この記事でわかること
- 「マーケティングプロジェクト管理」とは何か、一般的なPMとの違い
- キャンペーン施策を失敗させない10ステップの進め方
- マーケティング特有の「ぐちゃぐちゃ問題(調整・変更・短納期)」のさばき方
- チームと外部パートナーを動かすコミュニケーション設計
- すぐに真似できるタスク設計・KPI設計・ツール活用の具体例
- 成功パターンを「属人スキル」から「組織の資産」に変える方法
目次
- マーケティングプロジェクト管理とは何か?
- 一般的なプロジェクト管理との違い
- マーケティングプロジェクト管理がもたらす4つの価値
- 成果が出るマーケティングプロジェクト管理 10ステップ
- マーケティングプロジェクトで起こりやすい4つの“つまずき”と対処法
- チームを動かすための4つの実践Tips
- マーケティングプロジェクト管理に役立つツール・フレームワーク
- まとめ:マーケティングにこそプロジェクトマネジメントが必要な理由
マーケティングプロジェクト管理とは何か?
マーケティングプロジェクト管理とは、
広告運用・SNS・コンテンツ制作・LP制作・イベント・メルマガなど、バラバラに見えるマーケ施策を
「一つのプロジェクト」として設計・実行・検証するための管理手法 です。
- いつまでに
- 誰に
- どのチャネルで
- どんなメッセージを届け
- どのくらいの成果(売上・リード・認知)を出すのか
これを 計画 → 実行 → モニタリング → 改善 の流れで“見える化”し、関係者を巻き込みながら進めていくのがマーケティングプロジェクト管理の役割です。
単発の広告やSNS投稿ではなく、
「認知 → 興味 → 比較 → 行動」という一連の流れを1つのストーリーとして設計し、
複数チャネルが連動して成果につながる状態をつくるのがゴールになります。
一般的なプロジェクト管理との違い
共通するのは QCD(品質・コスト・納期)の考え方ですが、マーケティング領域には次のような特徴があります。
施策の成否が「KPI」という数値でシビアに評価される
- CTR(クリック率)
- CVR(コンバージョン率)
- CPA(顧客獲得単価)
- ROAS(広告費用対効果)
- LTV(顧客生涯価値)
など、結果がすべて数字で可視化されます。
「やった感」では評価されないため、プロジェクト管理も 数字を前提とした設計 が欠かせません。
トレンド・競合・アルゴリズムなど外部要因の変化が激しい
- SNSアルゴリズムの変更
- 検索順位の変動
- 広告単価の急騰・急落
- 競合のキャンペーン開始
こうした外部要因で、計画が簡単に崩れます。
そのため、最初から「完璧な計画」を作るよりも、
変化に対応しやすい計画とモニタリングの仕組み が重要になります。
社内外の関係者(営業・商品開発・制作会社・広告代理店など)が多い
マーケティングプロジェクトには、多くの部署・パートナーが関わります。
- 営業・事業部
- 商品開発・CS
- デザイナー・ライター・エンジニア
- 制作会社・広告代理店・フリーランス
関係者が増えるほど、情報が分散し、判断のスピードが落ちます。
マーケティングPMには、情報整理・優先順位づけ・意思決定のフォロー まで求められます。
「やってみないとわからない」要素が大きく、途中変更が前提
- どの訴求が一番刺さるか
- どのクリエイティブが成果を出すか
- どのチャネルが一番効率が良いか
これらは、事前の机上検討だけでは決まりません。
テスト → 学び → 改善 を前提にした設計が必須であり、
「変化に対応できる計画」と「意思決定しやすい情報設計」 がプロジェクト管理の要になります。
マーケティングプロジェクト管理がもたらす4つの価値
1. 全体像が見えることで、ムダ撃ちが減る
チャネルごとにバラバラに動くと、
- 同じような訴求を何度も作る
- タイミングがズレて認知が分散する
- 担当者のリソースが偏る
といったロスが出ます。
プロジェクトとして管理することで、
「どのタイミングでどのチャネルが何を打つか」 を俯瞰でき、
重複・抜け漏れを抑えた、無駄の少ない構成にできます。
2. チームの意思決定が早くなる
- 目的・KPI
- スケジュール
- 優先度
これらが共有されていれば、現場で迷ったときも
