リーダーシップとマネジメントスキル

プロジェクト成功に欠かせない情報セキュリティの極意とは

目次

なぜプロジェクトで情報セキュリティが最重要か

プロジェクトを進めるうえで、多くの場合は顧客の大切な情報、設計に関する資料、契約の条件など外部に漏らしてはいけないデータを扱います。これらの情報は、サイバー攻撃や社内の人による不正といったトラブルの標的になりやすい特徴があります。特に近年は、情報を狙った犯罪が増えており、プロジェクトに関わるすべての人が注意しなければなりません。

もしプロジェクトで情報セキュリティをおろそかにした場合、どういった問題が発生するでしょうか。たとえば、重要な情報が外部に知られてしまう「情報漏洩」や、無断でデータを操作される「不正アクセス・改ざん」が挙げられます。企業の場合、こうした事故が起きると、お客様や取引先の信頼を失うだけでなく、損害賠償などの法的責任が発生したり、社内外での評判が悪化したりする場合もあります。また、システム障害や対応業務の増大により、プロジェクトのスケジュールが遅れてしまうことも大きな損害につながります。

このため、プロジェクトマネージャー(PM)は、計画段階から情報セキュリティを最優先事項のひとつとして位置づける必要があります。そして、プロジェクトチームのメンバー全員に方針を周知し、日々の活動で徹底させることで、リスクを最小限に抑えることが可能となります。

次の章では、プロジェクトにおける情報セキュリティの重要性がどのように国際的な規格で定められているか、「ISO/IEC 27001:2022」の観点から紹介します。

規格の視点:ISO/IEC 27001:2022「5.8 プロジェクトマネジメントにおける情報セキュリティ」

1. ISO/IEC 27001とは

ISO/IEC 27001は、国際標準化機構(ISO)が定めた情報セキュリティ管理の国際規格です。この規格は、企業や団体が大切な情報を安全に守るための仕組みを整えるために作られました。多くの組織で信頼を得るための基準となっています。

2. 管理策5.8の目的

ISO/IEC 27001:2022の「5.8 プロジェクトマネジメントにおける情報セキュリティ」は、プロジェクト活動中に発生する様々な情報セキュリティリスクをしっかりコントロールすることを狙いとしています。ここで言う「プロジェクト」とは、新規ビジネスの立ち上げ、サービスの導入や変更、システムの更新、さらにはオフィス移転など、多様な活動すべてを含みます。

3. 管理策5.8のポイント

主なポイントは以下の3つです。

・情報資産の特定

プロジェクトで使う重要な資料やデータ、システムなどを明確に洗い出します。たとえば顧客リスト、設計図、試作品、打ち合わせ資料などが該当します。

・要求事項の明確化

プロジェクトで守るべきルールや顧客から求められる条件を事前に整理します。例えば、「顧客情報は社外に漏らしてはいけない」「開発中の内容は極秘とする」といったルールです。

・リスクへの管理策適用

洗い出した情報資産にどんなリスクがあるかを考え、それぞれにふさわしい対策を講じます。例えば、PCの紛失対策としてパスワードを設定する、紙資料は施錠管理する、といったことが挙げられます。

4. なぜ規格対応が重要か

規格に沿った管理ができていれば、組織の情報が守られやすくなるだけでなく、取引先や顧客との信頼関係も築きやすくなります。また、万一起きたミスや事故の際も、きちんとした手順で対応できる体制が整っていることをアピールできるのです。

次の章では、プロジェクトで想定すべき主要な情報セキュリティリスクについて説明します。

プロジェクトで想定すべき主要な情報セキュリティリスク

機密情報の漏洩

プロジェクトでは、顧客リストや契約書、設計図など大切な情報を扱うことが多くあります。誤ってメールを他の人に送ってしまったり、クラウドサービスの設定ミスがあると、簡単に情報が外部に漏れてしまいます。また、ファイル共有リンクを使った際の管理が甘い場合、本来見せてはいけない人にも情報が届いてしまうことが起こります。

