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はじめに:アサーティブコミュニケーションとは何か?

アサーティブコミュニケーションとは、自分の意見や気持ちを率直に伝えながら、相手の立場や感情も尊重する対話の方法です。
「きちんと伝える」ことと「相手を大切にする」ことを両立させる姿勢とも言えます。
たとえば、
- 言いたいことを我慢してしまう
- 遠回しに伝えて誤解される
- 指摘するときに強い言い方になってしまう
こうした職場の困りごとは、アサーティブコミュニケーションで改善できます。
アサーティブは「強い主張」や「押し付け」ではありません。
また、「何でも我慢すること」でもありません。
自分の気持ちを大切にしながら、相手も傷つけない伝え方を選ぶことが特徴です。
職場では、上司・同僚・部下・顧客など立場の違う人とやり取りすることが多いため、アサーティブコミュニケーションは特に重要になります。
ポイントは次の3つです。
この姿勢があると、職場の対立やすれ違いが減り、意見を伝えやすい雰囲気が作られていきます。
本記事は職場で使えるアサーティブコミュニケーションの具体例と実践方法を分かりやすく解説します。
アサーティブコミュニケーションとは、自分の意見や感情を相手の権利も尊重しながら伝える技術です。
まずは基本的な考え方を押さえ、上司・同僚・顧客とのやり取りの場面別に具体例を示します。
次に実践のポイントや、日常での練習法を紹介し、最後に得られる効果について整理します。
誰でも実践できるよう専門用語は最小限にし、具体的な言い回しも示します。
職場の人間関係を改善したい方、チームでの協力を高めたい方に向けた内容です。読み進める中で、自分の職場で試せる小さな一歩を見つけてください。
簡単な練習から始めることで、徐々に自信がつきます。
職場で起きがちなコミュニケーションの問題
職場では、立場や役割が異なる人と関わるため、小さなすれ違いが大きな問題につながることがあります。
たとえば次のような場面です。
- 本当は困っているのに、「大丈夫です」と言ってしまう
- 依頼や指摘を遠回しに伝え、相手が気づかない
- 厳しく伝えすぎて、関係性がぎくしゃくする
- 会議で意見を言えず、同じ課題が繰り返される
- チャットやメールの文面が冷たく見える
どれもよくある場面ですが、背景には「自分の気持ちを言語化する難しさ」と「相手の反応への不安」があります。
結果として、次のような問題が起こりやすくなります。
- 誤解が積み重なり、信頼関係が弱くなる
- 意見が出ず、改善が進まない
- お互いのストレスが増える
- 無理な要求を受け入れてしまい負担が偏る
- 伝え方の違いが、評価や人間関係に影響する
このような課題は、能力や人柄の問題ではなく、伝え方の方法を知らないだけということが多いです。
アサーティブコミュニケーションは、こうした状況を改善するための具体的な手法であり、双方が安心して意見を伝えられる環境づくりの第一歩になります。
アサーティブコミュニケーションを成立させる4つの軸
アサーティブコミュニケーションには、土台となる考え方があります。
その中心となるのが次の4つの軸です。
① 誠実であること
相手を尊重し、攻撃したり否定したりしない姿勢です。
「自分が伝えたいこと」と「相手が大切にしていること」の両方を認めながら話すことで、安心感が生まれます。
② 率直であること
遠回しにせず、曖昧にせず、事実と気持ちを素直に伝えることです。
たとえば、
- 「困っています」
- 「もう少し時間が必要です」
- 「助けてもらえると助かります」
といったように、意欲や困りごとを言葉にすることがポイントです。
③ 対等であること
立場や役職にかかわらず、相手と自分を同じ人として扱うことです。
上司だから言えない、部下だから強く言う、という偏りを避け、対話をする相手として向き合う姿勢がアサーティブの基礎になります。
④ 自己責任を持つこと
「自分の感じ方」「自分の選択」を相手に任せず、自分のものとして伝えることです。
たとえば、
- 「こう感じた」
- 「こうしてほしい」
