目次
はじめに
ISOリスクマネジメントについて調べ始めると、「ISO31000とは何を定めた規格なのだろう」「ISO9001やISO27001とはどのような違いがあるのだろう」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
実際には、ISO31000は組織全体でリスクを整理し、適切に管理するための考え方や進め方をまとめた国際規格です。
この記事では、ISO31000の基本的な考え方をはじめ、導入するメリットや他のISO規格との違い、企業でどのように活用されているのかについて、順を追ってわかりやすく解説していきます。
ISOリスクマネジメントとは?

ISOリスクマネジメントは、組織が直面するさまざまなリスクを計画的に管理するための考え方をまとめた国際的なガイドラインです。
ここでは、ISO31000の概要やISOリスクマネジメントの基本的な考え方に加え、「認証規格」と誤解されやすい理由についてわかりやすく解説します。
ISO31000とは何か
ISO31000は、組織がリスクを継続的に管理するための考え方や進め方をまとめた国際規格です。
業界や企業規模を問わず、製造業やサービス業、官公庁、医療機関など、さまざまな組織で活用されています。リスクを特定し、発生する可能性や影響を評価したうえで対応策を決め、定期的に見直す流れを示しているのが特徴です。
また、認証取得を目的とする規格ではなく、組織全体でリスクマネジメントを進めるための共通指針として利用されています。
ISOリスクマネジメントの基本的な考え方
ISOリスクマネジメントでは、問題が起きてから対応するのではなく、事前にリスクを洗い出し、発生する可能性や影響の大きさを評価したうえで、優先順位に応じた対策を進めます。
また、一度対策を実施して終わりではなく、結果を定期的に確認し、事業環境の変化や新たなリスクに合わせて見直しを続けることも大切です。
こうした継続的な取り組みが、組織の目標達成につながります。
「認証規格」と誤解されやすい理由
ISOリスクマネジメントが認証規格と誤解されやすい理由は、ISO9001やISO27001など、認証取得を目的としたISO規格と同じ「ISO」の名称が付いているためです。
しかし、ISO31000は審査を受けて認証を取得するための規格ではなく、組織がリスクマネジメントを進める際の考え方や手順を示した指針です。
そのため、ISO31000そのものを取得したり認証されたりする制度はありません。
ISOリスクマネジメントでいう“リスク”とは?

ISOリスクマネジメントを理解するうえでは、「リスク」という言葉の意味を正しく捉えることが重要です。
ここでは、企業における具体的なリスクの例を紹介するとともに、リスクに「機会」が含まれる考え方や、継続的改善を重視する理由について解説します。
企業におけるリスクの具体例
企業におけるリスクには、情報漏えいによる顧客情報の流出、自然災害による事業停止、設備故障による生産ラインの停止、取引先の倒産による資材調達の遅れ、法令違反による行政処分、従業員の労働災害などがあります。
これらのリスクは、売上の減少や業務の停止、信用の低下、追加費用の発生につながる可能性があるため、発生する可能性と事業への影響を評価し、優先順位を決めて管理することが重要です。
マイナスだけでなく“機会”も含まれる
ISOリスクマネジメントでは、リスクは損失や事故などのマイナス要因だけを指すものではありません。
事業目標の達成につながる新たな市場への参入や業務改善、生産性向上など、良い結果を生み出す可能性もリスクとして捉えます。
そのため、悪い影響を減らす対策だけでなく、良い結果につながる可能性を活かすための対応も含めて管理することが基本的な考え方です。
継続的改善の考え方が重視される
ISOリスクマネジメントでは、一度リスクを評価して対策を実施したら終わりではなく、実施した対策の結果を定期的に確認し、事業内容や法令、社会環境の変化に応じて見直しを続けることが重視されています。
対策によってリスクが十分に低減されたか、新たなリスクが発生していないかを継続的に確認し、必要に応じて管理方法を修正することで、リスクマネジメントの実効性を維持します。
ISOリスクマネジメントの基本プロセス

