コミュニケーションスキル

フィードバック制御と伝達関数の基礎から応用まで詳しく解説

はじめに

この記事の目的

本記事はフィードバック制御と伝達関数の基礎を、実務や学習に役立つ形でやさしく解説します。数式の背後にある考え方を重視し、設計や解析で使える直感を身につけることを目指します。

対象読者

制御工学を学ぶ学生、制御系に関わる技術者、初めて伝達関数やフィードバックを学ぶ方を想定します。専門用語は必要最低限にして、具体例で補います。

なぜ学ぶのか

伝達関数は入力と出力の関係を整理する道具です。フィードバック制御は望む動きを達成するための基本手法です。両者を理解すると、装置が安定に動くか、速く応答するか、外乱に強いかを設計できるようになります。

本記事の流れ

次章以降で伝達関数の定義、フィードバックの仕組み、閉ループ伝達関数の導出、設計や解析の手法、応用例、内部モデル原理まで順に説明します。章ごとに図や簡単な例を交えて進めますので、実践的に学べます。

伝達関数とは何か

伝達関数の定義

伝達関数は、システムの入力と出力の関係をラプラス変換で表した関数です。入力のラプラス変換をU(s)、出力をY(s)とすると、伝達関数G(s)はY(s)/U(s)(初期値ゼロ)で定義します。記号ではG(s)やH(s)で表します。

なぜ使うのか(イメージ)

微分方程式で表される装置を、代数式として扱えます。例えば、微分はs倍、積分は1/sに置き換わるので、複雑な微分方程式が簡単な掛け算や割り算に変わります。結果としてシステムの応答を計算しやすくなります。

簡単な例

例えば、RC回路(抵抗とコンデンサ)では微分方程式をラプラス変換すると、伝達関数はG(s)=1/(RCs+1)と得られます。時定数τ=RCと書けばG(s)=1/(τs+1)です。これで入力から出力までの応答を簡単に求められます。

特徴と使いどころ

  • 線形で時不変な系统を前提にします。非線形や時間変化する系ではそのまま使えません。
  • 分母の根(極)は応答の速さや安定性に関係します。分子の根(零点)は周波数特性に影響します。
  • 初期値がゼロという条件が重要です。初期状態がある場合は追加の項として扱います。

実務での利点

設計や解析で伝達関数を使うと、周波数応答や安定性解析、コントローラ設計が体系的に行えます。実機の動きを数学的に把握したいときに特に役立ちます。

フィードバック制御の仕組みと役割

概要

フィードバック制御は、目標値と現在の出力を比較し、その差(偏差)を使って入力を自動的に調整する仕組みです。偏差を小さくすることで出力を目標に近づけます。温度を保つサーモスタットや車の自動巡航(クルーズコントロール)が身近な例です。

基本の流れ

  1. 測定:センサーが現在の出力を測ります。
  2. 比較:目標値と比較して偏差を求めます。
  3. 制御:コントローラが偏差に応じて操作量を計算します。
  4. 実行:アクチュエータ(例:バルブやモータ)がその操作を実行します。
    この流れが連続して繰り返されます。

具体例で理解する

部屋の温度を例にすると、温度計が現在温度を測り、設定温度との差を基にヒーターの出力を調整します。外から寒気が入って温度が下がっても、制御が働いて再び目標に戻します。

役割と利点

  • 外乱(環境の変化)に対する追従性を高めます。
  • システムのばらつきや時間変化に強くなります。
  • 安定性を保ちながら目標に達するよう設計できます。

注意点

制御の仕方によっては振動や過度な応答になり得ます。設計では応答の速さと安定性のバランスを取ることが重要です。

フィードバック制御系の伝達関数

導出と基本式

フィードバック制御系では、制御対象(プラント)P(s)とコントローラC(s)を組み合わせて全体の応答を表します。単位フィードバック(出力の一部をそのまま比較器に戻す)では、入出力伝達関数は

G_y(s) = \frac{P(s)C(s)}{1 + P(s)C(s)}

で表せます。分母の1+P(s)C(s)がゼロになる点が閉ループの極を決め、安定性や応答速度に直結します。

単純な例での直感

例えばP(s)=1/(s+1)に比例ゲインkのコントローラC(s)=kをつけると、閉ループは

G_y(s) = \frac{k}{s + 1 + k}

になります。極はs=-(1+k)で、kを大きくすると応答は速くなります。もっと速くするほど、センサやアクチュエータの限界やノイズの増幅に注意が必要です。

設計上の読み取り方

伝達関数の分子はどのように出力が入力に結び付くかを示し、分母は系の内在的な応答(極)を示します。コントローラ設計は分母の形を変更して望ましい極配置を作る作業です。追従性(目標への寄り添い)や安定余裕はここで評価します。

感度と補完感度の概念

感度関数S(s)=1/(1+P C)は外乱やモデル誤差に対する出力の影響度を示します。補完感度T(s)=P C/(1+P C)は追従の度合いを示します。SとTは足すと1になり、一方を改善するともう一方が悪化するトレードオフがあります。

伝達関数を用いた設計・解析

概要

伝達関数を使うと、システムの出力が目標にどれだけ追従するか、安定かどうか、制御器でどのように改善できるかを定量的に調べられます。ここでは具体的な手順と注意点を分かりやすく説明します。

