目次
はじめに
「ナラティブアプローチとは、どのような考え方なの?」
「実際のカウンセリングや支援の場では、どのような会話が行われるの?」
「問題を解決する方法とは何が違うの?」
このように、ナラティブアプローチについて調べていると、「名前は聞いたことがあるけれど実際にはどのように進めるのかわからない」「専門用語が多くてイメージしにくい」と感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ナラティブアプローチの基本的な考え方を確認しながら、具体的な会話例を交えて進め方をわかりやすく紹介していきます。
ナラティブアプローチとは?
ナラティブアプローチは、カウンセリングや対人支援の現場で活用されている考え方の一つです。
ここでは、ナラティブアプローチの基本的な意味や特徴を整理しながら、「問題」そのものではなく「語り」に注目する考え方についてわかりやすく解説します。
ナラティブアプローチの意味
ナラティブアプローチとは、人が自分の経験や出来事をどのように語っているのかに注目し、その語りを通して物事の捉え方を見直していく考え方です。
例えば、「自分は失敗ばかりする人間だ」と感じている人に対して、これまでの経験や乗り越えてきた出来事を一緒に振り返り、別の見方ができないかを考えていきます。
問題をすぐに解決することよりも、自分の物語を整理し、新しい意味や前向きな理解を見つけていく方法です。
「問題」ではなく「語り」に注目する考え方
ナラティブアプローチでは、「なぜ問題が起きたのか」を分析するよりも、その人が出来事をどのような言葉で語っているのかに注目します。
例えば、「自分はいつも失敗する」と感じている人に対して、その言葉だけで判断するのではなく、これまでの経験や感じたことを丁寧に振り返りながら、別の見方ができないかを一緒に考えていきます。
語り方が変わることで、出来事の受け止め方や自分への理解が少しずつ変わっていくと考えられています。
通常の問題解決との違い
通常の問題解決では、問題の原因を見つけ、その原因を解消するための行動や対策を考えることに重点を置きます。
一方、ナラティブアプローチでは、その人が出来事をどのような言葉で語り、どのように受け止めているのかを丁寧に見ていきます。
原因や解決策を急いで探すのではなく、語りを整理しながら新しい見方や意味を見つけていく点が、大きな違いです。
『「問題解決型との違いは分かったけれど、相手の気持ちを理解する対話方法にはどのようなものがあるのだろう」と気になる方は、共感と同情の違いもあわせて確認してみてください。』
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ナラティブアプローチの具体例
ナラティブアプローチは考え方だけを学ぶよりも、実際の会話の流れを見ることで理解しやすくなります。
同じ出来事であっても、どのように語り直すかによって本人の受け止め方や見え方が変わることがあります。
ここでは、仕事の悩みや親子関係、人間関係の問題を題材に、ナラティブアプローチがどのように用いられるのかを会話形式で紹介します。
仕事で自信をなくしている人への会話例
| 話し手 | 会話例 |
|---|---|
| 本人 | 「最近ミスが続いていて、自分は仕事ができない人間だと思っています。」 |
| 支援者 | 「そう感じるようになったのは、どのような出来事があったからですか?」 |
| 本人 | 「取引先へのメールを間違えて送ってしまい、上司にも注意されました。」 |
| 支援者 | 「その出来事以外にも、『仕事ができない』と感じた場面はありますか?」 |
| 本人 | 「細かいミスはありますが、資料作成を任されることは多いです。」 |
| 支援者 | 「資料作成を任されているのは、どのような理由があると思いますか?」 |
| 本人 | 「分かりやすいと言ってもらえたことがあります。」 |
| 支援者 | 「すると、『仕事ができない人』というだけではなく、『資料作成が得意で信頼されている人』という見方もできそうですね。」 |
ナラティブアプローチでは、「仕事ができない」という結論をすぐに受け入れるのではなく、そのように感じるようになった出来事や、それ以外の経験も丁寧に確認していきます。
この会話例でも、ミスをした経験だけでなく、資料作成を任されていた事実や周囲から評価されていた経験に目を向けることで、「仕事ができない人」という一つの物語だけではないことが見えてきています。
このように、本人の語りを整理しながら別の見方や意味を一緒に見つけていくことが、ナラティブアプローチの大きな特徴です。
親子のすれ違いを整理する会話例
| 話し手 | 会話例 |
|---|---|
| 親 | 「子どもが最近まったく話を聞いてくれません。」 |
| 支援者 | 「そう感じるのは、どのような場面が多いですか?」 |
| 親 | 「勉強しなさいと言っても返事をしないし、部屋にこもってしまいます。」 |
| 支援者 | 「返事をしない様子を見て、どのように感じていますか?」 |
| 親 | 「無視されているようで、親として必要とされていない気がします。」 |
| 支援者 | 「お子さんと話せていた時期もありましたか?」 |
| 親 | 「以前は学校の話をしてくれていました。最近は受験のことで悩んでいるようです。」 |
| 支援者 | 「すると、『話を聞かない子ども』というより、『悩みを抱えて一人で考えている時期』と捉えることもできそうですね。」 |