- 「こういう理由で判断した」
といった表現がこれにあたります。
この4つの軸がそろうことで、
伝えたいことが明確になり
相手にも配慮でき
建設的な話し合いがしやすくなります
アサーティブコミュニケーションは、単なる話し方のテクニックではなく、相手との関係を大切にする考え方でもあるのです。
自己表現スタイルの違い(比較で理解を深める)
アサーティブコミュニケーションを理解するには、他の自己表現スタイルとの違いを見ることが役立ちます。
職場でよく見られる自己表現には、大きく3つのタイプがあります。
① 受け身型(パッシブ)
自分の考えや気持ちを言えず、相手の意見を優先してしまうスタイルです。
- 「断れずに抱え込む」
- 「相手の顔色を気にする」
- 「本音を飲み込む」
といった傾向があります。
結果として、ストレスがたまりやすく、周囲には「意見がない人」と誤解されることもあります。
② 攻撃型(アグレッシブ)
自分の意見を強く主張し、相手の気持ちや事情に配慮がないスタイルです。
- 強い言い方
- 相手を責める口調
- 指示や命令口調
などが特徴で、結果的に相手の反発や距離を生みやすくなります。
③ アサーティブ型
自分の意見を伝えつつ、相手の立場や感情も大切にするバランスの取れたスタイルです。
- 相手を尊重する
- 事実と気持ちを整理して話す
- 建設的な解決を目指す
これが職場で求められる対話の形です。
自分の普段の話し方がどのタイプに近いかを知ることは、改善の第一歩になります。
アサーティブは「無理に自分を変えること」ではなく、相手と自分の両方にとって良い伝え方を選ぶ練習でもあります。
場面別の事例と言い換え例
職場では「どう言えばいいのか悩む場面」が多くあります。
ここでは、よくある場面と実際に使える言い換え例を紹介します。
事例① 上司から過度な依頼を受けたとき
NG例
「無理です」「できません」
→ 突き放した印象になりやすい
アサーティブな言い換え例
「この件に取り組みたいのですが、今の業務量だと期限が厳しいです。優先順位をご相談させてもらえますか?」
➡ 自分の状況+協力依頼 が含まれ、前向きな話し合いにつながります。
事例② プロジェクトで意見が対立したとき
NG例
「その案は違うと思います」
→ 否定に聞こえる
言い換え例
「私の考えは少し違う視点があります。理由をお伝えしてもいいですか?」
➡ 相手の案を否定せず、自分の視点を提示する枠組み が作れます。
事例③ 顧客から無理な要望を受けたとき
NG例
「それはできません」
言い換え例
「そのご要望を実現するには、追加の工数が必要になります。代替案をご提案してもよろしいでしょうか?」
➡ 要望を理解した姿勢+現実的な方向性 を示すことができます。
事例④ 同僚に言いにくい指摘をするとき
NG例
「最近遅れすぎですよ」
言い換え例
「最近納期が遅れることが少し増えているように感じています。何かサポートできることはありませんか?」
➡ 責めず、意図を「支援・協力」に置くことで受け止められやすくなります。
事例⑤ 会議で意見を出したいとき
NG例
「いや、それは違うと思います」
言い換え例
「別の方向性も検討できるかもしれません。●●という案について、ご意見いただけますか?」
➡ 否定を避け、建設的な提案 に変わります。
事例⑥ リモートワーク・チャットでの文面
NG例
「至急対応してください」
言い換え例
「急ぎの案件で申し訳ないのですが、●時までに確認いただけると助かります」
➡ 依頼+配慮+期限 を明確にすると、冷たさが和らぎます。
事例⑦ 評価面談やフィードバックの場面
NG例
「もっとしっかりしてください」
言い換え例
「ここは改善の余地があると感じています。原因を一緒に整理し、次の一歩を考えていきませんか?」
➡ 指摘ではなく、“共に考える” 姿勢 が信頼につながります。
どの事例にも共通しているのは、
- 相手を否定しない
- 自分の考えを言葉にする
- 解決へ向けた提案を添える
というポイントです。
これはアサーティブコミュニケーションの基本であり、言い換えを練習することで誰でも身につけられます。
アサーティブが難しい理由と失敗例