ISOリスクマネジメントでは、リスクを把握するだけではなく、発見から対応、見直しまでを一連の流れとして継続的に実施することが重要です。
ここでは、リスクの特定から分析・評価、対応とモニタリングまでの基本プロセスをわかりやすく解説します。
リスクの特定
リスクの特定では、事業目標の達成を妨げる可能性がある事象を洗い出します。
業務内容や設備、情報資産、法令対応、取引先などを対象に、どのような問題が発生する可能性があるかを整理し、発生原因や影響を明確にすることが重要です。
リスクを漏れなく特定することで、その後の評価や対策を適切に進められるようになります。
リスク分析・評価
リスク分析・評価では、特定したリスクごとに発生する可能性と事業への影響の大きさを確認し、対応の優先順位を決定します。
発生頻度が高く、業務停止や損失が大きくなるリスクは優先して対策を検討し、発生する可能性や影響が小さいリスクは管理方法を見直しながら継続的に監視します。
この評価によって、限られた人員や予算を優先度の高いリスクへ効率的に配分できます。
リスク対応とモニタリング
リスク対応では、評価結果に基づいて優先度の高いリスクから対策を実施します。
その後のモニタリングでは、対策によって発生する可能性や影響が低減されたかを定期的に確認し、新たなリスクや事業環境の変化がないかを継続して監視します。
確認結果に応じて対策内容を見直すことで、リスクマネジメントを継続的に改善できます。
ISOリスクマネジメントを行うメリット

ISOリスクマネジメントを導入することで、リスクへの備えがしやすくなるだけでなく、組織全体の運営や意思決定にもさまざまな効果が期待できます。
ここでは、ISOリスクマネジメントを実践することで得られる代表的なメリットについて解説します。
トラブルや損失を未然に防ぎやすくなる
ISOリスクマネジメントを実施すると、業務停止や情報漏えい、設備故障、法令違反などのリスクを事前に把握し、発生する前に対策を実施しやすくなります。
発生する可能性と影響を評価したうえで優先順位を決めて対応するため、問題が発生してから緊急対応する場面を減らし、事業への損失や業務への影響を抑えやすくなります。
組織全体でリスク共有しやすくなる
ISOリスクマネジメントでは、リスクを組織全体で特定・評価・管理するため、部門ごとに異なる認識を持つ状態を減らしやすくなります。
リスクの内容や優先順位、対応方法を共通の基準で共有することで、担当部門だけに情報が偏ることを防ぎ、組織全体で同じ方向性に沿って対応を進めやすくなります。
意思決定の精度向上につながる
ISOリスクマネジメントでは、リスクの発生する可能性や事業への影響を事前に評価したうえで判断を行うため、想定される影響を踏まえた意思決定を行いやすくなります。
リスクの優先順位や対応方法を明確にした状態で新規事業や設備投資、業務変更などを検討できるため、判断の根拠が明確になり、意思決定の精度向上につながります。
ISO9001・ISO27001との違い

ISO31000はリスクマネジメントの考え方を示す規格ですが、ISOには品質管理や情報セキュリティなど、目的が異なるさまざまな規格があります。
ここでは、ISO9001・ISO27001との違いを比較しながら、ISO31000が共通的な考え方を示す規格である理由をわかりやすく解説します。
ISO9001との違い
ISO9001は、製品やサービスの品質を継続的に改善し、顧客満足の向上を目指す品質マネジメントシステムの認証規格です。
一方、ISO31000は品質管理だけを対象とするものではなく、経営、情報管理、災害対策、法令対応など組織全体に関わるリスクを管理するための指針です。
そのため、ISO9001は品質管理を対象とした認証規格であるのに対し、ISO31000は組織全体のリスク管理に活用するための考え方を示しています。
ISO9001について詳しく知りたい方は、品質マネジメントシステムの概要や認証制度、導入するメリットをまとめた以下の記事も参考にしてください。
▶ISO9001とは?初心者向けにわかりやすく解説
ISO27001との違い
ISO27001は、情報資産を保護するための情報セキュリティマネジメントシステムの認証規格です。
一方、ISO31000は情報セキュリティだけを対象とするものではなく、経営、財務、法令順守、災害、事業継続など組織全体のリスクを管理するための指針です。
そのため、ISO27001は情報セキュリティリスクの管理に特化しているのに対し、ISO31000はあらゆる種類のリスクを対象とした考え方を示しています。
情報セキュリティマネジメントの内容やISO27001の認証制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▶ISO27001とは?初心者向けにわかりやすく解説
ISO31000は“共通的な考え方”を示す規格
ISO31000は、特定の分野に限定した管理方法を定める規格ではなく、あらゆる種類のリスクを管理するための共通的な考え方や進め方を示した国際規格です。
そのため、品質管理や情報セキュリティ管理など、それぞれのマネジメントシステムにも共通するリスクマネジメントの考え方として活用できます。
組織の業種や規模を問わず、一貫した考え方でリスク管理を進められることが特徴です。
ISOリスクマネジメントは企業でどう活用されている?