不正アクセスのリスク

プロジェクトで使うシステムやツールのログインパスワードを簡単なものにしたり、みんなで共通のアカウントを使うと、不正アクセスのリスクが高まります。必要以上の権限を与えてしまうと、誤って重要なデータに触れられることもあります。ユーザーアカウントの管理がしっかりしていない場合、退職した人がいつまでもアクセスできる状態が続くことも懸念されます。

データの改ざん・損失

バックアップを取っていなかったり、作業変更を記録していないと、データが消えたり内容が書き換わっても気づけません。例えば大事な設計データが誤って削除されたとき、元に戻せる仕組みがなければ、復旧が非常に困難になります。

内部関係者による悪用

信頼できるはずの社内の人でも、特権(強い権限)を持ったことで悪用することがあります。また、個人が勝手にITツールを導入(シャドーIT)した場合、管理外のセキュリティリスクが生じます。退職者のパソコンアカウントが残ったままだと、思わぬタイミングで情報流出が起こる恐れもあります。

サイバー攻撃

昨今では、プロジェクトも外部からの攻撃対象になります。怪しいメール(フィッシング)やウイルス(マルウェア)、ファイルを暗号化して身代金を求めるランサムウェアといった手口があります。一度これらの攻撃が成功すると、業務の遅延や深刻なトラブルが頻発します。

こういったリスクは、どんなプロジェクトでも現実に起こり得るものです。事前に把握し、対策を立てることが、プロジェクトの成功と信頼維持につながります。

次の章に記載するタイトル:セキュリティ原則と基礎:CIA、リスク対応、セキュリティ・バイ・デザイン

セキュリティ原則と基礎:CIA、リスク対応、セキュリティ・バイ・デザイン

情報セキュリティの三要素(CIA)

情報セキュリティの基本には、「機密性」「完全性」「可用性」という三つの柱があります。

  • 機密性は、必要な人だけが情報にアクセスできる状態を指します。たとえば、従業員の個人情報は、関係者以外が見られないようにパスワードで守る、というのが機密性の工夫です。
  • 完全性は、情報が正しく、改ざんされていないことを保証します。例えば、契約書データに変更が加わったかどうかをチェックする仕組みや、間違いをすぐに発見できるよう記録を残すのがこれです。
  • 可用性は、必要なときに情報が使えることを意味します。たとえば、システム障害に備えてサーバーを二重化したり、定期的にバックアップをとったりする行動が当てはまります。

このように、CIAの三つの視点をバランスよく押さえることが、プロジェクトにおける安心・安全への第一歩となります。

リスク対応の4つの方法

セキュリティのリスクに直面した場合、主に4つの選択肢があります。

  1. 回避:リスクのある作業自体をやめてしまう方法です。
  2. 共有:リスクを他社や保険会社と分担するやり方です。
  3. 低減:リスクを下げる対策を施すもので、例えばウイルス対策ソフトの導入や、定期的な教育が該当します。
  4. 保有:コストや影響を比較し、リスクを受け入れる決断をする場合もあります。

プロジェクトの内容や重要度に応じて、これらから最適な対応策を考えることが大切です。

セキュリティ・バイ・デザインとは

「セキュリティ・バイ・デザイン」とは、企画や設計の段階から情報セキュリティを意識する考え方です。たとえば、ウェブサービスを作るとき、最初から個人情報の保存方法やアクセス制限を設計に組み込むことで、後から手直しせずにすみます。

この方針を採用することで、後から大きな問題や追加コストを発生させず、安心で使いやすいサービスを提供できるようになります。

次の章では、計画から運用・終了までの実際の情報セキュリティの実装ステップについてご紹介します。

実装ステップ(計画から運用・終了まで)

プロジェクトにおける情報セキュリティ対策を確実に実施するためには、計画段階から終了・振り返りまで、各フェーズごとに段階的なステップを踏むことが大切です。

ステップ1:リスク評価とセキュリティポリシー策定

最初にプロジェクト特有のリスクを洗い出し、その重大性を評価します。例えば、顧客データの取り扱いや外部委託先との連携など、漏えいや悪用の恐れがどこにあるかを具体的に見極めます。その結果を基に、組織が大切にする情報保護の方針(セキュリティポリシー)を整理し、チーム全員に分かりやすく伝えます。

