目次
はじめに
本記事では、プロジェクトマネジメントにおける「テーラリング」をやさしく整理してご紹介します。
テーラリングとは、プロジェクトの規模や状況に合わせて管理方法や作業プロセスを調整する考え方です。
すべてのプロジェクトに同じ進め方が通用するわけではありません。
成果物の種類、予算、メンバーのスキル、納期、リスクなどが異なるため、それぞれに合った管理手法が必要になります。
このような背景から、PMBOK第6版・第7版でもテーラリングの重要性が強調されており、現代のプロジェクト運営で欠かせない考え方となっています。
この記事では、その意味や役割、実践方法、実例、そしてPMBOKとのつながりまで、初心者の方でも理解できる内容で解説していきます。
この記事でわかること
- テーラリングの定義と本質的な考え方
- なぜテーラリングが必要なのか(柔軟性と最適化の視点)
- 主な対象(手法・成果物・体制・ライフサイクルなど)と調整例
- 実践ステップ・具体的な活用事例・注意点と成功のコツ
- PMBOK第6版・第7版におけるテーラリングの位置づけと実務への落とし込み方
この記事は、テーラリングという考え方を初めて知る方でも理解できるように整理しています。
特に次の3つを目的としています。
- テーラリングの基本をわかりやすくつかんでいただくこと
- 現場で迷いがちな「どの手法を、どの程度使うか」の判断を助けること
- PMBOKの考え方を、日々のプロジェクト運営につなげること
テーラリングをひと言で
テーラリングとは、プロジェクトの状況に合わせて進め方を調整することです。
たとえば、短い期間で行う社内イベントなら、資料作成や会議の量を最小限にしてスピードを重視します。
一方で、システム導入のように影響範囲が広い仕事では、意思決定のルールやリスク管理を丁寧に整えます。
重要なのは、作業を増やすことでも減らすことでもなく、「成功に必要な形へ最適化する」という点です。
どんな人に役立つか
本記事は、次のような方に向けてまとめています。
- プロジェクトに初めて関わる新任リーダーや担当者の方
- 標準手順はあるものの、現場になじまず困っている方
- PMBOKを学び始め、実務にどう落とし込むか悩んでいる方
- 品質とスピードのバランスを取りたい管理職の方
身近なイメージでつかむ
テーラリングは、日常の工夫と似ています。
- 料理: 家族の好みや食材に合わせて味付けを変えるように、プロジェクトでも状況に応じて手法を調整します
- 旅行: 日帰りと海外旅行では準備が変わるように、仕事でも規模やリスクに応じて計画の深さが変わります
本記事の使い方
読み進めるときは次のポイントを意識してください。
- まず全体像を理解する
- 自分の状況に近い例を探す
- 取り入れられそうなポイントを1〜2個だけ試す
- 効果があれば範囲を広げ、合わなければ見直す
- チームで合意し、認識のズレを防ぐ
テーラリングは「自由に変える」ことではなく、狙いと根拠を示し、合意を取りながら少しずつ改善していく考え方です。
本記事を通じて、あなたの現場で今日から試せるヒントを見つけていただければ幸いです。
テーラリングの定義と本質
前章では、プロジェクトごとに条件が異なり、成功させるには状況に合わせて進め方を整える必要があることを確認しました。本章では、その核となる「テーラリング」の定義と本質を、実務で活かしやすい形で整理します。
テーラリングとは何か
テーラリングとは、標準的な進め方を土台としながら、プロジェクトの規模・複雑さ・期間・予算・役割分担などに合わせて調整することを指します。
ポイントは、「すべてをやる」「すべてを省く」という極端な判断ではないという点です。必要な要素は残し、過剰な部分は軽くし、足りないところは補う——そのプロジェクトにとって最適な形に整えることがテーラリングの本質です。
具体的に何を調整するのか
プロジェクトの状況に応じて、以下のような項目を調整します。
- 会議の頻度と参加者: 毎日必要か、週1で十分か。全員参加か、関係者のみか。
- 成果物の内容と量: 詳細な報告書が要るのか、要点整理だけで足りるのか。