アサーティブコミュニケーションは大切だとわかっていても、実践がうまくいかないことがあります。
ここでは、多くの人がつまずきやすい理由と、よくある失敗例を整理します。
① 相手の反応が怖い
「嫌われたらどうしよう」
「面倒な人だと思われたくない」
といった不安は誰にでもあります。
そのため、言いたいことを飲み込みがちです。
② 文化的な影響
日本の職場では、
- 遠慮
- 空気を読む
- 和を乱さない
といった価値観が強く、「率直に伝える」ことが抵抗になるケースがあります。
③ 自分の感情を言語化するのが苦手
「何が嫌なのか」
「なぜ困っているのか」
を整理できないと、伝え方もぼんやりしやすくなります。
④ 言い方が強くなりすぎてしまう
意図は良くても、伝え方が攻撃的に聞こえてしまうことがあります。
例
- 指摘が責める調子になる
- 要望が命令のようになる
相手を尊重する姿勢が抜けると、アサーティブではなくなります。
⑤ 相手の感情を受け止めきれず、逃げてしまう
相手が怒ったり不機嫌になったりすると、伝えたことを後悔し、やめてしまう人も多いです。
こうしたつまずきは、能力がないから起こるわけではありません。
伝え方を学ぶ機会が少ないだけです。
失敗しながら少しずつ改善することで、自然にできるようになっていきます。
次の章では、これをサポートする方法として、具体的なフレームワークを紹介します。
実践のためのフレームワーク(DESC法など)
アサーティブコミュニケーションは、感覚だけで行うものではありません。
具体的な手順を知ることで、安心して実践できるようになります。
その代表が DESC法 です。
DESC法は、次の4つのステップで構成されています。
① Describe(事実を伝える)
相手の行動や状況を、評価や感情を含めずに説明します。
例
「最近、資料提出が締め切りを過ぎることが続いています。」
② Express(気持ちや影響を伝える)
その事実が自分やチームにどんな影響を与えているかを伝えます。
例
「その結果、他の工程が遅れ、メンバーが調整に追われています。」
③ Specify(要望や提案を伝える)
相手にどうしてほしいか、具体的に伝えます。
例
「今後は締め切り前に進捗を共有してもらえると助かります。」
④ Consequence(相手への効果を伝える)
その行動を取ることで得られるメリットや、改善につながる点を示します。
例
「そうしてもらえると、サポートがしやすくなり、チーム全体の負担が減ります。」
DESC法を使うと、
- 感情に流されず
- 相手を責めず
- 課題と改善策を整理して伝える
ことができます。
この手順に慣れることで、難しい会話でも落ち着いて伝えられるようになります。
また、状況に応じて「Iメッセージ」や「事実と言い換えのメモ」を組み合わせると、より伝わりやすくなります。
日常で鍛える練習方法
アサーティブコミュニケーションは、知識を学ぶだけでは身につきません。
小さな実践を積み重ねることで、自然な伝え方になっていきます。
ここでは、日常でできる具体的な練習方法を紹介します。
① 自分の感情を言語化する
まずは、自分がどう感じたかを言葉にする習慣をつけます。
- 嬉しい
- 困っている
- 助けてほしい
- 迷っている
など、短い言葉で構いません。
小さな気持ちを捉えることが、伝える力の土台になります。
② 依頼や断りの言い換えを練習する
日常の依頼や断りを、丁寧に伝える練習をします。
例
「至急対応してください」→
「急ぎの案件で申し訳ないのですが、●時までに確認いただけると助かります」
慣れてくると自然に言い換えられるようになります。
③ ロールプレイや振り返りを行う
実際の場面で試してみたら、振り返りが大切です。
- うまくいったところ
- 伝わりにくかったところ
- 次に改善できること
を短くメモするだけで、次につながります。
④ 小さな場面から始める
いきなり難しい場面で使う必要はありません。
- お願いをするとき
- 相談をするとき
- 何かを断るとき
といった日常の小さな対話から試すと、負担なく続けられます。
