はじめに
「これってハラスメント…?」と迷う前に知っておきたいこと
職場で働いていると、「これってハラスメントに当たるのかな?」「どこまでが指導で、どこからアウトなのか?」と悩む場面って意外と多いですよね。
しかも、ハラスメント対策の話になると専門用語がずらっと並んで、一気に難しく感じてしまいがちです。
そんな “つまずきやすいポイント” をできるだけなくして、まずは全体をすんなり理解してもらえるようにまとめたのが、本記事です。
この記事でわかること
ここでは、ハラスメント防止の基本をはじめとして、
- 労働施策総合推進法
- 男女雇用機会均等法
- 育児・介護休業法
- 2025年から義務化されるカスタマーハラスメント対策
といった重要ポイントを、ていねいに、しかし堅苦しくならないように紹介していきます。
事業主や管理職、人事担当者はもちろん、「働く側」として知っておきたい方にも役立つ内容にしています。
読み進める前に
「先に全体像をつかんでおきたい」という方に向けて、専門用語は必要最低限に抑えています。
実務のシーンをイメージしながら読めるように、できるだけ具体例を交えて説明するので、
- まずは軽く理解したい
- 法律の細かい文言を読む前に全体像を知りたい
- 実務に落とし込むヒントが欲しい
そんな方にぴったりです。
注意点(大事なのでひとこと)
本記事はあくまで概要をわかりやすく整理したガイドです。
職場の状況やトラブルには個別性が強いケースもあるため、不安がある場合は専門家や窓口へ相談することをおすすめします。
ハラスメント防止法と厚生労働省の役割
概要
職場のハラスメント防止は、どの企業でも欠かせない“事業主の重要な責務”です。
関係する主な法律には、
- 労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)
- 男女雇用機会均等法
- 育児・介護休業法
などがあり、いずれも厚生労働省が所管しています。
これらの法律は、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなど、職場で起きやすいさまざまなハラスメントを対象に、事業主が講じるべき雇用管理上の措置を定めています。
事業主に求められる具体的措置
ハラスメントを防ぐために、企業が取るべき対策は明確です。
代表的な取り組みを、できるだけ具体例つきでまとめました。
方針の明文化と周知
職場で許容しない行為を明確にし、従業員にしっかり伝えることが第一歩です。
例:就業規則や社内ルールに「ハラスメント禁止」を明記する。
相談窓口の設置と迅速な対応
相談があったら、事実確認と必要な措置を迅速に行うことが求められます。
例:第三者を交えた調査、一時的な配置転換など。
再発防止のための措置
環境づくりは継続が大事です。
例:年1回のハラスメント研修、匿名アンケートで職場環境を定期チェック。
どれも「形だけ整える」のではなく、実際の運用がポイントになります。
厚生労働省の役割
厚生労働省は、法律の運用や指針の作成を担い、事業者が対策を進めやすいようさまざまなサポートを行っています。
- 事業者向けガイドラインの作成
- モデル就業規則や様式の提供
- 地方労働局での相談対応や助言
- 事例集の公開
- 必要に応じた調査・是正指導
企業が円滑にハラスメント対策を進められるよう、現場を支える役割を果たしています。
現場での心がけ
実務の場では、次のような姿勢がとても大切です。
- 相談内容や対応の記録を残す
- 相談者の秘密を厳守する
- 関係者に公平に対応する
そして、対応して終わりではなく、職場の状況を見ながら継続的に評価・改善していくことがハラスメント防止の鍵になります。
2025年の法改正とカスタマーハラスメント対策
改正の概要
2025年(令和7年)の法改正により、労働施策総合推進法にカスタマーハラスメント防止が事業主の義務として明確に追加されました。
