目次
はじめに
この記事の目的
本記事は、PMP試験やPMBOKで扱うリスクマネジメントを、基礎から実務で使える形まで体系的に学べるようにまとめました。資格対策だけでなく、現場で実際に役立つ視点を重視しています。
想定読者
- PMP受験を検討している方
- 現場でプロジェクト管理を担当している方
- リスク管理の基本を整理したい方
この記事で学べること
- リスクマネジメントの基本概念と具体例
- PMBOK・PMP試験で押さえるべきポイント
- 実務で使える表やテンプレートの紹介
- PMBOK第7版での主な変化の見方
構成と読み方のアドバイス
各章は試験対策と実務両方に使えるように作っています。まず第2章で基本を固め、第4章でプロセスの流れを押さすと理解が深まります。実務に移す際は第6章のテンプレートをそのまま試してみてください。短めの章ごとに読み進めると負担が少なく学習が続きやすいはずです。
リスクマネジメントとは何か
概要
リスクマネジメントは、将来に起こりうる不確実な事象（リスク）を体系的に扱い、損失を避けたり影響を小さくしたりする活動です。プロジェクトや業務で成果を確実にするために行います。リスクは必ずしも悪いことだけでなく、好機（機会）も含みます。
リスクの例（具体例）
- 脅威：主要メンバーの病欠で納期が遅れる
- 脅威：外部ベンダーの納品が遅れる
- 機会：新機能が想定より早く実装でき競争優位になる
- 機会：自動化で作業コストが下がる
特徴と評価の軸
リスクは「発生確率」と「影響度」で評価します。高確率・高影響のものを優先的に対処します。
基本プロセス（簡潔）
- 特定（何が起こり得るかを洗い出す）
- 分析（確率と影響を評価する）
- 対策計画（回避・軽減・移転・受容、または機会活用）
- 実行（計画を実施）
- 監視・見直し（状況に応じて更新）
なぜ重要か
見える化することで、問題発生時に慌てず対応でき、プロジェクト成功率が上がります。小さな早期対策で大きな損失を防げます。
実務のコツ
- リスクはチームで定期的に話し合う
- 小さな懸念も記録する
- 対策は実行可能で期限を決める
最初は完璧を目指さず、少しずつリスク管理の習慣をつけることをおすすめします。
PMBOK・PMPにおけるリスクマネジメントの位置づけ
PMBOKの全体像とリスクの扱い
PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識と実践を整理した手引きで、PMP試験の基盤となります。リスクマネジメントは単独の項目だけでなく、計画や実行、監視といった全プロセスに影響します。たとえば納期遅延の可能性があれば計画段階から対策を組み込みます。
第7版での変化（プロセス→プリンシプル）
第7版ではプロセス中心から原則（プリンシプル）中心へ変わり、リスクは「不確実性（Uncertainty）」のドメインで扱われます。リスク対策は一つの工程に閉じず、価値提供や意思決定の場面で横断的に考えます。
PMP試験と実務での位置づけ
PMP試験ではリスクの識別、評価、対応策（回避・移転・軽減・受容）など基本が問われます。現場ではリスクを早く見つけて小さくすることが重要で、定期的なレビューと関係者との共有を習慣にすると効果的です。
具体例でイメージをつかむ
- 仕入先の納期リスク→代替業者の選定や在庫で備える
- 仕様変更のリスク→段階的な要件確認で早めに検出
こうした対策を計画に組み込み、状況に応じて見直すことが求められます。
PMBOKにおけるリスクマネジメントのプロセス
1. リスクマネジメント計画の立案
リスクをどう扱うかのルールを決めます。対象範囲、評価基準、責任者、報告頻度を明確にします。例：重大度は「高・中・低」で定義し、担当はプロジェクトマネージャーとする。
2. リスクの識別
関係者ミーティングやチェックリストでリスクを洗い出し、リスク登録簿に記録します。例：納期遅延、ベンダー倒産、要件変更などを具体的に書きます。
3. リスクの定性・定量分析
発生確率と影響度を評価します。定性はランク付け、定量はコストや日数で影響を数値化します。例：遅延が発生すると納期が10日伸びる等。
4. リスク対応策の計画
回避、軽減、移転、受容の方針を決めます。例：ベンダーリスクは二社体制で移転、技術リスクは試作で軽減します。対応策と実施担当、期限を登録簿に書きます。
5. リスクの監視・コントロール
定期的にリスクを見直し、発生時は迅速に対応します。変更があれば登録簿を更新し、教訓を蓄積します。日常的なチェックリストと定期レビューが効果的です。
PMP試験対策におけるリスクマネジメントの重要キーワード
PMP試験で問われやすいリスク関連の用語を、具体例を交えて分かりやすく整理します。用語の意味だけでなく、試験での出題意図や覚え方も意識してください。
リスク登録簿（Risk Register）
リスクの一覧表です。リスクの内容、発生確率、影響度、対応策、リスクオーナーを記載します。例：納期遅延のリスク→対応は代替作業の準備、オーナーは工程管理担当。
リスクマネジメント計画書