「このKPIを優先するから、A案ではなくB案でいこう」
といった判断がしやすくなります。
意思決定の基準が共有されているほど、
“いちいち上に聞かないと進まない”状態から脱却 できます。
3. 外部パートナーとの連携がスムーズになる
制作会社・広告代理店・フリーランスなど、外部パートナーが関わるほど、
「どの情報を、いつ、どのレベルまで共有するか」 が重要になります。
プロジェクト管理の枠組みがあると、
- 事前のブリーフ
- スケジュール
- レビューのポイント
をテンプレート化できるため、案件数が増えても混乱しにくくなります。
毎回のやり取りも、「型に沿って進めるだけ」 の状態に近づけられます。
4. 「再現性のある成功パターン」がたまる
単発の“当たり施策”で終わらせず、
- どんな計画・体制・メッセージだったのか
- どの指標が、いつ、どう動いたか
を記録・振り返ることで、「勝ちパターンのテンプレ」を作れるようになります。
ここまでいくと、マーケティングプロジェクト管理は
「属人技」から「組織の資産」 に変わっていきます。
成果が出るマーケティングプロジェクト管理 10ステップ
ここからは、実務でそのまま使える 10ステップの標準プロセス を紹介します。
フェーズごとに整理しておくと、どこで詰まっているかが分かりやすくなります。
フェーズ1:目的・KPIの設計(ステップ1〜3)
ステップ1:プロジェクトの目的を一言で定義する
例:
- 新商品の認知を広げる
- 既存顧客のリピート率を上げる
- 見込み顧客(リード)を月100件獲得する
「何のための施策か」を一言にまとめることで、
企画・クリエイティブ・チャネル選定など、後の意思決定がブレにくくなります。
ステップ2:ゴール指標(KGI)と中間指標(KPI)を設定する
例:
- KGI:キャンペーン期間中の売上◯◯万円
- KPI:
- LPアクセス数◯◯PV
- CVR◯%
- メール開封率◯%
- 広告CPA◯円以内
「売上だけ」ではなく、プロセスを分解したKPIを複数用意しておくと、
途中での 軌道修正ポイント が見つかりやすくなります。
ステップ3:ターゲットとインサイトを具体化する
- 年齢・性別・職業などの基本属性
- どのチャネルによく触れているか
- どんな課題・欲求を持っているか
- その課題をどんな言葉で検索し、どんなコンテンツを好むか
ここまで落とし込んでおくと、
コピー・クリエイティブ・チャネル選定が圧倒的に楽になります。
「誰向けかわからない、ふわっとした施策」を避けられます。
フェーズ2:戦略設計(ステップ4〜5)
ステップ4:チャネルとメッセージの全体設計
まずは、どのチャネルを使うかを決めます。
- 広告(リスティング・ディスプレイ・SNS)
- 自社メディア(ブログ・オウンドメディア)
- SNSアカウント
- メール・LINE
- オフライン(チラシ・イベント・セミナー)
次に、チャネルごとの役割を整理します。
- 認知獲得用
- 深い情報提供・検討促進用
- クロージング・リマインド用
最後に、共通のコアメッセージ+チャネルごとの表現の違い を設計します。
ここで 「キャンペーン全体のストーリーライン」 を描いておくと、
どのタッチポイントでも一貫性のある体験を提供できます。
ステップ5:オファー・CTAを決める
- どんなオファーを打つか
- 割引・特典
- サンプル・資料請求
- 無料相談・体験会
- どのタイミングで、どのチャネルで出すか
- ユーザーに「次の1歩」として何をしてほしいか(CTA)
オファーが曖昧だと、どれだけリーチしても成果につながりません。
ゴールから逆算して、「次の1クリック」を明確にするイメージ で設計します。
フェーズ3:計画・タスク設計(ステップ6〜7)
ステップ6:WBSでタスクを洗い出す
「なんとなくToDoを並べる」のではなく、
WBS(Work Breakdown Structure)の考え方でタスクを分解していきます。
例:新商品キャンペーンのWBSイメージ
- 戦略・設計
- KPI設計
- ターゲット定義
- 競合・市場調査
- クリエイティブ制作
- LP構成案作成
- LPデザイン・コーディング
- バナー制作(サイズ別)
- SNS用画像・動画制作
- コンテンツ制作
- ブログ記事(◯本)