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先が社会通念上許容される範囲を超えて従業員に不当な言動を行い、その結果、就業環境を害してしまう行為のことです。
改正法は 2025年6月11日に公布され、公布から1年半以内に施行予定。
現場に与える影響も大きいため、事前の準備が欠かせません。
カスタマーハラスメントの具体例
実際にどんな行為が該当するのか、具体例があると判断しやすくなります。
- 店員や担当者への暴言・怒鳴りつけ
- 不当なクレームを繰り返す、執拗な要求で業務を妨げる
- 身体的接触やセクシャルな発言
- SNS等での不当な中傷・個人情報の拡散
一つひとつは見慣れた“クレーム”に見えることもありますが、度を超えるとハラスメントになり得るため、企業として線引きを明確にしておく必要があります。
事業主に求められる対応
今回の改正に伴い、厚生労働省は指針を示し、次のような実効性ある対策を求めています。
- 方針の明確化(何がカスハラに該当するのか明示)
- 相談窓口の設置
- 記録の整備(発生状況や対応履歴をきちんと残す)
- 教育・研修の実施
- 必要に応じた配置転換や業務制限の検討
“とりあえず規程を作る” だけでは不十分で、実務として回る状態にしておくことが重要です。
施行までにできる準備
施行前にやっておきたい準備は、次の4つです。
- 自社のリスクを把握する(現状分析)
- 社内規程・対応フローの整備
- 従業員向け研修や説明の実施
- 発生時の記録方法や支援体制の整備
特に問い合わせの多い業種ほど、早めの準備が後々のトラブル回避につながります。
実務上の注意点
カスタマーハラスメント対策で大切なのは、「顧客対応」と「従業員保護」の両立です。
そのためには
- 行為の程度
- 頻度
- 周囲への影響
などを客観的に評価する仕組みが欠かせません。
判断に迷うケースも多いため、現場と管理側で共通認識を持てる状態にしておくことが理想です。
事業主に求められる具体的な防止措置
方針の明確化と周知・啓発
ハラスメント防止の第一歩は、会社として「何を認め、何を認めないのか」をはっきり示すことです。
事業主は、ハラスメントを許さない方針を文書にまとめ、従業員全員にしっかり周知する必要があります。
とくに接客業などでは、
- 録音の可否
- 応対時間の上限
- 同席者を配置するかどうか
といった具体的ルールも決めておくと、現場が迷わず動けます。
これらは就業規則や社内ハンドブックへ明記しておくのが一般的です。
さらに、定期的な eラーニングやロールプレイを実施すると、
“現場で実際にどう対応するか” を共通認識として身につけることができます。
相談体制の整備・周知
相談窓口があっても、従業員が「どこに相談したらいいかわからない」状態では機能しません。
そのため、事業主は相談窓口の担当者・連絡方法を明確にし、利用しやすい形で周知することが求められます。
相談経路は複数あるのが理想です。
- 対面
- 電話
- メール
- 匿名フォーム
など、状況に合わせて選べるようにします。
さらに外部窓口への相談案内も掲示しておくと安心です。
相談担当者には研修を行い、受けた相談の記録や機密管理を徹底させることも重要です。
発生後の迅速かつ適切な対応
相談が寄せられたら、まずは迅速な事実確認が欠かせません。
確認のうえで必要な措置を決め、被害者と加害者双方に適切な対応をとります。
- 被害者への配慮
例:勤務調整、面接への同席、心理的支援 - 加害者への指導・処分
- 対応の経緯と理由を文書で記録
- 再発防止策の実施
特に「なぜその判断に至ったのか」を文書に残しておくと、後々のトラブル防止にもつながります。
不利益取扱いの禁止と責務の明確化
ハラスメントの相談や申告を理由に、従業員を不利益に扱うことは法律で禁止されています。
万が一、社内で不当な扱いが起きた場合は、速やかに是正し、全員へ周知しておく必要があります。
ハラスメント防止は企業だけの問題ではなく、