- 役割分担: 専任担当を置くのか、兼任で進めるのか。意思決定者は誰か。
- 進行の区切り方: 月次レビューか、短いサイクルで確認するのか。
- ツールとルール: 高度な管理ツールが必要か、共有スプレッドシートで足りるか。レビューの方法はどうするか。
小規模な社内改善なら「週1の短いミーティング+簡単な進捗メモ」で十分な場合があります。
一方で、取引先や関係部門が多い導入プロジェクトでは、「合意文書、変更手順、節目レビュー、責任者の明確化」といった仕組みが欠かせません。
テーラリングの本質を理解する5つの視点
- 目的から逆算する: 成功基準に結び付く活動だけを選びます。
- 文脈に合わせる: 規模・複雑さ・影響範囲・チームの経験に応じて重さを変えます。
- 合意と透明性を保つ: 進め方を明文化し、関係者と共有します。
- 試して調整する: 実施後の課題を踏まえて、過不足を見直します。
- 標準を尊重する: 標準から外れるときは理由を示し、代替策を明確にします。
よくある誤解
- ルールを無視することではありません: 必要なルールを守れる形に整えることが目的です。
- 軽い方法が良いわけではありません: 軽すぎれば手戻りが増え、重すぎると進めづらくなります。
- 属人的なやり方ではありません: 誰が見ても同じように動ける状態を目指します。
イメージを深める短い例
短期間の告知キャンペーンの場合
目標と日程が明確なため、「タスク一覧+毎朝5分の確認+終了後の簡単な振り返り」で十分です。重い資料や報告書は不要です。
部門横断のシステム導入の場合
関係者が多く影響範囲が広いので、変更管理の手順、節目ごとのレビュー、責任者の明確化、記録管理などを厚めに設計します。リスクの整理と優先順位付けも重要です。
どちらの例でも共通しているのは、「目的に役立つものは残し、そうでないものは削る」という姿勢です。その理由を短く残しておくと、途中で迷いにくく、周囲にも説明しやすくなります。
なぜテーラリングが必要なのか?

前章では、テーラリングとは「プロジェクトの状況に合わせて、やり方や成果物を選び直すこと」であり、価値を高めつつ無駄を減らす考え方と説明しました。
同じ方法をすべてのプロジェクトに当てはめるのではなく、目的・制約・リスク・関係者に応じて最適な組み合わせを作る姿勢が、本質であることも確認しました。
一律適用の限界
標準プロセスは、出発点としては有効です。
しかし、小規模な社内開発と、厳格な審査が必要な大型案件で同じ手順や会議数を維持すると、前者では手間が増え、後者では抜け漏れを招きます。
現場の実情に合わない手順は、スピードと品質の両方に影響します。
状況に合わせて手順の重さを調整することで、必要十分な管理だけを残せるようになります。
変化し続けるビジネス環境
要望の変化、技術の更新、関係者の交代など、前提は常に動いています。
固定化された進め方では、変化のスピードに対応できません。
そのため、節目ごとに「今の目的に合っているか」を見直し、作業の優先度や方法を素早く調整できる設計が必要です。
バランスを取るための柔軟な調整
テーラリングは、次の観点のバランスを整える際に役立ちます。
- コスト削減: 必要な成果物に絞り、テンプレートや自動化を活用します。
- 納期短縮: 決裁経路を短縮し、レビュー回数や範囲を目的に合わせて調整します。
- 品質向上: リスクが高い部分に重点的なレビューや試験を行います。
- 規制順守: 承認や記録のルールを強化し、監査に耐えられる形を保ちます。
- ステークホルダー満足: デモや共有頻度を増やし、期待のズレを早期に減らします。
具体例
- 短納期の販促サイト: 週次の重い報告をやめ、毎日の短い進捗共有と素早い決裁に切り替えます。
- 安全規制の厳しい装置改修: 設計変更点にチェックリストと二重承認を導入し、試験記録を厚めに残します。
- 新規事業の探索: 詳細計画よりもプロトタイプとユーザー検証を重視し、学びを計画に反映します。
テーラリングがもたらす効果
- 速さ: 不要な作業を減らし、価値を生む作業に時間を集中できます。
- 集中: リスクや重要な領域に、人と時間を投資できます。
- 透明性: 目的に沿った指標だけを追いかけられるため、状況が伝わりやすくなります。