リスクの識別方法、分析の深さ、担当者、監視方法などを定めます。試験では“どのレベルで管理するか”を問われやすいです。
定性分析・定量分析
定性：確率と影響度で優先順位を付ける（例：高・中・低）。定量：金額やスケジュール日数で影響を数値化する（EMVなど）。
リスク対応策（回避・緩和・受容・転嫁）
回避：リスク原因を取り除く（設計変更でリスクを無くす）。
緩和：発生確率や影響を下げる（追加試験で不具合を減らす）。
受容：対策を取らず影響を受け入れる（低コストの場合）。
転嫁：保険や外部委託で責任を移す。
リスクオーナー
各リスクの責任者です。対応実行と監視を担当します。試験では責任範囲の明確化がポイントになります。
その他の重要語
- 残存リスク：対応後に残るリスク
- 副次リスク：対応が生む新たなリスク
- トリガー：リスク発生の兆候（遅延の通知など）
- ウォッチリスト：低優先のリスクの監視リスト
これらを実務の例と結び付けて覚えると、試験でも実践的に答えやすくなります。
現場で使えるリスク管理表・テンプレート
はじめに
実務ではリスク管理表（リスクログ）が中心です。見える化するとチームの認識が揃い、早期対応が可能になります。
目的と基本項目
目的は「リスクの特定・優先度付け・対応履歴の記録」です。最低限の項目は次の通りです。
- ID：一意の番号
- リスク内容：短く具体的に（例：主要メンバーの離脱）
- 発生源：人的、技術的、外部など
- 発生確率：高／中／低 または数値化
- 影響度：高／中／低 またはスコア（1–5）
- リスクスコア：確率×影響度で算出
- 優先度：対応順を示す
- 対応方針：回避・軽減・受容・移転
- 対応策：具体的アクション
- 担当者・期限・状態・備考
Excelでの運用例（すぐ使える工夫）
- 列に上記項目を配置し、フィルターと並び替えを活用します。
- 条件付き書式でハイリスクを赤表示にします。
- ピボットやグラフでカテゴリ別の分布を可視化します。
- シートを「現在のリスク」「対応履歴」「教訓」に分けると管理が楽になります。
専用ツールの活用（簡潔に）
課題管理ツールとリンクし、チケットで対応を追跡すると実行管理が確実になります。通知設定で期限切れを防げます。
運用のコツ
- 定期レビュー（週次か隔週）で更新します。
- 小さなリスクも記録し、発生前に対処できる習慣を作ります。
- 担当者を必ず明確にし、エスカレーションルールを定めます。
- レポートは簡潔にして、意思決定者がすぐ読めるようにします。
テンプレート（項目一覧）
ID / リスク内容 / 発生源 / 発生確率 / 影響度 / リスクスコア / 優先度 / 対応方針 / 対応策 / 担当者 / 期限 / 状態 / 備考
このテンプレートを基に、プロジェクトの規模や業種に合わせてカスタマイズしてください。
最新トレンド・PMBOK第7版での変化
概要
PMBOK第7版は「プロセス」から「原則」と「パフォーマンスドメイン」へ軸を移し、リスクマネジメントも結果や価値提供を重視する実践志向になりました。現場で使える柔軟さが増しています。
主なポイント
- 価値提供重視：リスク対応は単に問題を避けるのではなく、プロジェクトの価値を最大化する視点で行います。
- アジャイル統合：短いイテレーションでの継続的なリスク確認や、バックログにリスク項目を入れる運用が推奨されます。
- チーム文化：リスクはチーム全体で共有・解決する文化が重要になります。
現場での適用例
- 依存先の遅延リスクは、短いスパイク（実験）で不確実性を解消し、備蓄ではなく学習で対応します。
- サプライヤーリスクは契約条項と並行して、定期的なステータス確認で早期発見します。
実務的なヒント
- 短いリスクワークショップを定期開催する。
- デイリースタンドアップで重要リスクを毎回確認する。
- リスクバードウンチャートや簡易リスクボードを使って可視化する。
PMP・受験への影響
PMP試験対策では、プロセス暗記だけでなく原則や価値志向の応用問題にも備えてください。アジャイルとの組み合わせ事例を理解すると有利です。
まとめ・実務と資格対策の両立
要点
リスクマネジメントはPMP合格に役立つ知識であると同時に、現場でのプロジェクト成功に直結します。PMBOKのフレームと現場で使えるテンプレートを組み合わせて、計画→実行→監視→改善を回しましょう。
実務と学習を両立するコツ
- 日次・週次で短い学習時間（例：通勤30分や昼休み）を確保する
- プロジェクトの実例を問題として扱い、PMP用語で整理してみる
- リスク管理表を試験のキーワードに合わせて作り、実務で使う
学習計画の立て方
- 目標試験日から逆算して週ごとの学習テーマを決める
- 模擬問題を週1回は解き、誤答をリスクとして記録する
現場での活用例
小さな変更や問題を見つけたら、簡易リスクログに記録して対処策を定める。これを試験勉強のケーススタディにすると理解が深まります。
キャリア面の利点
PMP知識を実務に活かすと、プロジェクトの安定運営につながり評価が上がります。資格取得は知識の整理と信頼性の証明になります。
最後に一言。計画的に少しずつ進めれば、実務の成果と資格取得の両方を手にできます。