コミュニケーションスキル

左脚ペーシングの基本知識と臨床効果を詳しく解説

はじめに

本稿は、左脚領域ペーシング(LBBAP)に関する実践的なガイドです。LBBAPは心臓刺激伝導系に近い部位で刺激を行うことで、従来の右室ペーシングや両心室ペーシングと比べて心機能の維持が期待される“生理学的ペーシング”の一つです。最新のガイドラインにも触れられており、臨床での注目度が高まっています。

目的と対象読者
- 本稿は、ペースメーカー植込みを行う医師や循環器科の研修医、臨床に関わる看護師・臨床工学技士を主な対象とします。専門用語は必要最小限にとどめ、具体例で理解を助けます。

LBBAPを学ぶ意義
- 右室ペーシングで心不全が進行した例や、両心室ペーシングが適応とならない患者での選択肢となります。生理的な興奮伝導を再現することで、心機能維持や症状改善が期待されます。

本稿の構成
- 第2章以降で、定義・手技・心電図所見・適応と効果・今後の課題・脚ブロックの基礎知識を順に解説します。臨床で役立つポイントを中心に丁寧に説明しますので、順にお読みください。

左脚領域ペーシングとは

定義

左脚領域ペーシング(LBBAP)は、右室中隔の深部にペースリードを挿入し、左室中隔の心内膜側から直接ペーシングして左脚本幹または左脚枝を刺激する技術です。簡単に言うと、心臓の電気信号を伝える主要な経路に近い場所から拍動を作る方法です。

仕組みと狙い

標準的な右室ペーシングは心室の一部から順に収縮を起こすため同期が崩れやすいです。LBBAPは伝導系に近い位置で刺激するため、自然に近い順序で左右の心室が収縮します。これにより心室同期が改善し、心機能の維持や改善を期待できます。

従来法との違い(例)

  • 右室ペーシング:単純だが心室同期を乱しやすい。例)長期で心機能低下を招くことがある。
  • 両心室ペーシング(CRT):重症心不全で有効だが、全例で効果が出るとは限らない。
  • LBBAP:より生理的な収縮を目指し、特に左脚ブロックや一部の心不全で注目されています。

長所と注意点

長所は自然に近い心室収縮、場合によってはCRT代替となる可能性がある点です。注意点はリードの位置決めや合併症のリスク管理が必要なこと、そして全ての症例で常に最良とは限らない点です。

ガイドラインとの位置づけ

近年、国際的・国内のガイドラインにも記載され、臨床での選択肢として認識が広がっています。適応は個々の状態を踏まえて判断します。

手技の概要とポイント

手技の概略

左脚領域ペーシング(LBBAP)は、スクリュー型リードを心室中隔に固定し、心電図波形・抵抗値(インピーダンス)・損傷電位(COI)の変化をリアルタイムで確認しながら進めます。これにより生理的な伝導を保ちつつ安定したペーシングを得られます。

使用器具と工夫

  • スクリュー型リード(積極的固定型)
  • 導管と専用治具(挿入→位置決めの時間短縮に有効)
  • 回転をスムーズにするトルクセンス装置(手の負担を軽減)

専用の簡易治具を用いると、リード挿入から最終位置決めまで約5分で行える報告があります。回転が軽い器具はリードのねじ込み操作でのストレスを減らし、安全性と効率を高めます。

具体的な手順のポイント

  1. 目標部位の同定:ヒス近傍の下方を狙う例が多く、透視とペースマッピングで確認します。短い回転を繰り返しリードを進めます。
  2. モニタリング:QRS形の変化、閾値の安定、インピーダンスの推移、COIの出現を逐次確認します。COIは刺入直後に出ることが多く、有用な指標です。
  3. 固定と評価:十分な閾値と波形が得られたら固定し、再度評価します。過剰なねじ込みは避けてください。

合併症予防と安全管理

穿孔やリード損傷を防ぐため、回転は小刻みに、抵抗増大や急激なインピーダンス変化があれば停止して再評価します。透視や心電図を併用し、異常時は早めに調整します。

実践的なコツ

  • 小さな回転を繰り返すことが安全です。
  • 治具を使うと操作時間が短縮し経験の浅い術者でも安定しやすくなります。
  • チームでモニターを共有し、変化を見逃さない体制を作ってください。

心電図所見と診断のポイント

所見の要点

  • V1誘導:遅れて小さなR波が現れることが多い。これは左室の早期興奮を反映します。
  • V6誘導:R波の到達時間(R-wave peak time, RWPT)が短縮する特徴が見られます。短縮は左室が速く興奮していることを示し、心室同期性の改善を示唆します。

実際の測定と目安

  • RWPT(V6):刺激からRピークまでの時間を計測します。多くの報告では短縮が指標となり、おおむね約75–100 ms以下を目安とすることが多いです。数値は機器や患者背景で変動しますので、個々のベースラインと比較します。
  • 刺激-心室電位間隔:刺激点からQRS開始までの時間も参考になります。

選択的(selective)と非選択的の区別

  • 選択的LBBAP:左脚のみが捕捉され、周囲心筋への直接影響が少ない場合、刺激直後に短い無電位期(アイソエレクトリック期間)が生じることがあります。心電図波形は比較的単純で、基線が平坦に見えることがあります。
  • 非選択的LBBAP:左脚と周囲心筋が同時に捕捉され、QRSの立ち上がりが滑らかではなく融合波形になります。出力を下げると波形変化が出るため、出力調整で判別できます。