- メルマガ/LINE配信文(◯通)
- 配信・運用設定
- 広告アカウント設定
- コンバージョンタグ実装確認
- 配信スケジュール設定
- 計測・レポート
- ダッシュボード設計
- 週次/日次レポート作成
「誰が見ても漏れなく・ダブりなく」になるまで分解しておくと、
担当の引き継ぎや外注依頼もしやすくなります。
ステップ7:スケジュールと依存関係を決める
- LPデザインは「構成案」が決まらないと着手できない
- 広告配信は「バナー」「入稿テキスト」「LP」が揃わないと打てない
このような 依存関係を明示 し、
ガントチャートやボードビューでスケジュールを組んでいきます。
ポイントは、
- レビュー・修正時間をあらかじめバッファとして入れておく
- 「ここからはもう戻らない」という決定ポイント(マイルストーン)を決めておく
ことです。
これだけで、後半の「間に合わない」「戻せない」を大幅に減らせます。
フェーズ4:実行・モニタリング(ステップ8〜9)
ステップ8:実行中の情報を1ヶ所に集約する
実行フェーズでよく起きるのは、
- チャット
- メール
- スプレッドシート
- 口頭共有
などに情報が分散し、誰も全体を把握できなくなるパターンです。
そこで、
「プロジェクトの唯一の情報源(Single Source of Truth)」 を決めておきます。
例:
- Asana / Trello / Backlog などのプロジェクト管理ツール
- Notion / Confluence などの情報整理ツール
そこに
- タスクの状態(未着手/進行中/レビュー待ち/完了)
- 最新の資料リンク
- 決定事項・変更履歴
を集約しておくと、関係者が増えても混乱しにくくなります。
ステップ9:KPIと現場感をセットでモニタリングする
- 日次 / 週次で見る指標を決める
- ダッシュボードやレポートのフォーマットを固定する
例:
- 集客:インプレッション・クリック・CTR・CPC
- サイト内:セッション数・直帰率・CVR
- CV後:商談化率・成約率・LTV
数値だけで判断せず、
- ユーザーの反応(問い合わせ内容・コメント・SNSの声)
- 制作現場の状況(想定より工数がかかっている箇所)
もセットで見て、「どこを触れば一番効くか」を判断します。
レポートは 「今どうなっているか」だけでなく「次に何をするか」まで書く と、意思決定が一気に楽になります。
フェーズ5:振り返り・ナレッジ化(ステップ10)
ステップ10:キャンペーンレビューを“テンプレ化”する
キャンペーン終了後に、毎回同じ観点で振り返ることが、再現性を上げる近道です。
振り返りの例:
- 目的・KPIは妥当だったか
- どのチャネル・メッセージ・オファーが効いたか
- 計画と実績のギャップはどこで生まれたか
- 次回は何を「やめる / 強化する / 変える」のか
これを1枚のテンプレート(スライド・ドキュメント)でまとめておくと、
社内での共有や、外部パートナーとの振り返りにも使えます。
ここでの記録が、そのまま 「次回案件の最初の設計図」 になります。
マーケティングプロジェクトで起こりやすい4つの“つまずき”と対処法
1. スコープクリープ(いつの間にか仕事が膨らむ)
- 「ついでにこれもやりたい」が増える
- 途中でターゲット・メッセージが変わる
- ただし納期と予算はそのまま
対処のポイント:
- 最初に「今回のプロジェクトで“やらないこと”」まで決めておく
- 変更リクエストの窓口とルール(誰が、いつまでに、どう判断するか)を決めておく
- 変更のたびに「スケジュール・コストへの影響」を必ずセットで共有する
2. 関係者が多すぎて調整だけで疲弊する
マーケティングは、
- 営業・事業部
- 経営層
- 開発・制作
- 法務・コンプライアンス
など調整先が多くなりがちです。
対処のポイント:
- 関係者を「意思決定者」「レビューだけ必要な人」「報告だけでよい人」に分ける
- それぞれに必要な情報の粒度・タイミングを決めておく
- 重要な判断は、プロジェクトごとに「最終決定者」を1人に絞る
3. 要件変更・差し戻しが何度も発生する
- デザインやコピーが「なんとなく違う」と何度も戻ってくる
- 方向性が曖昧なまま制作が進んでいる
対処のポイント:
- 初期の「コンセプト・方向性」を文章とラフで見える化する
- NG例・競合例もセットで共有しておく
- レビューの回数・タイミングをあらかじめ決める(無限ループを防ぐ)
4. 数字は追っているのに、次の一手が見えない
レポートは作っているのに、
「で、何を変えればいいの?」という状態になりがちです。
対処のポイント:
- KPIを「仮説」とセットで設計しておく
- 例:「30代女性はこのオファーに強く反応するはず」
- レポートは「現状の数字」ではなく「次にやること」まで書く
- 施策ごとに「打てる次の一手」を候補としてストックしておく
チームを動かすための4つの実践Tips
Tip1:コミュニケーション設計を最初に決める
- 定例ミーティングの頻度・目的(企画/進行/振り返り)
- どのテーマをどのチャネルで話すか(チャット/メール/会議)
- 決裁・エスカレーションの流れ
これを プロジェクトキックオフ時に一度決めておく だけで、
後半のバタバタが大きく減ります。
Tip2:誰が見てもわかる「タスクボード」を作る
- カンバン形式(ToDo/進行中/レビュー/完了)
- 期限・担当・関連資料リンクを必ずセットで記載
- 「今日自分がやるべきこと」が一目でわかる状態に
ツールは何でも構いませんが、
「紙+口頭」からは早めに卒業するのがおすすめです。
Tip3:KPIレビューの日を固定する
- 週1回、同じ曜日・同じ時間に「KPIミーティング」を入れる
- 見る指標を固定し、フォーマットも変えない
- 「何が起きているか」「次に何をするか」だけに絞って話す
これをルーティン化すると、プロジェクト管理が
単なる「レポート作業」で終わらず、
ちゃんと “次の一手”につながる時間 になります。
Tip4:トラブル前提で「代替案」を用意しておく
- クリエイティブが遅れたときの代替案
- 広告が想定より高騰した際のプランB
- 担当者が不在になった場合のバックアップ
完全に防ぐのは難しいので、
「起こったらどうするか」を先に決めておくことが、結果的にスピードを生みます。
マーケティングプロジェクト管理に役立つツール・フレームワーク
タスク・進行管理のためのツール例
- Asana:キャンペーン単位でプロジェクトを作り、
- セクション=チャネル/フェーズ
- タスク=施策・コンテンツ
として管理しやすい
- Trello:ボード型でシンプルに「今どこまで進んでいるか」を把握しやすい
- Backlog:開発チームとマーケチームが同じ案件を扱うときに便利
どのツールでも共通して大事なのは、
「タスク名だけで何をすべきか分かるように書く」 ことです。
プロジェクト全体を設計するフレームワーク
- PMBOK:プロジェクトマネジメントの基本(立ち上げ〜終結)を体系的に学べる
- PDCA・OODA:改善サイクルや意思決定のスピードを考えるのに役立つ
マーケチーム全員がPMBOKを読む必要はありませんが、
リーダー・マネージャー層が「考え方のベース」として持っておくと、
チーム全体のプロジェクト運営レベルが上がります。
マーケティング専用のシート・テンプレ
- キャンペーン設計シート(目的・ターゲット・オファー・チャネル)
- 施策WBSテンプレート
- KPIダッシュボード用の項目設計案
- 振り返り用のレビューシート
これらを自社用に1セット作っておくと、
毎回ゼロから考えなくて済み、「考えること」にリソースを割けるようになります。
まとめ:マーケティングにこそプロジェクトマネジメントが必要な理由
マーケティングは
- 数値で評価される
- 変化が激しい
- 関係者が多い
という構造的な難しさを持っています。
だからこそ、
- 目的とKPIを明確にし
- 戦略とチャネルを整理し
- タスクとスケジュールを見える化し
- 実行・モニタリング・振り返りをセットで回す
という プロジェクトマネジメントの型 が効いてきます。
うまく回り始めると、
- 調整コストが下がる
- トラブルが減る
- 一度成功したパターンを他の施策にも展開できる
といったメリットが雪だるま式に積み上がります。
「感覚と根性で回していたマーケティング運用」を、
再現性のある“プロジェクト”に変えること。
それが、これからのマーケティングチームに求められる大きな一歩です。