ナラティブアプローチでは、「子どもが悪い」「親の接し方が間違っている」と結論を急ぐのではなく、どのような出来事があり、それぞれが何を感じているのかを丁寧に整理していきます。
この会話例では、親は最初「話を聞いてくれない」と感じていましたが、対話を進める中で、子どもが受験への不安を抱えている可能性に気づいています。
このように、一つの出来事を別の角度から見直すことで、お互いへの理解が深まり、新しい関わり方を考えやすくなるのがナラティブアプローチの特徴です。
人間関係の悩みを捉え直す会話例
| 話し手 | 会話例 |
|---|---|
| 本人 | 「職場の人は誰も自分を認めてくれないと思っています。」 |
| 支援者 | 「そう感じるようになったのは、どのような出来事があったからですか?」 |
| 本人 | 「会議で提案しても採用されないことが多くて、自分の意見は必要ないと感じています。」 |
| 支援者 | 「反対に、感謝されたり頼られたりした経験はありませんか?」 |
| 本人 | 「後輩から仕事の相談を受けることはあります。資料の作り方を教えてほしいと言われることもあります。」 |
| 支援者 | 「すると、『誰にも認められていない』というより、『会議では評価されにくいと感じている一方で、後輩からは頼りにされている』と考えることもできそうですね。」 |
| 本人 | 「そう言われると、すべてを否定されているわけではないのかもしれません。」 |
ナラティブアプローチでは、「誰にも認められていない」という結論を前提に話を進めるのではなく、そのように感じた出来事や、それとは異なる経験がなかったかを丁寧に確認していきます。
この会話例でも、会議で評価されなかった経験だけでなく、後輩から相談を受けていた事実に目を向けることで、「誰にも認められていない」という一つの語りだけではないことが見えてきています。
このように、自分の経験をさまざまな角度から捉え直し、新しい意味や見方を一緒に見つけていくことが、ナラティブアプローチの特徴です。
ナラティブアプローチはどのように進む?
ナラティブアプローチは、悩みや問題を解決しようと急ぐのではなく、本人がどのように出来事を受け止め、どのような物語として語っているのかを丁寧に整理していく方法です。
実際の対話では、最初から答えを提示するのではなく、話を聞きながら問題との関係を見つめ直し、新しい捉え方を一緒に探していきます。
ここでは、ナラティブアプローチがどのような流れで進められるのかを順番に見ていきましょう。
まずは相手の話をそのまま聞く
ナラティブアプローチでは、まず相手の話を評価したり解釈したりせず、そのまま聞くことを大切にします。
例えば、「何がありましたか」と尋ねながら、出来事やそのときの気持ちを丁寧に確認していきます。先に助言や結論を伝えてしまうと、相手が自分の経験を十分に話せなくなることもあります。
そのため、まずは本人の語りをそのまま受け止めることが大切だと考えられています。
問題と本人を切り離して整理する
ナラティブアプローチでは、「私は失敗ばかりする人間だ」のように、本人と問題を同じものとして考えません。
問題を本人とは別のものとして捉え、「失敗に対する不安がどのような影響を与えているのか」といった形で整理していきます。
そうすることで、自分自身を問題そのものだと思い込みにくくなり、出来事を少し離れた視点から見つめやすくなります。
新しい見方や物語を一緒に見つける
相手の語りを整理し、問題と本人を切り離して考えられるようになった後は、新しい見方を一緒に探していきます。
例えば、「何もできなかった」と感じていた出来事でも、実際には続けていた努力や前向きな行動が見つかることがあります。
一つの結論だけで経験を捉えるのではなく、これまで気づかなかった面にも目を向けることで、自分自身への理解を少しずつ広げていくのが特徴です。
ナラティブアプローチのメリット
ナラティブアプローチは、問題の原因を探したり正解を押し付けたりするのではなく、本人の語りを大切にしながら新しい見方を見つけていく方法です。
そのため、悩みを抱えている人だけでなく、家族や職場などで人と関わる場面でも役立つとされています。
ここでは、ナラティブアプローチを取り入れることで得られる代表的なメリットについて解説します。
自分を責めすぎにくくなる
ナラティブアプローチでは、問題と本人を切り離して考えるため、「失敗した出来事がある」と「自分には価値がない」を同じものとして捉えにくくなります。
出来事と自分自身を分けて整理することで、一度の失敗だけで自分全体を評価する考え方がやわらぎます。
その結果、自分を責めすぎず、少し落ち着いて出来事を見つめやすくなると考えられています。
別の考え方や行動を見つけやすくなる
ナラティブアプローチでは、一つの出来事を一つの結論だけで決めつけないため、これまで気づかなかった考え方や行動が見つかりやすくなります。
自分の語りを整理する中で、実際に続けていた努力やできていたことに気づく場合もあります。
その結果、「もう方法がない」と思い込まず、新しい選択肢や行動を見つけやすくなると考えられています。
相手を否定せずに話しやすくなる
ナラティブアプローチでは、相手の考え方や行動を正しいか間違っているかで判断するのではなく、まず本人がどのように出来事を受け止めているのかを丁寧に聞いていきます。
そのため、「その考えは違う」と否定される場面が少なくなり、相手は自分の経験や気持ちを話しやすくなります。
語りをそのまま受け止めながら進めることで、お互いに理解を深めやすくなるのが特徴です。
ナラティブアプローチはどんな場面で使われる?
