リーダーシップとマネジメントスキル

実務に活かすPMBOKプロセス群の基礎と応用完全ガイド

PMBOKの「プロセス群」とは何か

プロジェクト管理のための道しるべ

PMBOK(ピンボック)とは、プロジェクト管理の実践的な知識や手法をまとめた指針のことです。そのなかでも特に重要なのが、プロジェクトを進めるうえでの「プロセス群」という考え方です。プロジェクトは目標と期限がはっきりした活動ですので、始まりから終わりまでを効率よく進める必要があります。そこで役立つのが、プロセス群という枠組みです。

プロセス群とは何か

プロセス群とは、プロジェクトを進めるうえで発生する様々な作業や活動(これらをプロセスと呼びます)を、わかりやすくグループ分けしたものです。つまりプロセス群は、「今は何をすべきか」を示すグループのような存在です。

例えるなら、長い旅の地図のようなもので、「出発」「旅の計画」「途中の移動」「現在地の確認」「ゴール到着」の各段階を案内してくれます。

5つのプロセス群

具体的にPMBOKでは、プロジェクトを以下の5つのプロセス群に分けています。

  1. 立ち上げ(プロジェクトの始動や目的の明確化)
  2. 計画(全体の計画やスケジュール、体制づくり)
  3. 実行(実際に作業を進める段階)
  4. 監視・コントロール(進捗確認や問題対応)
  5. 終結(成果をまとめてプロジェクトを終える)

これらは、「順番どおり」に進むだけではありません。実際のプロジェクトでは、いくつかのプロセス群が同時に進んだり、計画を進めながら監視もしたりと、重なり合ったり反復しながら進んでいきます。

「今やるべきこと」を的確に

プロセス群の仕組みを知っておくと、プロジェクトのどの段階で何をすべきかが明確になります。例えば、「今は計画段階なので、計画作りに集中しよう」や、「進行中だけど、進捗に遅れがあるか確認したい」など、その時々の優先順位をつけやすくなります。

このように、プロセス群はプロジェクトを迷いなく進めるためのナビゲーションのような役割を果たします。

次の章に記載するタイトル:5つのプロセス群の目的・主な活動・代表成果物

5つのプロセス群の目的・主な活動・代表成果物

立ち上げプロセス群

立ち上げプロセス群の目的は、プロジェクトへの正式なゴーサインを得て、計画を始めるための土台を作ることです。この段階では「何を、なぜ、どのように進めるのか」を明確にします。具体的な活動としては、プロジェクトの目標や成果物、予算、関わる人(ステークホルダー)をはっきりさせ、プロジェクト憲章を作成します。

代表的な成果物
- プロジェクト憲章(プロジェクトの目的や基本方針を記載した文書)
- ステークホルダー登録簿(関係者のリストと役割)

計画プロセス群

計画プロセス群では、成功に向けた具体的な進め方を決めます。活動内容はとても幅広く、目標を達成するための作業を細かく分けて、それぞれのスケジュールや予算、リスクへの備えを考えます。

主な活動
- 詳細なプロジェクト計画書の作成
- スケジュールや予算、リスク管理、品質など各種サブ計画の作成

代表的な成果物
- プロジェクトマネジメント計画書
- スケジュール・コスト計画などの各種サブ計画

実行プロセス群

実行プロセス群の目的は、立てた計画に従い現場で作業を進め、実際に成果物を作ることです。関係者との情報共有や、必要な物資・人材の手配も重要な活動になります。

主な活動
- タスクの実施とチームの指揮
- 進捗・成果の報告、必要時の調整
- 調達活動の実施

代表的な成果物
- 承認された成果物
- 進捗報告書
- 変更要求書

監視・コントロールプロセス群

計画通りに進んでいるかを確認し、もしズレていれば原因を探して修正するのが監視・コントロールプロセス群です。進捗確認や品質チェック、想定外のリスクへの対応もここで行います。

主な活動
- 進捗や品質の監視・記録
- 変更点・課題への是正措置
- ベースライン(基準)との比較による調整

代表的な成果物
- パフォーマンス報告書
- 更新された計画書、承認済みの変更記録

終結プロセス群

終結プロセス群の目的は、プロジェクトやその一部を正式に終了し、その成果を受領者に引き渡すことです。また、そのプロジェクトから得た教訓を今後に活かすためにまとめておくことも大切です。

主な活動
- 受入れ判断と最終成果の引き渡し
- 振り返り会(レトロスペクティブ)と教訓のまとめ
- プロジェクト書類の整理と保存

代表的な成果物
- 受入書
- 最終報告書
- 教訓レポートや記録のアーカイブ

次の章では、10の知識エリアとプロセス群の関係について説明します。

10の知識エリアとプロセス群の関係(試験・実務での要点)

知識エリアとは?