- 学習速度: 小さく試して早く学ぶことで、次の手を素早く決められます。
- チームの納得感: 無駄が減り、動きやすい進め方になることで、モチベーションが高まります。
テーラリングをしない場合のリスク
- 形骸化: 書類や会議が目的から離れ、形だけが残ります。
- 遅延とコスト超過: 現場に合わない手順が作業を圧迫し、進みが悪くなります。
- 品質のばらつき: 重要な箇所への注力度が不足し、不具合や手戻りが増えます。
- 監査不備: 規制や契約の要求を満たす証跡が不足します。
- 関係者の不満: 期待と成果が噛み合わず、信頼を損ねます。
このように、テーラリングは効率や品質を高めるだけでなく、変化に対応し続けるための基盤でもあります。
テーラリングの主な対象
前章では、プロジェクトはそれぞれ条件が異なり、同じ進め方を当てはめるとムダや手戻りが増えることを確認しました。
そのうえで、目的に合う形へ調整することが成果と納期を両立させるうえで重要であると説明しました。
本章では「どこをどのように調整するのか」を具体的に整理します。
1. プロジェクトの進め方(手法)を選ぶ
まず、進め方そのものを選び直します。
- アジャイル: 小さく作り、試し、学びながら進めます。
例:スマホアプリの試作を2週間単位で利用者に試してもらい、改善する。 - ウォーターフォール: 工程を順に固め、後戻りを減らす進め方です。
例:法規や安全基準が重要な設備導入で、要件→設計→試験→移行の流れを踏む。 - ハイブリッド: 全体はウォーターフォールで進め、UI部分だけアジャイルで試すなど、組み合わせる方法です。
選ぶだけでなく、スプリント期間、レビュー頻度、要件の確定時期も調整します。
リスクが高い部分は早く試し、影響が大きい決定は十分に合意を取るなど、「何を早く確かめたいか」「どこが後戻りしづらいか」を軸に選びます。
2. プロセス・テンプレート・成果物の調整
やり方や書類の中身を、必要十分な形に整えます。
- テンプレートの調整: 小規模案件では計画書を5ページに絞り、リスク表を厚くする。
監査がある案件では、変更履歴や承認欄を増やします。 - 文書のまとめ方・分け方: 議事録と決定事項を1枚にまとめて検索しやすくする、詳細設計は別冊にして更新を楽にするなど。
- 成果物の粒度と形式の調整: 長文より図や表を活用する、1枚企画書で意思決定を促す、チェックリストで抜け漏れを防ぐなどの工夫です。
- 報告頻度の調整: 週報を隔週にする、立ち上がり期だけ毎日にするなど、情報の鮮度と負担を調整します。
書類は多いほど良いわけではありません。
「誰が使い、いつ意思決定に役立つのか」を基準に、不要なものを削り、必要な部分に厚みを持たせます。
3. チーム体制や関与の仕組みを整える
人の動き方と決め方を明確にします。
- 権限移譲: 現場での即決が必要なら、一定額までの購買や軽微な仕様変更をリーダーが判断できるようにし、重要な決定だけ上位承認に残します。
- 役割の明確化: 「誰が最終決定者か」「誰に相談すべきか」を一枚で見える化し、迷いを減らします。
- 関係者の関わり方: デイリー会議に全員を呼ばず、担当者だけにする。
経営層は節目だけ参加するなど、時間の使い方を最適にします。 - チームのルール: 連絡手段、返信の目安、レビュー締切などを前もって定め、迷わず動ける環境を作ります。
体制は固定ではなく、立ち上げ期は密に調整し、安定期は任せ、終盤では品質チェックを強めるなど、段階に応じて変えていきます。
4. プロジェクトの流れ(ライフサイクル)を調整する
始まりから終わりまでの進め方を見直します。
- フェーズの追加: 不確実な技術には、短い検証フェーズ(PoC)を設けて早く学ぶ。
大きな移行作業があるシステムなら、リハーサル日を追加します。 - フェーズの統合: 小規模案件では、要件と基本設計を一体で進め、承認を1回にまとめて速度を上げる。
- ゲート(合否判定)の調整: レビューの観点を絞る、重要リスクだけ必ず確認するなど、判定基準を明確にします。
- 成果物の最適化: 初期は全体像の合意を取り、詳細は後から詰める。終盤は引き継ぎ資料や運用手順に厚みを持たせるなど、強弱をつけます。