ステップ2:情報資産と要求事項の特定

次に、プロジェクトで扱うデータ・資料・システムなどの情報資産を一つひとつリストアップします。さらに、関連する法律や契約、社内ルールも明確にしましょう。法令違反や契約違反により、重大なトラブルが発生することもあります。

ステップ3:アクセス制御と認証の強化

情報漏えいを防ぐためには、必要な人だけが必要な範囲でアクセスできる状態を作ります。ID・パスワードだけでなく、ワンタイムパスワードなど多要素認証の導入や、退職者アカウントの削除なども重要です。

ステップ4:データ保護対策

保存しているデータや通信中のデータには暗号化を施し、不意の流出や盗聴を防ぎます。また、システム障害が起きても迅速に復旧できるよう、定期的なバックアップや記録(ログ)の管理・保全も忘れずに実施します。

ステップ5:セキュア開発・変更管理

システムやサービスの開発時には、設計の段階からセキュリティを組み込みます。開発後はレビューやテストを丁寧に行い、見つかった問題(脆弱性)は早期に対応します。システム変更時は必ず承認を取り、履歴を記録してトラブルを未然に防ぎましょう。

ステップ6:教育・訓練と情報の共有

メンバー一人ひとりが情報セキュリティの重要性を理解し、適切に行動できるように、定期的なトレーニングや勉強会を欠かさず実施します。怪しいメールへの注意やデータ取り扱いのルール、万一のインシデント時の連絡先などを周知しておくことが大切です。

ステップ7:インシデント対応計画と演習

事故や攻撃が発生した場合の手順(検知、分析、封じ込め、復旧など)を具体的にまとめ、関係者への連絡体制や意思決定者も明らかにしておきます。計画だけでなく、実際の流れをシミュレーションする演習も行い、備えを万全にします。

ステップ8:継続的な改善活動

セキュリティ対策は一度きりではなく、継続的に見直しや改善を行います。監査や定期的な振り返り(ポストモーテム)、実績評価(KPIやKRI)を通じて弱点を明らかにし、成熟度を高めていきましょう。

次の章に記載するタイトル:PMのリスクマネジメント実務:いつ・何を・どうやるか

PMのリスクマネジメント実務:いつ・何を・どうやるか

リスクマネジメントが重要な理由

プロジェクトを進める中で、思いもよらないトラブルや情報漏洩の危険が常に存在します。リスクマネジメントとは、こうした問題が起きないようにあらかじめ備えたり、実際に発生したときに素早く対処するための仕組みです。

いつリスク対応を始めるべきか

リスク管理は、プロジェクトの初期計画段階から始めます。たとえば、新しいサービス開始の計画を立てるとき、「どんな情報が外部に漏れると困るか」「どこでトラブルが起こりやすいか」など、事前に洗い出します。この段階で対策できれば、後から大きな手戻りを防げます。

何をすべきか

  1. リスクの洗い出しと優先順位付け
  2. 例:お客様情報が漏れそうな場面や、システム障害で作業が止まるような可能性を列挙。
  3. それぞれ起こる確率と被害の大きさで、どれから対策すべきか順番を決めます。
  4. リスクへの対応策立案
  5. 起きないように避ける(回避)、他社や保険で分担する(共有)、できるだけ影響を減らす(低減)、どうしても残る部分だけは覚悟する(保有)など方針を選びます。
  6. 例:機密情報のメール送信には自動暗号化を設定する、外部からのアクセスには二重認証を取り入れる、などです。
  7. 責任者・対応期限・手順の明確化
  8. どのリスク対策を誰が、いつまでにやるのかを決めてリスト化します(リスク登録簿)。
  9. 進捗や完了状況も記録していきます。
  10. 関連メンバーへの周知・訓練
  11. みんながリスクを知って、それぞれの役割や緊急時の手順をきちんと理解できていることが大切です。会議やチャットで情報共有したり、実際に訓練を行う方法も有効です。