ISOリスクマネジメントは、特定の業界だけでなく、さまざまな企業や組織で日常業務や経営活動に活用されています。
ここでは、情報セキュリティ対策や災害・事故への備え、組織内でのリスク共有など、企業における代表的な活用例を解説します。
情報セキュリティ対策
情報セキュリティ対策では、顧客情報や営業情報などの重要な情報資産に対するリスクを特定し、情報漏えいや不正アクセス、ランサムウェア感染などの発生する可能性と影響を評価したうえで対策を実施します。
対策後も運用状況を定期的に確認し、新たな脅威やシステム変更に合わせて管理方法を見直すことで、情報資産を継続的に保護しやすくなります。
災害・事故リスク対策
災害・事故リスク対策では、地震や台風、火災、設備故障などによって業務が停止する可能性を事前に特定し、事業への影響を評価したうえで対応策を整備します。
重要設備の点検や非常時の対応手順、事業継続体制などをあらかじめ準備し、定期的に見直すことで、災害や事故が発生した場合でも業務への影響を最小限に抑えやすくなります。
組織運営のリスク共有
組織運営では、各部門が把握しているリスクを組織全体で共有し、共通の基準で優先順位や対応方針を決定するためにISOリスクマネジメントが活用されています。
部門ごとに異なる判断で対応する状況を防ぎ、経営層から現場まで同じ情報をもとに対策を進めることで、リスク管理のばらつきを抑えながら組織全体で一貫した運営を行いやすくなります。
ISOリスクマネジメントでよくある誤解

ISOリスクマネジメントについて調べると、「認証を取得するための規格」「リスク管理は一部門だけが行うもの」といった誤った理解を目にすることがあります。
ここでは、ISOリスクマネジメントでよくある誤解を取り上げながら、正しい考え方についてわかりやすく解説します。
認証取得が目的ではない
ISO31000は認証を取得するための規格ではなく、組織がリスクを管理するための考え方や進め方を示した指針です。
そのため、ISO9001やISO27001のように第三者機関による審査を受けて認証を取得することはできません。
目的は認証取得ではなく、組織全体でリスクを継続的に管理し、事業目標の達成につなげることです。
一部門だけの管理ではない
ISOリスクマネジメントは、総務部や情報システム部など一つの部門だけで管理するものではありません。
経営層を含め、各部門が担当業務に関するリスクを特定し、情報を共有しながら組織全体で対応することが前提です。
特定の部門だけで管理するとリスクの把握に漏れが生じやすくなるため、組織全体で継続的に管理することが求められます。
リスクをゼロにする考え方ではない
ISOリスクマネジメントは、すべてのリスクを完全になくすことを目的とした考え方ではありません。
リスクを特定し、発生する可能性と影響を評価したうえで、受け入れるリスクと優先して対策すべきリスクを判断し、適切な水準で管理することを重視しています。
そのため、リスクをゼロにすることではなく、事業目標の達成に向けて適切にコントロールすることが目的です。
まとめ
ISOリスクマネジメント(ISO31000)は、リスクを継続的に管理し、組織の目標達成につなげるための国際規格です。
事故や損失を防ぐだけでなく、事業の成長につながる機会も含めて考える点が特徴であり、状況に応じて対策を見直し続けることが大切です。
また、ISO9001やISO27001のような認証規格とは目的が異なるため、それぞれの役割を理解して活用することが重要です。
まずはISO31000の基本的な考え方を理解し、自社の業務や組織に合わせて少しずつ取り入れていくことで、変化に対応しやすいリスクマネジメントにつながるでしょう。