流れの調整は、期間・品質・コストのバランスを整える手段です。
リスクが偏る場合は、前半に確認ポイントを増やし、問題を早く発見します。
このように、テーラリングは「人・手法・書類・流れ」のそれぞれを、プロジェクトの目的や変化に合わせて整えていく取り組みといえます。
テーラリングの実践ステップ

前章では、テーラリングの対象として「プロセス(進め方)」「成果物」「役割分担」「ツールや会議体」を整理しました。
今回はその見極めを、実際の手順に落とし込み、どのように進めれば良いかを具体的に解説します。
ステップ1:プロジェクト特性を整理する
まずは状況を正しく捉えることが出発点です。次の観点を一枚にまとめると判断が速くなります。
- 期間・人数・予算などの規模
- 失敗時の影響や重要度
- 何をもって成功とするか
- チーム体制や決裁スピード
- ステークホルダーの関心事(コスト・品質・納期など)
- 法規やツールなどの制約
- 他部署や外部への依存
- 初期リスクの芽
簡単なテンプレート例:
- ゴール/期限:
- 成功の指標:
- 決められていない点:
- 変化しやすい点:
- 重大リスクと初期対策:
ステップ2:進め方(アジャイル/ウォーターフォール/併用)を選ぶ
プロジェクト特性に合わせて適切なアプローチを決めます。
- アジャイルが向く場合: 変化が多く、試して学ぶ必要があるとき
例:2週間ごとに動くものを見せて意見を収集する - ウォーターフォールが向く場合: 要件が安定し、承認が厳格なとき
例:設計→実装→テストを確実に進める - 併用(ハイブリッド): 前半は試作し、後半は設計を固めて品質を上げる
判断のポイントは、
変化の大きさ × 期限の厳しさ × 影響度 を比較すること。
迷ったら「小さく試して早く見せる部分」を最低ひとつ入れると効果的です。
ステップ3:組織標準とのすり合わせ
会社や部門の標準手順を踏まえて、必須と任意を整理します。
- 必須: 外せない審査や提出物(例:セキュリティレビュー)
- 任意: 目的に沿う形で変更してよいもの(例:週次報告フォーマット)
- 承認者: 何を誰が承認するかを明確にします
ポイントは「テーラリング方針メモ」に残すことです。
- 何を採用/簡略化/置き換えるか
- なぜそうするのか(目的との関係)
- 合意した関係者と日付
ステップ4:日々の運営に落とし込む
進め方の調整を、具体的な動きに変えていきます。
会議体の例:
- 毎朝10分の共有
- 週次30分の成果確認
- 月次レビューで予算・品質・リスク確認
作業の見える化:
- カンバンやタスクリスト
- 期日と担当者を明記
成果物の最小セット:
- 目的・スコープ一枚
- スケジュール表
- リスク一覧
- 変更記録
- 進捗サマリ
詳細な計画書が重い場合は、スライド3~5枚で要点を整理します。
役割分担の明確化:
依頼窓口、決裁者、技術、品質、顧客対応を一目でわかる形にします。
完了条件の定義例:
「主要ブラウザで動作し、5分で使える手順書がある」など、客観的な基準を設定します。
運用ルール例:
- ファイル名とフォルダ構成の統一
- チャットは用途(質問/決定/雑談)で区別
- 緊急時は電話→チャット→タスク登録の順で対応
ステップ5:継続的に見直し改善する
テーラリングは一度決めて終わりではありません。節目ごとに小さく見直します。
- タイミング: 毎週の振り返り、各フェーズ完了時
- きっかけ: 人員変更、規制変更、品質問題、顧客方針の変化など
- 注視する指標: 進捗率、手戻り件数、欠陥の再発率、問い合わせ数
変更はログに残し、
小さく試す → 効果があれば標準化 → 効果が弱ければ戻す
という流れで扱います。
小さな通し例(社内サイト刷新:3か月・4人)
- 特性整理: 期限固定、要件の一部が曖昧、セキュリティ審査が必須
- 進め方: 前半は画面と検索機能を短サイクルで試作、後半はデータ移行を計画通りに実施
- 標準とのすり合わせ: 週次報告は標準形式、設計書はスライド形式に置き換えて承認取得
- 運営: 朝会10分、週次30分レビュー、月次ゲート。成果物は目的・スケジュール・リスク一覧・変更ログ