どうやって情報を集めるか

過去の同様プロジェクトのトラブル事例や、情報セキュリティの専門家から意見をもらうことが有効です。また、進捗データや品質管理レポートも日々チェックし、いつもと違う変化や傾向を早めに察知し対処します。

日常に溶け込むリスク管理

大切なのは、特別な時だけでなく、日頃からチーム内でリスクの話題を出せる空気を作ることです。たとえば「今日気づいた不安」などを共有する時間を設けると、大きな問題になる前に芽を摘むことができます。

次の章に記載するタイトル:具体的な対策パッケージ(実装チェックリスト)

具体的な対策パッケージ(実装チェックリスト)

組織とポリシー面での対策

プロジェクトで情報セキュリティを守るためには、まず組織やルールの整備が必要です。各プロジェクトごとにセキュリティ計画を立て、どの情報をどのように守るかを明確にします。役割や責任を割り振り、チーム内で誰がどの部分を担当するかをはっきりさせます。また、外部のサプライヤやパートナーを巻き込む場合は、セキュリティ上の条件をきちんと伝え、秘密保持契約(NDA)も必ず結びましょう。

技術面での対策

技術的な管理策も重要です。多要素認証(MFA)を使うことで、IDとパスワードだけでなく追加の確認方法を求め、不正なアクセスを防げます。シングルサインオン(SSO)を導入すれば、複数のサービスを1つの認証で利用でき、利便性と管理のしやすさが向上します。必要最小限の権限だけを与える「ゼロトラスト」の考え方もおすすめです。情報の保存・送信時には必ず暗号化を行い、情報漏えいリスクを下げましょう。
さらに、重要なデータの流出を防ぐDLPや、端末の異常を検知するEDRの導入を検討します。システムやソフトに脆弱性がないかを定期的に確認し、ログを監査して不審な動きを見逃さない体制も大切です。

プロセス面での対策

ソフトウェアの開発や新サービス導入時は、「セキュア開発ライフサイクル(SDLC)」を意識し、始めから終わりまで安全を組み込みます。システム変更の際は必ず承認フローを設け、勝手な改変が起きないようにします。大事な情報は必ずバックアップを残し、災害やシステム障害でも復旧できる準備をします。また、万一事故が起きたときに慌てないよう、インシデント対応の訓練も大切です。プロジェクト終了時のデータ消去も忘れずに実施しましょう。

人と教育の面での対策

どれだけ技術やルールがしっかりしていても、最終的には人の行動が鍵となります。例えば、フィッシング詐欺のメール訓練を行い、怪しいメールへの注意力を高めましょう。情報を種類や重要性ごとに区分けし、それぞれどんな取り扱いをすべきかを教育します。また、外部にデータを提供する際には正しい手順を必ず守らせることも忘れないでください。

次の章では、ツール活用とプラットフォーム選定の観点について解説します。

ツール活用とプラットフォーム選定の観点

プロジェクトの情報セキュリティを高めるためには、管理ツールやプラットフォームの選び方がとても重要です。必要な機能が揃ったツールを使うことで、チーム内の情報共有や業務フローが安全かつ効率的になります。

どんなポイントを確認すれば良いか

まず、権限管理の細かさを見比べましょう。たとえば「Aさんだけ文書の編集ができる」「Bさんは閲覧のみ」といった使い分けが簡単にできると、情報漏えいのリスクが下がります。また、多要素認証(MFA)が使えるかどうかも非常に大事です。これにより、パスワードだけでなく追加の確認手段が必要となり、不正アクセスを防ぎやすくなります。

監査証跡とデータ保護

使うツールが「だれが、いつ、何をしたか」という記録(監査ログ)をきちんと残せるか確認しましょう。万が一トラブルが起きた場合でも、原因を素早く追跡できます。さらに、通信やファイルのやり取りが自動で暗号化される機能があると、第三者による盗み見リスクを低減できます。