鑑別と注意点

  • 左室の直接筋捕捉(septal myocardial capture)と混同しやすいので、RWPTの短縮、出力変化での波形変化、ペーストーQRS間隔の比較を組み合わせて判定します。
  • 既存の脚ブロックや心筋障害がある場合は基準値が変わるため、常に患者の基線心電図と対比してください。
  • 臨床でよく用いる方法:出力を段階的に下げて波形が変わるか確認する、刺激とV6の時間差を測る、内在伝導との比較を行うこと。

実例イメージ(言葉での補足)

  • 例:ペースト刺激後、V6でのRピークが基線時より30 ms短くなれば、左室の早期興奮が起きていると判断しやすいです。

以上のポイントを組み合わせることで、心電図から左脚領域ペーシングの捕捉状態をより確実に診断できます。

適応と臨床効果

概要

左脚領域ペーシングは、左脚ブロックや心不全、従来の心臓再同期療法(CRT)が困難な症例で適応が広がっています。2017年以降、両心室ペーシング(BVP)に代わる安全で有効な選択肢として報告が増えています。

適応(実際の場面での目安)

  • 左脚ブロック(幅の広いQRS)により同期不全が疑われる患者
  • 心不全でCRT適応と判断されたが、冠静脈の解剖やリード留置が困難な症例
  • 既存リードの感染や合併症で従来のCRTがリスクとなる場合
  • CRTで効果不十分(非応答)だった一部の患者に試みられることがある

臨床効果(報告されている点)

  • QRS幅の狭小化や左室収縮の同期化により、心機能(LVEF)の改善を示す報告が多いです。
  • 症状の改善(NYHAクラス低下)や入院率の減少が観察されています。
  • 一部の研究ではBVPと同等あるいは優れた成績を示す例もありますが、対象や追跡期間に差があります。

エビデンスと安全性のポイント

  • 無作為化試験と大規模観察研究の両方でデータが蓄積中です。短期成績は良好で、リード固定や閾値に注意すれば合併症率は許容範囲とされています。
  • 長期的な耐久性や最適適応の精査が現在も進行中です。

臨床への取り入れ方(留意点)

  • 患者選択を慎重に行い、心不全チームで議論して導入すると良いです。
  • インプラント後はペーシング閾値や電気伝導の変化を定期的に評価してください。

今後の展望と課題

技術と器具の進化

左脚領域ペーシングは、専用リードやガイド用器具の改良でさらに施術が簡便になります。例えば、リードの固定機構やトラブルを減らすコーティングの開発が期待されます。イメージング(透視や超音波)の併用も標準化が進むでしょう。

教育と技能継承

術者の経験差を埋めるため、標準化したトレーニングやシミュレーションが必要です。ハンズオン講習や動画教材、施設間の指導で初期の安全性を確保します。

長期成績と安全性の検証

短期的な効果は報告されていますが、リードの耐久性や長期的な心機能への影響を評価する長期追跡が重要です。多施設レジストリやランダム化研究でエビデンスを蓄積します。

適応の明確化とコスト効果

どの患者に最も有益かの基準作成が課題です。心不全患者や従来のペーシングで効果不十分な症例など、適応拡大の根拠を示す必要があります。医療資源の観点から費用対効果の分析も求められます。

臨床導入上の現実的課題

手技時間の短縮、合併症対策、機器故障時のバックアップ策など、日常診療での運用面を整備する必要があります。遠隔モニタリングやプログラミングの標準化も望まれます。

今後の方向性

術式の簡便化、教育体系の整備、長期データの蓄積が進めば、より多くの現場で安全に用いられるようになります。研究と臨床の協働で、適切な患者に適切な治療を届ける体制を作ることが課題であり目標です。

脚ブロックの基礎知識と診断

定義とイメージ

脚ブロックとは、心臓の左右の脚(伝導路)のどちらかで電気信号の伝わりが遅くなったり途絶したりする状態です。高速道路で一部が渋滞するように、心室の一部が遅れて興奮します。心電図でQRS幅が広がるのが特徴です。

病態(簡潔)

伝導の遅れは器質的な心疾患や加齢、高血圧などで起こります。左脚ブロックは心室同期の乱れが大きく、心機能へ影響しやすい点が重要です。

心電図所見の見方

  • QRS幅が120ms以上で脚ブロックを疑います。具体的には左脚ブロックでV5・V6に幅広いR波、右脚ブロックでV1にrsR'波形が出やすいです。

鑑別と注意点

薬剤や電解質異常で似た所見が出ることがあります。過去の心電図と比較すると、新しく出現したかどうか判断しやすくなります。

診断の流れ(検査・ポイント)

安静心電図を基本に、必要ならホルターや心エコーで心構造や機能を評価します。症状(めまい・失神・心不全症状)と合わせてリスクを評価します。

臨床的意義と治療との関係

脚ブロック自体は必ずしも治療を要しませんが、症状や心機能低下を伴えばペーシングや心不全治療を検討します。左脚領域ペーシングは、こうした症例で同期を改善する新しい選択肢です。

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