- 見直し: 初回レビューで画像読み込みの遅さが判明→次の2週間は性能改善に集中→その後は予定通り復帰
このように、テーラリングは「考えて整え、動きながら調整する」プロセスです。
小さく試しながら、チームに合った形に育てていくことが成功の鍵です。
テーラリングの具体例

前章では、目的や制約を整理し、対象を選び、軽重を決め、合意し、運用と振り返りを行う流れを解説しました。
ここでは、その流れを具体的な場面に当てはめて説明します。
小規模プロジェクトの例(2〜5人・期間3か月)
前提: 小さな新機能追加やランディングページ制作など、関係者が少なく意思決定が速いケースです。
文書をシンプルに
- 1ページ計画書(目的・範囲・ざっくりしたスケジュール・責任者)
- 課題と進捗はカンバンで管理
- 議事録は「決めたこと・依頼事項・期限」だけ残す
会議を短時間で
- 毎朝15分の共有
- 週1回30分のレビュー
範囲管理を簡潔に
- TODOリストと「完了の定義」を共有
例:動作確認済み/レビュー済み/説明資料更新済み - リスクは上位3つを明示し、毎週見直す
- 承認は口頭+チャット記録で十分(誰がいつ承認したかだけ残す)
効果: 決定が早まり、作業時間を最大化できます。
注意点: 情報が散らばらないように、見る場所は1つに統一することが重要です。
大規模・高リスクプロジェクトの例(50人規模・1年・規制が厳しい領域)
前提: 金融や医療など、ミスが許されず関係者が多いケースです。
標準手順をしっかり適用
- 変更管理(理由・影響・承認者を必ず記録)
- 品質ゲートを設定し、区切りで判定する場を作る
追加レビューを実施
- アーキテクチャレビュー
- セキュリティレビューや第三者テスト
証跡と文書の充実
- 設計書、試験計画、決定記録を版管理
- 要件とテストを結びつけて追える状態(トレーサビリティ)を維持
数値に基づくリスク管理
- 発生確率と影響度で優先順位を決定
- エスカレーション経路を明確化
会議体を整備
- ゲートレビュー
- 月2回の経営報告
- 週次の問題管理会議
例: 決済システムの場合、性能テスト計画を前倒しし、監査用の測定方法と保存ルールを先に確立します。
重くなりがちなため、セキュリティ・データ整合・決済など影響が大きい領域を厚くし、低リスク部分は軽くします。
既存システムの再構築(リプレース)の例
前提: 業務は変えず、技術基盤だけを新しくする場合です。
上流の一部を省略
- 業務要件は現行を基本とし、差分のみ整理
- 画面や帳票は現行踏襲を明示
現行調査を強化
- 構成図、依存関係、既知不具合、夜間バッチの実行時間を見える化
性能の基準値(ベースライン)を先に測る
テストは回帰重視
- 「現行でできていることが新環境でも動くか」を優先
- 差分箇所は重点的に確認
典型リスクと対策
- 隠れた仕様・ブラックボックス化: プロトタイプで早期に確認
- 一気通貫の切替リスク: 段階移行や並行稼働で安全策を取る
例: 画面は現行の見た目を踏襲し、差分だけUIガイドラインで確認。夜間バッチは負荷テストを追加し、移行後のピーク時間を想定して検証します。
PMBOK準拠ツールを選んで組み合わせる例
前提: ツールは共通でも、使う機能を取捨選択して軽重を調整するケースです。
よく使う機能
課題管理、WBS・ガント、リスク登録簿、変更記録、品質チェックリスト、連絡計画、関係者管理など
小規模向けの使い方
- カンバン1枚で「今週の作業・ブロッカー・完了条件」を管理
- リスクは1列追加し、週1で見直し
- ダッシュボードは「期限切れなし・重要課題一覧」のみに絞る
大規模向けの使い方
- ガント+リソース計画で負荷を可視化
- 変更は承認フローを必須化
- リスクはマトリクス表示
- 品質はゲートごとのチェック項目をテンプレ化
- ベンダー別の進捗・品質レポートを自動集計
選定の手順
- 目的を一言で定める
- 必須機能を決める
- 便利機能は後回し
- テンプレートから不要項目を削除
迷ったときの判断軸
実務で使える判断基準として、以下が役立ちます。
- 変更頻度が高い → 手順は軽くし、レビュー頻度を上げる
