目次
はじめに
目的
本資料は、コーチングで広く使われる代表的なモデルを分かりやすく紹介します。GROW、CLEAR、OSKAR、学習の4段階、行動変容のサイクルに触れ、現場ですぐ使えるポイントを示します。
対象読者
マネジャー、人材育成担当、教育者、自己成長を目指す個人など、部下育成や対話を通した支援に関わる方に向けています。
本書の構成と使い方
各章でモデルの目的、ステップ、特徴、実際の使いどころを説明します。会議や1on1での具体例を交え、短時間でも実践できる方法を示します。例えば、目標設定の場面ならGROW、関係づくりや信頼構築が課題ならCLEARを参照してください。
活用のポイント
- 目的を明確にしてモデルを選ぶ。
- 一度に全部を覚えようとせず、場面に応じて使い分ける。例:新しい課題ではOSKARで小さな成功を積む。
- 聞き手の姿勢(傾聴・承認)を大切にする。具体的な行動に落とすことを忘れない。
次章から各モデルを順に詳しく見ていきます。
GROWモデル:コーチングの基本フレームワーク
概要
GROWモデルは、目標達成を支援するシンプルなフレームワークです。Goal(目標)→ Reality/Resource(現状・資源)→ Options(選択肢)→ Will/Way forward(意思・行動計画)の4段階で進めます。ビジネスの1on1や個人の目標設定に向き、短時間で明確な行動につなげやすい点が特徴です。
各ステップの説明
-
Goal(目標)
何を達成したいかを具体的にします。期限や達成の目安を入れると実行しやすくなります。例:「3か月で月間売上を10%増やす」 -
Reality/Resource(現状・資源)
今の状況と使える資源を整理します。障害や強みを事実ベースで確認します。例:「現在の売上はA、顧客はB層が多い、営業担当が2名」 -
Options(選択肢)
複数のアイデアを出します。小さな手を打つ案も含め幅広く検討します。例:「新規顧客獲得、既存顧客へのアップセル、価格見直し」 -
Will/Way forward(意思・行動計画)
実行する具体的な行動と期限、担当を決めます。実行可能な小さなステップに分けると継続しやすいです。
実践のポイント
- 質問は開かれた形で行い、相手の気づきを促します。
- 目標は具体的で測れる形にします。
- 行動に責任と期限を設定します。
よくある悩みと対処
- 目標が曖昧:『何ができたら成功か』を一緒に言語化します。
- 選択肢が出ない:小さな案から書き出し、優先順位を付けます。
簡単な事例
部下との1on1で「3か月で顧客満足度を上げたい」との目標が出たら、現状分析→改善案の洗い出し→週ごとの実行計画を一緒に作ります。この流れで行動に落とし込みます。
CLEARモデル:初期段階を重視したアプローチ
概要
CLEARモデルはContract、Listen、Explore、Action、Reviewの5段階で進めます。GROWよりも初期の合意形成と聴く段階を重視し、安心して話せる場をつくるのが特徴です。
Contract(契約)
目的、期間、方法、守秘の範囲、責任分担を明確にします。例えば「3か月・全6回・各45分・プレゼン改善」がわかりやすい合意です。期待値をすり合わせることで後の誤解を防げます。
Listen(傾聴)
コーチは判断を保留し、相手の話を深く聞きます。要約や反映で理解を示し、クライアントが自分で気づくスペースを作ります。具体例:問題点を10分自由に話してもらい、要点を戻す。
Explore(探る)
選択肢、価値観、制約を掘り下げます。質問や短いワークで原因や可能性を見つけます。例:過去の成功体験を洗い出し、再現できる要素を探す。
Action(行動)
小さな実行可能なステップを決め、期限と測定方法を設定します。例:週に1回5分の練習を録音して次回に聴く。
Review(振り返り)
取り組みの成果と学びを確認し、次の契約へつなげます。何が有効だったか、何を変えるかを具体的に話し合います。
実践のコツ
- 契約は文書化して共有する
- 傾聴に時間を割くことで信頼が深まる
- 行動は小さく測定できる形にする
- 定期的に契約を見直すことで柔軟に対応できる
OSKARモデル:ソリューションフォーカスドアプローチ
はじめに