ナラティブアプローチは心理支援の現場だけで使われる方法ではありません。
相手の話を丁寧に聞き、その人自身の見方や考え方を整理していく考え方は、仕事や家庭、教育の場面など幅広い場面で活用されています。
ここでは、ナラティブアプローチが実際にどのような場面で用いられているのかを具体的に見ていきましょう。
カウンセリング
ナラティブアプローチは、カウンセリングの場面でよく用いられています。
相談者が自分の経験や悩みをどのように語っているのかを丁寧に聞き、その内容を一緒に整理しながら進めていきます。
すぐに原因や解決策を探すのではなく、出来事の捉え方を見直していくことで、自分自身への理解を深めやすくなると考えられています。
職場のコミュニケーション
ナラティブアプローチは、職場での面談や1対1の対話でも活用されています。
上司や同僚が相手の話をすぐに評価したり結論づけたりせず、どのような出来事があり、本人がどう感じているのかを丁寧に聞きながら話を進めます。
相手の語りに沿って状況を整理することで、お互いの考えや感じ方を理解しやすくなり、認識のずれも少なくなります。
『職場での対話に活かしたいと考えている方は、相手を責めずに気持ちを伝える方法として、IメッセージとYouメッセージの違いも参考になります。』
IメッセージとYouメッセージの違いとは?きつく聞こえにくい伝え方を例文付きで解説
子育てや教育
ナラティブアプローチは、子育てや教育の場面でも活用されています。
子どもの行動をすぐに評価するのではなく、本人が出来事をどのように受け止め、どのような気持ちでいるのかを丁寧に聞きながら話を進めます。
一方的に結論を伝えるのではなく、子どもの語りを大切にすることで、考え方や感じ方を理解しやすくなり、安心して対話を続けやすくなります。
ナラティブアプローチを理解するときの注意点
ナラティブアプローチは、一般的な問題解決型の支援やアドバイスとは考え方が異なるため、正しく理解しておくことが大切です。
悩みを早く解決したい場面では遠回りに感じることもありますが、その目的や進め方を理解することで本来の効果を活かしやすくなります。
ここでは、ナラティブアプローチを学ぶ際に知っておきたい注意点について解説します。
すぐに答えを出す方法ではない
ナラティブアプローチは、すぐに答えや解決策を見つけることを目的とした方法ではありません。
本人が経験した出来事や、その出来事をどのように受け止めているのかを丁寧に確認しながら進めるため、ある程度の時間が必要になります。
そのため、すぐに結論を知りたい人には、少しゆっくりした方法に感じられることもあります。
アドバイス中心の考え方とは違う
ナラティブアプローチでは、「こうしたほうがよい」とアドバイスをすることよりも、本人が語る内容を丁寧に整理することを大切にします。
そのため、すぐに改善策や行動を提案する方法とは少し考え方が異なります。
まずは相手の経験や気持ちを十分に聞き、一緒に意味を整理しながら進めていくのが特徴です。
相手の語りを否定しないことが大切
ナラティブアプローチでは、相手の語りをすぐに否定せず、まずはどのような経験からその言葉に至ったのかを丁寧に聞くことを大切にします。
語りを否定してしまうと、相手は自分の気持ちや出来事を話しにくくなってしまいます。
だからこそ、本人の言葉をそのまま受け止めながら、一緒に経験や考え方を整理していくことが大切だと考えられています。
まとめ
ナラティブアプローチとは、問題をすぐに解決しようとするのではなく、その人が自分の経験や出来事をどのように語っているのかに注目する考え方です。
「自分は仕事ができない」「誰にも認められていない」と感じている場合でも、その言葉だけで結論を出さず、どのような出来事があり、どのように受け止めてきたのかを丁寧に整理していきます。
そうすることで、これまで気づかなかった経験や別の見方が見つかることもあります。
また、ナラティブアプローチはカウンセリングだけでなく、職場での対話や子育て、日常のコミュニケーションなど、さまざまな場面で活用されています。
大切なのは、相手の話を急いで評価したり答えを出したりせず、まずはその語りに耳を傾けることです。
人は同じ出来事でも、捉え方によって感じ方や意味づけが変わることがあります。
もし自分や相手の考え方が行き詰まっていると感じたときは、結論を急がず、「どんな経験があったのだろう」と語りに目を向けてみると、新しい気づきにつながるかもしれません。