- 規制や監査が強い → 証跡を厚くし、承認者を明確にする
- 関係者が多い → 可視化と決定記録を丁寧にする
- 外部依存が多い → インターフェース仕様と合意ログを最優先で残す
- 期間が長い → マイルストーンとゲートを設置し、方針を継続的に見直す
あらゆる規模で役立つ最低限のアイテム
- 1ページ計画(目的・範囲・体制・大まかな日程)
- 決定記録(誰が/いつ/何を決めたか)
- リスクTop3と対策
- 作業の見える化(カンバンや簡易ガント)
どの規模のプロジェクトでも、この最低限のセットを押さえることで、チームの認識合わせと進行がスムーズになります。
テーラリングの注意点・成功のコツ
前章では、状況に合わせて手順を削るだけでなく、レビューを増やしたり報告方法を変えたりする工夫を紹介しました。
規模やリスクに応じて、「足す・変える・やめる」を組み合わせる大切さを確認しました。
ここでは、実践で失敗を避けるためのポイントと成功のコツを整理します。
テーラリングは省略だけではありません
テーラリングは「削ること」だけではなく、必要に応じて追加したり置き換えたりする調整のことです。
- 品質を守るために、簡易テスト観点シートを追加する
- 進捗メールをやめ、共有ボードで見える化に置き換える
- リスクが高い工程だけ短い振り返りミーティングを新設する
目的を明確にし、効果が出そうな最小限の変更から試すことが効果的です。
チームと相談し、小さく試しながら進めます
トップダウンだけで決めると現場が動きづらくなるため、以下の流れで小さく試します。
- 目的を一文で言語化する(例:手戻りを減らす)
- 現状の困りごとを出し切る
- 解決策を2〜3案に絞り、短期間だけ試す
- 効果指標(遅延や不具合件数など)を設定する
- 結果を見て、続ける・直す・やめるを判断する
この流れにより、合意形成と検証を同時に進めることができます。
権限の委譲と最低限の統制を両立します
自由度が高すぎると方向性が乱れ、縛りすぎると動きにくくなるため、次の3つに整理します。
- 現場が決めてよいこと:日々のやり方、会議の頻度、ツール選定など
- 報告が必要なこと:コストや納期に影響する変更、優先順位の入れ替えなど
- 承認が必要なこと:契約、法令に関わる変更、大きな方針転換など
金額や日数、品質指標などの「しきい値」を設定し、越えた場合のみ報告・承認対象にすると判断がスムーズです。
基準は一枚にまとめ、全員が見られる場所に置きます。
組織の品質基準や規制は守ります
テーラリングが可能な部分と、変更できない部分を明確にします。
- 変えてはいけないもの:法令で求められる記録、個人情報の扱い、監査ログなど
- 工夫してよいもの:書式、テンプレート、会議体の名称、レビュー頻度など
「なぜ守る必要があるのか」を説明することで、現場も納得しやすくなります。
テーラリングの結果を記録し、次の学びにつなげます
記録は長文でなくて構いません。以下の5点を1枚に残します。
- ねらい(目的)
- 変更点(足した・変えた・やめたこと)
- 使用した資料(テンプレートやチェックリストなど)
- 効果(よかった点と副作用)
- 学び(次回の改善案)
記録はチームの共有スペースに置き、日付とキーワードを見出しに入れると再利用しやすくなります。
よくある失敗と回避策
| よくある失敗 | 回避策 |
|---|---|
| 目的が曖昧なまま省略する | 目的を一文で定義する |
| ルールが増えすぎて動けない | 必須事項を最小限にし、残りをガイド化する |
| 現場の声を聞かずに決める | 実務者を必ず検討メンバーに含める |
| 一度決めたら変えない | 見直し日を決め、続ける・直す・やめるを宣言 |
| 記録を残さない | 5分で書ける「ワンペーパー」を使う |
実践チェックリスト(そのまま使えます)
- 目的は一文で言えますか?
- 変えてよいこと/変えられないことの線引きはできていますか?
- 誰が決め、誰が報告・承認するか明確ですか?
- 効果を測る指標は設定されていますか?
- どこに共有・記録しますか?
- 次の見直し日は決まっていますか?
