクセルの関数の使い方を順を追って教えます。
使い分けのポイント
相手に基礎知識が欠けている場面はティーチングが優先です。主体性を育てたい場面はコーチングが有効です。どちらも状況に応じて併用すると効果が高まります。
実践のヒント
- コーチングでは問いを具体的にし、相手の考えを引き出します(例:「いつまでに」「どのように」)。
- ティーチングでは目標と練習機会を明確にします。
- 両方を使うときはまず相手の状況を確認し、必要な知識を教えた後に気づきを促す流れを作ると効果的です。
メンター制度との違い
目的の違い
コーチングは相手の気づきや自己実現を引き出すことを目的とします。一方、メンター制度は長年の経験に基づく指導や助言で成長を支援します。コーチは質問や傾聴で自分の答えを見つけさせ、メンターは具体的なノウハウや成功・失敗の事例を伝えます。
期間と関係性
コーチングは目標達成までの一定期間で完結することが多いです。対照的にメンター制度は長期にわたる関係が一般的で、キャリア全般を見守る場合があります。
役割と手法
コーチはクライアントの内発的動機を引き出す質問とフィードバックを中心に行います。メンターは自らの経験を共有し、具体的な方法や判断基準を示します。たとえば、新人が仕事の進め方を学ぶときはメンターが有効で、自己目標の明確化や行動変容を支えたい場合はコーチが適しています。
フィードバックと権威性
メンターは専門的な助言を与えるため、権威的になりやすいです。コーチは評価や指示を控え、気づきを促すことに重きを置きます。
使い分けの目安
短期の課題解決や自己発見にはコーチング、長期的なキャリア形成や専門技術の継承にはメンター制度を選ぶと効果的です。両者を組み合わせることでより充実した支援になります。