アサーティブコミュニケーションは、練習を重ねるほどスムーズになります。
「完璧でなくていい」という気持ちで取り組むことが、習慣化のコツです。
チームや職場への導入方法(組織視点で差別化)
アサーティブコミュニケーションは、個人だけのスキルではありません。
チームや職場全体で共有されると、働きやすさや成果が大きく変わります。
ここでは、職場でアサーティブを根付かせるための実践方法を紹介します。
① 1on1やミーティングでの活用
管理職やリーダーが、1on1面談や会議でアサーティブな伝え方を実践すると、周囲がその姿勢を学びやすくなります。
- 意見を尊重する姿勢
- 否定せず聞く態度
- 提案と依頼をセットで伝える
こうした行動が、自然なロールモデルになります。
② 具体的な言い方を共有する
研修資料や社内チャットで、よく使う言い換え例を共有すると効果的です。
例
- 依頼するときの言い方
- 断るときの表現
- 指摘をするときの姿勢
実際に使える言葉があると、誰もが取り組みやすくなります。
③ 評価制度やチームルールに取り入れる
- ミーティングでの発言姿勢
- フィードバックの仕方
- チーム内での協力
こうした行動が評価される仕組みがあると、アサーティブが定着しやすくなります。
④ 雑談や対話の機会を増やす
小さな会話の積み重ねは、心理的安全性の土台になります。
- 朝の声かけ
- 振り返りの共有
- ちょっとした相談
こうした日常的なやり取りが、相手を尊重するコミュニケーションを自然に育てます。
⑤ マネージャーやリーダーが学ぶ姿勢を持つ
「自分はできている」と思い込まず、学び続ける姿勢を見せることで、メンバーも安心して改善に取り組めます。
組織として取り組むことで、
- 誤解や対立が減る
- ミーティングが前向きになる
- 意見交換が活発になる
といった効果が広がります。
アサーティブは、個人のスキルから 職場の文化 へと育てていくことがポイントです。
アサーティブ導入の効果
アサーティブコミュニケーションを取り入れると、個人と職場の両方に変化が生まれます。
ここでは、実際に期待できる効果を整理します。
① 対立や誤解が減る
否定や圧力ではなく、事実と意図を伝えることで、すれ違いが少なくなります。
小さな誤解が大きな問題になる前に解消しやすくなります。
② ミーティングや議論が前向きになる
意見を言いやすい空気ができるため、
- アイデアが出やすい
- 違う視点が活かされる
- 建設的な議論が生まれる
といった変化が見られます。
③ チームの信頼関係が深まる
相手を尊重しながら伝える姿勢は、安心感を生みます。
- 否定されない安心
- 批判されない安心
があることで、自然と協力し合える関係が育ちます。
④ 仕事の負担が偏りにくくなる
依頼や断りがしやすくなるため、一部の人に負担が集中する状況が減ります。
結果として、チーム全体のバランスが良くなります。
⑤ ストレスや心理的負担が軽減される
気持ちを抱え込まずに伝えられることで、
- モヤモヤが減る
- 感情の整理がしやすい
といった精神面のメリットもあります。
アサーティブコミュニケーションは、
単に話し方を変えるだけでなく、働きやすさや成果にも影響するスキルです。
次の章では、これらを踏まえてまとめと、実践への一歩を紹介します。
まとめと次の一歩
アサーティブコミュニケーションは、
自分の気持ちを大切にしながら、相手の立場も尊重する伝え方です。
この記事では、
- その考え方
- よくある場面の言い換え例
- 難しさと乗り越え方
- 実践の方法
- 職場での定着のポイント
を整理してきました。
大切なのは、完璧を目指すことではなく、少しずつ試していくことです。
まずは、次のような小さな一歩から始めてみてください。
- 本当に困っているときは「困っています」と言う
- 意見が違うときは「別の考えもあります」と添える
- 依頼するときは理由と期限を伝える
こうした小さな実践が積み重なると、自然に伝え方が変わり、職場の空気も前向きになります。
アサーティブコミュニケーションは、誰でも学べるスキルです。
少しずつ取り入れていくことで、働きやすい関係と信頼が育っていきます。