このチェックリストを意識することで、テーラリングがより実務で活きるものになり、チームが迷わず動ける体制を整えられます。
PMBOKにおけるテーラリングの考え方

前章では、テーラリングを安全に進めるためのポイントを整理しました。
目的を明確にし、関係者と合意し、やり過ぎや省略しすぎを避け、小さく試して学びながら調整する姿勢が大切であることを確認しました。
PMBOKでの位置づけ(第6版と第7版の違い)
PMBOKはテーラリングを重要な前提として扱っていますが、その強調の仕方に違いがあります。
- 第6版
各知識エリアの冒頭で「プロジェクトに合わせて調整する観点」を示し、
必要なプロセスを採用し、不要なら省き、足りないものは追加する方針が明確です。 - 第7版
専用章を設け、テーラリングを「前提のやり方」として強調しています。
手順を覚えるよりも、「価値を最大化するために状況に合う方法を選ぶ」ことを中心にしています。
つまりPMBOKは一貫して、**「一律の正解はなく、状況に応じて最適化することが標準である」**と示しています。
PMBOKが示す基本の流れ
表現や細かい構成は版ごとに異なりますが、進め方の流れはおおむね共通です。
- 背景を理解する
プロダクトの性質、規模、納期、法規制、社内ルール、チーム成熟度などを整理します。 - 進め方を選ぶ
予測型(計画を固める)、適応型(こまめに見直す)、またはその組み合わせを判断します。 - 必要な実務を調整する
例:計画書は1ページで足りるか、レビュー頻度は週1で十分か、品質チェックはどこで入れるかなどを決めます。 - 根拠を記録する
採用・削減・追加の理由を短く残します。 - 節目で見直す
「今のやり方が価値を最大にしているか?」を確認し、必要なら修正します。
第7版の特徴:原則と価値重視の視点
第7版では、「方法」よりも「原則」を重視しています。
現場では次の問いかけが役立ちます。
- 顧客やユーザーにとって、本当に価値の高い部分はどこか
- その価値を早く、安全に届けるために、今のやり方は適切か
- 説明責任を果たせる最小限の計画・記録・レビューになっているか
この視点を持つことで、書類作成や形式が目的化しにくくなり、
本当に時間をかけるべき領域に集中できます。
具体例:PMBOKに沿った軽量テーラリング
● 小規模の社内ツール開発の場合
- 計画書は1〜2ページの要点メモにまとめる
- 短いスプリントで機能ごとに共有し、週次レビューで方向性を合わせる
- リスクは簡易リストで管理し、変更理由はチケットで記録
● 大規模の外部向けシステム開発の場合
- 要件と品質基準を丁寧に固める
- レビューやテスト計画を段階ごとに設け、法規制や監査の証跡を残す
- 試験的な部分は小さく分けて早めに確認する
どちらも「価値を早く確実に届ける」という軸で、必要な作業を足し引きしています。
判断に迷ったときのチェック視点
- 価値:その作業は顧客や事業にどんな価値をもたらすか
- リスク:やらなければ何が起こるか
- コスト:手間は価値に見合っているか
- 透明性:説明できる根拠を残しているか
- 適応性:状況が変わっても調整できる設計か
これを意識することで判断がしやすくなります。
実務での落とし込み方
完璧を一度で目指すのではなく、次のサイクルで小さく試す方が定着しやすいです。
- 次のフェーズから1〜2項目だけ軽くする/強める
- 変更理由と結果を簡単に記録する
- 節目のレビューで効果を確認し、次の改善を決める
PMBOKは「正しく選び、調整し続ける」姿勢を実務で活かせるよう後押ししています。
まとめ:テーラリングは「最適なやり方を選ぶ力」
テーラリングは、単に手順を減らす作業ではなく、価値を最大化するために方法を選び直すプロセスです。
PMBOKが強調するように、「一律の正解はない」という前提のもと、状況に合わせて賢く調整する姿勢が重要です。
本記事でお伝えしたポイントを振り返ると、次の通りです。
- 背景や制約を理解し、目的を明確にする
- 進め方を選び、必要な実務を足し引きする
- 根拠を記録し、関係者と合意する
- 小さく試しながら、定期的に見直す
特に第7版が示す 「価値と原則に基づいて選ぶ」 という視点は、現場で迷ったときの判断軸になります。
書類を増やすことが目的にならないように、どの作業が成果や品質に寄与するかを考えることが大切です。
どんな規模のプロジェクトでも、次の一歩は小さくて構いません。
- 1つの手順を軽くする
- 1つのレビューを増やす
- 1つの振り返りを記録する
この積み重ねが、あなたのチームに合ったプロジェクトの進め方を育てていきます。
ぜひ本記事を、あなたの現場に合う「ちいさな改善」を見つけるヒントとして活用してください。