PMBOKには、プロジェクトを円滑に進めるための10の"知識エリア"があります。これは「プロジェクト管理で何をおさえるべきか」という観点でテーマごとに整理されたものです。例えば、目標や成果物の範囲を明確にする「スコープ」、期限通りに進行させる「スケジュール」、予算管理の「コスト」、品質を確保する「品質」などがあります。

10の知識エリア一覧と身近な具体例

  1. 統合マネジメント(例:プロジェクト全体の計画をまとめる)
  2. スコープマネジメント(例:どこまでやるか、やらないかを決める)
  3. スケジュールマネジメント(例:進行表や納期の管理)
  4. コストマネジメント(例:予算の確保と使い過ぎ防止)
  5. 品質マネジメント(例:成果物のチェックや基準の設定)
  6. リソースマネジメント(例:メンバーや設備の割り当て)
  7. コミュニケーションマネジメント(例:大事な情報の伝達方法や記録の管理)
  8. リスクマネジメント(例:想定外への備えや対応策の検討)
  9. 調達マネジメント(例:外部委託や必要な物品の購入手続き)
  10. ステークホルダーマネジメント(例:関係者との期待調整や合意形成)

プロセス群とのつながり

前章で紹介したプロセス群は「いつ(どのタイミングで)」管理・活動を行うかという時間軸の考え方でした。一方、知識エリアは「何(どの項目について)」管理するか、という内容軸です。実際のプロジェクト管理では、この“いつ”と“何を”が掛け合わさって、細かなプロセスが決まります。

例えば「スケジュール管理」の一部は、計画段階ではスケジュール作成をし、実行段階ではスケジュール通りか確認し、コントロール段階では遅れが出た時に調整します。

試験・実務で押さえておきたいポイント

PMBOKの学習やPMP試験などでは、「プロセス群 × 知識エリア」という表(マトリクス)で理解すると、とても分かりやすくなります。たとえば「品質(知識エリア)」の活動が、立ち上げ・計画・実行・監視・終結(プロセス群)のどこで行われているかを整理することで、知識が整理されます。

実務でも、この掛け合わせによって、今チームが「何を」「いつ」やるべきか明確にできます。たとえば計画段階のリスク管理では事前にリスク洗い出しと対応策準備を行いますが、実行やコントロール段階では実際にそれを監視・対応します。

次の章に記載するタイトル

QCD・PDCA視点でのプロセス群の活かし方

QCD・PDCA視点でのプロセス群の活かし方

PMBOKのプロセス群とPDCAの関係

プロジェクトマネジメントでよく耳にするPDCA(Plan-Do-Check-Act)は、計画を立てて(Plan)、実行し(Do)、進捗や品質を確認し(Check/Act)、改善するという考え方です。PMBOKの5つのプロセス群も同じ流れに沿っています。計画プロセス群では、「どんなプロジェクトにするか」という詳細な設計や準備(Plan)を行います。実行プロセス群は、その計画に基づき、実際に作業やサービス提供(Do)を進める段階です。その後、「ちゃんと計画通り進んでいるか」「問題が出ていないか」といった確認や修正が、監視・コントロールプロセス群(Check/Act)で行われます。さらにプロジェクト特有なのが、立ち上げや終結という前後のイベントがある点です。立ち上げではプロジェクトのスタートを切り、終結では成果物や記録の整理・締め括りを行います。

QCD(品質・コスト・納期)を守るポイント

QCDは、ものづくりやサービス提供で必ず重視される「品質(Quality)」「コスト(Cost)」「納期(Delivery)」の3つを指します。プロジェクトを進めるうえでは、最初に計画プロセス群で「QCDの基準」となるベースライン(例:納期日程や予算、完成品の仕様)をしっかり決めます。そして実際の作業が進む中では、監視・コントロールプロセス群で"予定より金額が高くなっていないか" "遅れていないか" "品質が下がっていないか" と、常にチェックし、必要なら改善策を導入します。

例えば、工事現場の現場監督が、図面通りに工事が進んでいるか、コストが予定内か、納期に間に合いそうかを毎日確認するイメージです。もし問題が発生し、元の計画に戻せそうにない場合は、計画自体を見直し、関係者と合意し直す(=ベースラインの変更管理)ことが求められるのも特徴です。

PDCA・QCDを意識した業務改善の例

例えばイベントの運営なら、企画段階で予算やスケジュール、品質目標を明確にした上で当日準備と運営を進めます。当日の進行で問題が出れば、進行役が進捗やコスト超過をその場で確認し、必要に応じてリスク対応策を取ります。これもプロセス群をPDCAやQCDの視点で“活かしている”実務例です。

次の章に記載するタイトル:実務でよくある落とし穴とベストプラクティス

実務でよくある落とし穴とベストプラクティス

立ち上げフェーズの注意点

プロジェクトを始めるとき、目的や成功の基準、制約事項について関係者全員が同じ認識でいることが大切です。例えば「何を達成して終わりとするか」が曖昧だと、途中で意見が食い違い、結局スケジュールやコストでトラブルになることもあります。また、プロジェクトに影響を与える人―上司・メンバー・協力会社など―を最初に漏れなくリストアップすることも重要です。ここを省略すると、後になって巻き込むべき人が抜けていて手戻りが発生します。