外部共有とデータの所在地

情報を外部と共有する必要がある場合、どこまで許可するかを細かく設定できる仕組みがあると安心です。さらに、クラウドサービスを利用する場合は、データがどこの国や地域に保管されるか、どの法律や規制に従って運用されているかもポイントです。たとえば「ISO 27001に準拠している」といった認証を受けているかどうか確かめましょう。

継続的な見直しと改善

選定したツールで運用を始めた後も、アクセス権の見直しや監査ログの確認を定期的に行うことで、最新のリスクに対応した運用が可能になります。

次は「フェーズ別の典型リスクと対策の当てはめ例」について紹介します。

フェーズ別の典型リスクと対策の当てはめ例

プロジェクトを進める際、各フェーズには特有の情報セキュリティリスクがあります。ここでは、企画から終了まで代表的なリスクと、その実践的な対策についてご紹介します。

企画・要件定義フェーズ

このフェーズでは「セキュリティ要求の抜け漏れ」が大きなリスクです。たとえば、個人情報保護の観点が抜け落ちていると、将来大きなトラブルになることがあります。対策としては、システムやサービスの最初から「安全を組み込む(セキュリティ・バイ・デザイン)」ことを心がけ、要件書に最低限必要なセキュリティ項目を入れるようにします。そして、要件段階で関係者全員によるレビューを行い、漏れがないか確認しましょう。

設計・実装フェーズ

設計や開発では「脆弱性(ぜいじゃくせい)の混入」が最大の懸念です。たとえば、パスワードが簡単に推測できる形で保存されたり、安全でない外部ライブラリを使った場合、悪意ある攻撃者に狙われやすくなります。ここでは、ソースコードなどを自動でチェックする静的/動的なテスト(ツールによる脆弱性診断)や、利用しているソフトウェアの安全性を確認する依存関係スキャンを活用します。また、誰がどんな操作ができるか(権限設計)がおろそかになると情報漏えいや事故につながるので、設計書にきちんと明記しましょう。

テスト・受け入れフェーズ

テスト工程でよくあるのが「本番データをそのまま使ってしまう」リスクです。実際に、名前や住所などの個人情報が流出した例もあります。この対策としては、本番データをテスト用に加工(匿名化・マスキング)すること、そしてテスト環境は本番のシステムから切り離して管理することが重要です。

移行・運用フェーズ

導入後の運用では「権限の見直し忘れ」や「バックアップの不備」などが課題になります。たとえば、人事異動や退職後も昔のまま権限が残っていると、不正利用される危険があります。定期的に権限(ロール)の確認と不要なものの削除、退職者のアカウントは早めに無効化しましょう。また、災害時に備えたバックアップの見直しや、定期的な復元訓練(DR演習)を進めると安心です。

終了・クローズフェーズ

プロジェクト完了時には「データが残ったまま放置される」ことがリスクです。例えば、使用しなくなったサーバーやパソコンに情報が残っていれば、第三者の手に渡る恐れがあります。終了計画にそって確実にデータを消去し、その証拠(証跡)を残しましょう。

次の章に記載するタイトル:法令・契約・監査を意識したコンプライアンス実務

法令・契約・監査を意識したコンプライアンス実務

法令や契約の把握とプロジェクト管理

プロジェクトでは守るべき法律や契約がさまざまに存在します。たとえば、個人情報を扱う場合は個人情報保護法、金融業界ならば金融業法など、分野ごとに特有のルールがあります。また、企業と結んでいる契約や、お客様からのセキュリティ要求事項(SLAやガイドライン)も無視できません。これらを取りこぼさず、プロジェクトの初期段階で一覧にして確認することが重要です。

管理の工夫と実践例

管理する際には、契約・法律ごとにすべきことリストを作ると手順を明確にできます。たとえば、「個人データの取り扱い方法の確認」「定期的なセキュリティ教育の記録」など、実際の業務に落とし込むことで、スタッフも理解しやすくなります。

監査に向けた記録整備

監査やチェックを受ける際には、その記録が大きな力を発揮します。例えば、システムの利用ログ、承認や決裁の記録、テストの結果など、日常的に残しておくことで、あとから振り返ることもスムーズです。これらの記録は、万が一トラブルが起きた際にも責任の所在や対応の裏付けとなります。