目標値追従性の評価

ステップ応答を求めると、立ち上がり時間、オーバーシュート、定常偏差が分かります。伝達関数に単位ステップを与えて応答を計算します。例えば、DCモータの伝達関数で速度のステップ応答を調べると、目標速度にどのくらい早く・正確に到達するかが分かります。定常偏差は積分項の有無で大きく変わります。

安定性の解析

系の安定性は伝達関数の分母の根(極)で判断します。実軸の左側に極があれば安定、右側にあれば不安定です。振動が出るときは虚軸付近の極を確認します。ルートラーカスやボード線図を使うと、ゲインを変えたときの極の動きや位相余裕が把握できます。

PIDコントローラを使った設計

PID制御器は比例・積分・微分の3要素を組み合わせて調整します。まず比例で応答を速くし、次に積分で定常偏差を小さくし、必要なら微分で振動を抑えます。伝達関数同士を掛け合わせて閉ループ伝達関数を作り、シミュレーションで性能を確認します。簡単な調整法として、比例を上げて応答を確認し、積分で偏差を補正、最後に微分で微調整します。

解析の流れ(実務向け)

  1. モデル化して伝達関数を得る
  2. 開ループ応答(ステップ、周波数応答)を計算する
  3. 極の位置で安定性を確認する
  4. コントローラを設計して閉ループ応答を評価する
  5. 実機を想定した制約(飽和、ノイズ)を考慮して調整する

注意点

モデル誤差や外乱、センサノイズは実際の挙動に大きく影響します。伝達関数は設計の指針になりますが、シミュレーションと実機試験を繰り返して安全に導入してください。

フィードバック制御のメリットと応用

メリット

フィードバック制御は、外からの乱れ(外乱)や機械のばらつきに強い点が大きな利点です。例えば、暖房の温度制御は外気温が変わっても目標温度に戻そうとします。モデルが完全でなくても、実際の応答を見ながら補正するため、精度と安定性を高めやすいです。

具体的な応用例

  • 自動車のクルーズコントロール:上り坂や下り坂で速度を一定に保ちます。
  • ロボット:外力がかかっても姿勢や位置を修正します。
  • 化学プラント:流量や濃度の変動を抑えて安定した生産を続けます。

他の方式との組み合わせ

フィードフォワード制御と組み合わせれば、予測に基づく早い補正とフィードバックの確実な補正を両立できます。カスケード制御では、内側のループで速い変動を抑え、外側のループで大きな目標を整えます。これにより応答性と安定性が向上します。

設計上の注意点

フィードバックは万能ではありません。利得を上げすぎると振動や不安定を招きますし、センサのノイズが増幅されることもあります。実装では応答速度、帯域、センサ・アクチュエータの制約をバランスよく考えてください。

内部モデル原理と定常偏差

内部モデル原理とは

内部モデル原理は、制御器が対象となる入力や外乱の性質を内部に持つとき、特定の定常偏差を完全に除去できるという考え方です。簡単に言えば、制御器の中に「追従したい信号の型(モデル)」を入れておくと、目標値にピタリと合わせやすくなります。

定常偏差と積分作用の役割

例えばステップ入力(瞬時に値が変わる目標)に対しては、制御器に積分器を入れると定常偏差がゼロになります。積分器は過去の誤差を蓄積して作用を強めるため、最後に誤差を残さないように働きます。クルーズコントロールで速度を一定に保つ場面を想像してください。積分作用があると、坂道での小さな差も時間とともに補正され、目標速度に合わせられます。

どのモデルが必要か(型の考え方)

外乱や目標の変化が「ステップ」なら1つの積分器で十分です。外乱が「線形に増える(ラプ)」なら積分器を2つ持つ必要があります。一般に、除去したい信号の次数に応じて制御器の内部モデル(積分の数)を決めます。

実装上の注意点

積分を入れると定常偏差は減りますが、扱いに注意が必要です。ノイズが増幅されやすくなったり、大きな入力変化で積分器が暴走する“ワインドアップ”が起きます。実際の設計では、フィルタやアンチワインドアップ機構を入れて安定性と応答性を両立させます。

設計のコツ(簡単な指針)

  • まず除去したい定常誤差の種類を特定する。
  • 必要な積分の数を決めて制御器に組み込む。
  • ノイズ対策やアンチワインドアップを必ず検討する。

これらを踏まえると、内部モデル原理は実務での精度向上に直結します。設計時に何をゼロにしたいかを明確にすることが大切です。

まとめ・実装へのアドバイス

設計の基本手順

まず伝達関数をできるだけ正確にモデル化します。実測データでパラメータを調整し、簡単なモデル(低次)から始めると安定して進められます。

コントローラ設計の実務ポイント

シンプルな構成(P、PI)でまず動作を確認してください。遅れやノイズがある場合はフィルタや微分項を控えめに使います。ゲインを上げすぎず位相余裕を確保することが重要です。

実装時の注意

離散化(サンプリング周期の選定)は実機性能に直結します。サンプル時間はシステムの速さの十分小さな値に設定してください。アンチウィンドアップ、出力飽和、センサノイズ対処を必ず組み込みます。

テストとチューニング

シミュレーションでステップ応答や周波数応答を確認し、段階的に実機へ移します。ログを取り、小さな変更を繰り返して安定化させます。

実務上の心得

安全制約と誤差に耐える設計を優先してください。したがって、まず安全側で試し、性能改善を進めると安心です。

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