計画フェーズのよくあるミス

計画をざっくりまとめただけで実行に移してしまうと、途中でイレギュラーが増えて対応に追われます。作業を細かく分けたリスト(WBS)を作り、誰が何をいつまでにやるかを明確にしましょう。不測の事態を予想してリスクと対策もまとめておくと、いざという時慌てずにすみます。

変更管理の形骸化を防ぐ

プロジェクトの途中で「やっぱりこうしたい」という変更は必ず発生します。ですが、相談なしに勝手に変えると、予算や期間に大きな影響が出る場合も。変更したい時は必ず申請し、影響を周囲で評価・承認した後、正式な計画として記録を更新してください。

クローズフェーズの軽視に注意

無事終わったと思ったら、後処理を忘れてしまうことがあります。しかし、得られた教訓や成果物をきちんと記録し保管することで、次に同じようなプロジェクトを行う際の大きな助けになります。振り返りを実施し、改善点を次に活かしましょう。

柔軟なプロセス運用

実際の現場では「この順番で必ず進めないといけない」というルールにこだわりすぎず、必要に応じてプロセスを重ねたり繰り返したりしても問題ありません。状況に合わせて柔軟に対応することが、成功の近道です。

次の章では、資格取得や学習のコツについてご紹介します。

学習・資格対策のポイント(PMP/PMBOK)

用語や構成の整理が最初の一歩

PMBOKやPMP試験に取り組む際は、まず主要な用語をきちんと理解し、混同しないように区別することが大切です。たとえば「プロジェクトライフサイクル」「フェーズ」「プロセス群」「知識エリア」など、似ている言葉が出てきます。これらをただ暗記するのではなく、それぞれの違いを自分の言葉で説明できるようにしましょう。

  • プロジェクトライフサイクル:プロジェクト全体の始まりから終わりまでの大きな流れです。
  • フェーズ:ライフサイクルの中にある、区切られた段階や工程です。
  • プロセス群:プロジェクト管理の進め方をグループ化したものです。
  • 知識エリア:PMBOKで定義される、管理すべき要素(コストや品質など)の分野です。

代表的なプロセスとその並びを意識しよう

試験対策や学習で迷いやすいのが、個々のプロセスの位置づけです。特に「統合マネジメント」には7つの主要なプロセスがあり、最初から最後まで関与します。また、5つのプロセス群のうち「計画プロセス群」には多くの下位プロセスが集中しています。順番や関連を図に書き出しながら覚えていくのがおすすめです。

本質理解が合格のカギ

ただ用語を並べたり、各プロセスを暗記したりするだけでは不十分です。自分自身に「今はどのプロセス群のフェーズにいて、どんな成果物を作っているのか」「どの知識エリアをコントロール・改善しようとしているか」を問いかけ、説明できる状態を目指しましょう。このトレーニングが、確実なスキルと試験対応力につながります。

次の章に記載するタイトル:参考図解(文章によるガイド)

参考図解(文章によるガイド)

ここでは、PMBOKにおけるプロセス群の流れを図解イメージとして、言葉で分かりやすくガイドします。

全体の流れ:プロセス群のつながり

まず、プロジェクトの進み方は「立ち上げ」から始まり、「計画」「実行」「監視・コントロール」「終結」という順序で進行します。特に大事なのは、「計画」「実行」「監視・コントロール」は、サイクルのように繰り返す点です。例えば、計画中に新しい課題が見つかると、すぐ実行に移らず、再び計画を見直すことがよくあります。この繰り返しの中で、監視・コントロールが常に実施状況を確認して調整します。

成果物の流れ(横串)

それぞれのプロセス群で作られる主な成果物を例示します。
- 立ち上げ:プロジェクトを正式に始めるための『憲章』や関係者リストが生まれます。
- 計画:ここでは、『プロジェクトマネジメント計画書』や進め方の詳細をまとめた資料が作成されます。
- 実行:現場では『成果物』ができあがり、進捗報告が上がってきます。
- 監視・コントロール:『パフォーマンス報告』や、計画との差を調整するための是正案、変更が承認される記録が集まります。
- 終結:最後には『終結報告書』や『教訓リスト』がまとめられ、次回プロジェクトの参考資料となります。

縦横で見るプロセス群の動き

図でイメージすると、横方向にプロセス群(立ち上げ→計画→実行→監視・コントロール→終結)、縦方向には各成果物が時系列でならびます。そして、特に「計画」「実行」「監視・コントロール」の箇所がループ矢印でつながり、何度もやり直す部分が強調される絵になるでしょう。

また、『変更管理』も大事なポイントです。途中で新しい要件や事情が出れば、「ベースライン」と呼ばれる計画の基準点を変更します。これが図でいうと、計画と監視の間を行き来する矢印として描けます。この動きによって、プロジェクトの柔軟性と安定性を両立します。

このような文章によるガイドをもとに、実際に図を書いてみると全体像が把握しやすくなります。

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