見直しと改善サイクルの重要性

ルールや業務内容は時とともに変化します。したがって、プロジェクトを進めるなかで、法律や契約の内容、現場の運用状況を定期的に見直すことが必要です。見直しは形だけではなく、記録と実態を照らし合わせて空白や誤りを見逃さないようにしましょう。

次の章に記載するタイトル:「PMが押さえるべき重要ポイント(要約)」

PMが押さえるべき重要ポイント(要約)

プロジェクトマネージャー(PM)が情報セキュリティについて押さえるべき、最も重要なポイントをご紹介します。

1. 最初からセキュリティを組み込む

システムやサービスの最初の設計段階から「セキュリティ・バイ・デザイン」を意識しましょう。これにより、後から慌てて対策を追加するのではなく、自然な形で強固なセキュリティが保たれます。

2. 役割と責任の明確化

プロジェクトチーム内で「誰が何をするか」を明確にします。たとえば、情報を管理する担当や、リスクを評価する担当など、それぞれの役割を書面で現場全体に伝えることが大切です。

3. セキュリティ対策の予算を確保する

情報漏洩やトラブルが発生した際の対応費用も含め、あらかじめ一定のリスク対応費用を予算に盛り込むことで、不測の事態にも迅速に対応できます。

4. 継続的な情報収集と可視化

プロジェクト期間中はセキュリティ状況や新たなリスク情報を定期的に集め、チームや関連部署と共有する仕組みを設けるとよいでしょう。全員が状況を把握できる「見える化」でリスク発覚が早くなります。

5. 周知・訓練・対応態勢の強化

プロジェクトメンバーへの情報セキュリティ教育や対策内容の周知を定期的に実施し、もしもの場合に素早く行動できる訓練も取り入れます。こうした備えが、現実のトラブル時に差を生みます。

6. インシデントに即応する仕組み

不正アクセスなどのインシデント(事故)が発生した場合、すぐに対応できるマニュアルや手順書を事前に用意しましょう。また、必要に応じて第三者機関との連絡経路も確立しておきます。

7. プロジェクト終了時のデータ廃棄管理

サービス終了やプロジェクト完了時には、データを確実かつ適切に廃棄・消去する手続きを必ず取り入れます。不要なデータの放置は大きなリスクに直結します。

これらのポイントを一貫して取り入れることで、遅延や信頼低下、法的なトラブルなどの重大な問題の発生リスクと、その影響度を同時に低減できます。

次の章に記載するタイトル:参考になる基礎・学習リソース(試験観点)

参考になる基礎・学習リソース(試験観点)

プロジェクトでの情報セキュリティ対策を確実に実施するには、基礎知識の習得が欠かせません。その中でも、ITパスポート試験の過去問題集は非常に役立つ学習リソースです。

ITパスポート過去問の活用

ITパスポートの過去問題は、情報セキュリティの「基本三要素(CIA)」や「リスクへの対応方法(回避・低減・移転・受容)」、さらに開発初期からセキュリティを考慮する「セキュリティ・バイ・デザイン」など、現場ですぐに役立つ基礎が網羅されています。問いの難易度も段階的なので、自分のレベルに合わせて学ぶことができ、理解が深まります。

チーム学習の教材にも最適

また、これらの過去問は個人だけでなく、プロジェクトチーム全体の学習教材としても有効です。特に、定例ミーティングで1問ずつ解いて知識を共有したり、新人教育の一環として使うことが可能です。みんなで答えを検討することで、日々の業務に即した知識の定着につながります。

おすすめの他リソース

加えて、IPA(情報処理推進機構)のウェブサイトには解説付きの模擬問題も掲載されています。初心者向けの用語解説ページも充実しているため、分からないことがあればすぐに調べられます。疑問点をその都度解消しながら取り組むと、より効果的にスキルアップできます。

試験問題はあくまでスタートラインですが、多くのプロジェクト現場で必要とされる知識体系を最短で学べる点が大きな特徴です。今後もぜひ、これらのリソースを積極的に活用してみてください。

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