OSKARモデルは、クライアントの強みと成功体験に基づき未来を描く方法です。問題の原因を深掘りするより、できていることを伸ばして行動につなげます。
O — Outcome(目標)
まず望ましい結果を明確にします。具体的で小さな目標にします。例:「1か月で週に2回、各30分の学習を続ける」などです。
S — Scaling(スケーリング)
0〜10の尺度で現状と目標の差を測ります。現在3で目標7なら、次は4に近づける小さな一歩を考えます。進捗が見えると動きやすくなります。
K — Know-how(知識・資源)
過去にうまくいった経験や利用できる資源を探します。「いつ、どんな状況でうまくいったか」を具体的に聞き出し、それを再現する方法を見つけます。
A — Affirm and Action(承認と行動)
できていることを認めて自信を高めます。そして実行可能な行動を決めます。小さな約束(15分だけ取り組む等)から始めると継続しやすいです。
R — Review(振り返り)
定期的に振り返り、何が効果的だったかを確認します。成功体験を積み重ねて次の目標設定に活かします。短く頻繁なレビューがおすすめです。
学習の4段階モデル:経験からの学習プロセス
はじめに
学習の4段階モデルは、体験から学びを深めるシンプルな流れを示します。順に経験→内省→概念化→実験を繰り返すことで、理解と行動が変わります。
1. 具体的経験(Concrete Experience)
実際にやってみる段階です。例:新しいプレゼンを行う、チームで試作を作る。生の感覚や出来事を重視します。
2. 内省的観察(Reflective Observation)
起きたことを振り返る段階です。何がうまくいったか、どこでつまずいたかを丁寧に見ると学びが生まれます。日記やフィードバックが有効です。
3. 抽象的概念化(Abstract Conceptualization)
振り返りから一般化や法則を導く段階です。例:準備不足だと緊張する、図を使うと伝わりやすい、といった気づきを理論にします。
4. 活動的実験(Active Experimentation)
得たアイデアを次の場で試す段階です。小さな変更を加えて効果を確かめ、再び経験へ戻ります。
コーチングでの使い方
コーチは各段階に応じた問いを投げます。経験直後は感情や事実を聞き、振り返りでは具体例を引き出し、概念化ではパターンを整理し、実験計画を一緒に立てます。
実践のコツと注意点
- 小さな実験を繰り返すことで負担を減らせます。
- 振り返りは具体的事実に基づくと効果的です。
- 自己批判だけで終わらせないでください。学びに変える視点が大切です。しかし、過度に理論化すると行動が止まることがあります。
行動変容のサイクル:持続可能な変化のための5段階
概要
行動変容のサイクルは、無関心から維持までの5段階で変化が進むことを示します。コーチは各段階で適切な支援を提供し、無理なく持続できる変化を促します。
1. 無関心(Pre-contemplation)
特徴:変化の必要性を感じていない状態。
コーチの対応:批判せず情報提供や気づきを促す質問をする。
例:健康診断で指摘を受けても生活習慣を変えるつもりがない人に、短い事実や身近な例を提示する。
2. 熟考(Contemplation)
特徴:変化を考え始めるが迷っている。
コーチの対応:利点と不安を整理する手助けをする。小さな試みの価値を伝える。
例:運動を始めたいが時間がないと感じている人に、週10分からの提案をする。
3. 準備(Preparation)
特徴:具体的な計画を立てる段階。
コーチの対応:実行可能な目標設定と障害対策を一緒に作る。
例:毎朝10分の散歩をカレンダーに入れる。
4. 行動(Action)
特徴:実際に行動している状態。
コーチの対応:進捗を確認し、成功を具体的に承認する。障害に対して代替案を用意する。
例:週に3回実行できたら小さなご褒美を設定する。
5. 維持(Maintenance)
特徴:新しい行動が習慣化しつつある段階。
コーチの対応:再発リスクを話し合い、長期の支援計画を作る。
例:忙しい時期に代替行動を決めておく(短時間でも継続)。
実践のポイント
- 変化は小さな一歩から始まる。具体的で測れる目標を作る。
- 失敗を学びと捉え、次の行動につなげる。
- 支援は段階に合わせて変える。初期は共感、行動期は具体的支援を重視する。