- 国は指針を示す
- 事業主は具体的な措置を講じる
- 労働者は問題を報告し、協力する
という構造で成り立っています。
“誰がどんな責務を負っているのか” を整理しておくと、現場の混乱を防ぎやすくなります。
企業・事業主が注意すべきポイントと厚生労働省の支援
厚生労働省の支援
ハラスメント対策は企業だけで抱え込む必要はありません。
厚生労働省は、企業が取り組みやすいようにさまざまな支援ツールを提供しています。
代表的なのが、「あかるい職場応援団」という情報サイト。
ガイドライン、よくある事例、相談窓口、パンフレットなどがひとまとめになっており、初めて対策を進める事業所でも使いやすい内容になっています。
また、企業向けの雛形(規程例)や対応フローも公開されているため、社内ルールを整備する際は非常に参考になります。
事業主が優先すべき点
ハラスメント対策を進めるとき、特に意識したいのが次のポイントです。
- 対象の確認
中小企業も例外ではなく、すべての事業者が対象です。まず自社が負う義務の範囲を整理しましょう。 - 規程と就業規則の見直し
ハラスメント対応の規定は必ず文書化し、具体的な手順まで落とし込みます。 - 相談体制の整備
窓口担当者の設置、匿名相談の仕組み、外部相談先の周知など、従業員が相談しやすい環境づくりが必須です。 - 記録と再発防止
相談内容と対応履歴を残し、原因の分析→改善策へつなげる流れを定着させます。
これらを整えておくことで、トラブルの早期発見・早期対応が可能になります。
実務的な工夫(例)
現場で実際に使える工夫としては、次のようなものがあります。
- 対応フローチャートや応対スクリプトの作成
- 顧客対応の線引きを明確化し、悪質クレームへの対処方針を共有
- 定期研修・ロールプレイで、現場の対応力を底上げ
“ルールを決めるだけ” では足りず、実務として使える形にすることがポイントです。
外部相談・連携先の活用
社内だけで解決できない場合は、遠慮なく外部機関を活用してください。
- 都道府県労働局
- ハローワーク
- 専門の相談窓口
- 労働組合
- 弁護士や社労士
必要に応じて外部の力を借りることで、より適切で公平な対応ができるようになります。
今後の動向とまとめ
今後の動向
これからのハラスメント対策は、パワハラ・セクハラだけでなく、**カスタマーハラスメントを含めた“総合的な対策”**が求められる流れにあります。
裁判例や行政指導の蓄積によって、事業主が負うべき責任の範囲もより具体的になり、対策の実効性が一層重視されていくと考えられます。
そのため
- 窓口対応のマニュアル整備
- 一元化された相談窓口の設置
- 記録管理のルール化
といった仕組み作りが、今後“当たり前”になる可能性があります。
事業主が取り組む具体策
これからの実務では、次のような取り組みが特に重要になります。
予防策の徹底
顧客対応ルールやエスカレーション手順を明文化し、社内で統一します。
例:暴言を受けた際の対応フロー、記録方法のルール化。
被害者支援
被害を受けた従業員に休養や相談窓口を提供し、産業医や外部カウンセリングの活用も検討します。
記録・証拠の保存
通話録音、対応記録、防犯カメラ映像などを適切に保存し、必要な場面で活用できるようにします。
情報収集と外部連携
法令はアップデートされ続けるため、最新情報の確認は欠かせません。
- 厚生労働省の指針
- 自治体の支援策
- 労働組合・業界団体の動き
- 専門家(弁護士・社労士等)の助言
こうした外部リソースを活用すると、実務の精度が大きく上がります。
従業員への周知と教育
制度や体制が整っていても、従業員が理解していなければ機能しません。
そのため
定期研修
模擬対応訓練(ロールプレイ)
相談ルートのわかりやすい共有
などを行い、誰でも迷わず相談・報告できる環境を整えることが重要です。
最終的なポイント
組織として安心して働ける環境を維持するためにも、最新情報のチェックと仕組みのアップデートを続けていきましょう。