コミュニケーションスキル

フィードバック制御と伝達関数の基礎応用をわかりやすく解説

はじめに

目的と対象読者

本記事は、フィードバック制御と伝達関数の基本から応用までを丁寧に解説することを目的としています。制御理論をこれから学ぶ学生、実務で基礎を復習したい技術者、制御系の設計に関心がある方に向けています。

本記事で学べること

伝達関数の意味、フィードバック制御の基本構成、伝達関数を用いた制御系の解析・設計、PID制御との関係、実践的な設計・解析の流れを順に説明します。具体例を交え、直感的に理解できるように配慮します。

読み方のポイント

第2章で伝達関数の考え方をつかみ、第3章でフィードバックの仕組みを確認してください。その後に解析・設計手法を学ぶと理解が進みます。実践的な章では手を動かして試すことをおすすめします。

前提知識と心構え

微分の基礎やラプラス変換の基礎知識があると速く理解できますが、必要な箇所は本編で丁寧に補足します。焦らず一章ずつ読み進めてください。

伝達関数とは何か

定義

伝達関数は、線形時不変(時間によって変わらない)システムの入力と出力の関係をラプラス変換で表した数式です。入力U(s)に対する出力Y(s)の比として

G(s)=Y(s)/U(s)

と定義します。ここでsはラプラス変換の変数で、時間領域の微分方程式を代数的に扱えるようにします。

なぜ使うのか

微分方程式をそのまま解く代わりに、伝達関数で扱うと計算が単純になります。システム全体を一つの関数で表せるため、設計や解析、周波数に対する応答の確認がしやすくなります。黒箱の入出力関係を見るイメージです。

具体例

・簡単なRC回路:入力電圧に対するコンデンサの電圧はG(s)=1/(RCs+1)で表せます。高い周波数では出力が小さくなり、低い周波数ではほぼ入力に追従します。
・積分動作:G(s)=1/sは入力を時間積分する動作を表します。累積するような応答に対応します。

極と零点の直感

伝達関数は分母(極)と分子(零点)に分かれます。極は系が大きく応答する可能性のある周波数を示し、安定性にも関わります。零点は特定の周波数で出力を抑える働きをします。

注意点

伝達関数は線形・時不変な系に限ります。非線形や時間変動する系ではそのまま使えないことに注意してください。

フィードバック制御の基本構成

概要

フィードバック制御は、出力を目標値と比べ、その差に応じて操作を自動で調整する仕組みです。閉ループ制御とも呼び、外部からの乱れや対象の性質が変わっても目標に近づけやすい特徴があります。

ブロック図の主要要素

  • 目標値 r:達成したい値(例:部屋の温度22℃)。
  • 出力 y:実際に測る値(温度センサーの値)。
  • 偏差 e = r - y:目標と出力の差。
  • コントローラ:偏差に基づき操作量を決める装置(例:サーモスタット)。
  • プラント:制御対象そのもの(例:暖房機)。
  • センサ・アクチュエータ:測定と作用を担当します。

動作の流れ(簡単な例)

  1. センサが現在温度 y を測定します。
  2. コントローラが r と y の差 e を計算し、操作信号 u を生成します。
  3. アクチュエータが暖房の出力を変え、プラントが応答します。
  4. 出力は再びセンサで測られ、ループが続きます。

具体例

  • 室温制御:サーモスタットが室温を保つ。
  • 車の巡航制御:速度を一定に保つためにエンジン出力を調整する。

フィードバックの利点と注意点

フィードバックは外乱に対して強く、目標追従性を保ちます。一方で、設計が悪いと振動や遅れが生じるため、コントローラの調整が重要です。

フィードバック制御系における伝達関数の使い方

伝達関数で表す入出力関係

制御対象をP(s)、コントローラをC(s)とすると、単位フィードバック系の入出力伝達関数は

G_y(s)=\frac{P(s)C(s)}{1+P(s)C(s)}

で表せます。この式は、コントローラの形やゲインが変われば系全体の応答が変わることを直感的に示します。例えば、車のクルーズコントロールでPが車の動き、Cが速度指令に応じる制御器だとすると、Cを強くすると目標速度への応答が速くなりますが、不安定になりやすくなります。

設計で注目する点

  • 応答速度:分子のP(s)C(s)が大きいと速くなりやすいです。ゲインを上げると速くなりますが振動や過渡応答の悪化に注意します。
  • 定常偏差:積分動作(制御器に1/sが入る)を加えると定常偏差を小さくできます。温度制御で目標にぴったり合わせたい場合に有効です。

外乱とノイズの評価

伝達関数を使うと、外乱が出力にどう影響するか(外乱に対する伝達関数)や、センサノイズがどう伝わるか(フィードバック経路を通る伝達関数)を計算できます。これにより、どの周波数帯で抑えるべきかが分かります。

実務での使い方

伝達関数で設計候補をモデル化し、シミュレーションで応答や定常誤差、外乱応答を確かめます。実機では微調整を行い、安全性と性能のバランスを取るのが一般的です。

フィードバック制御と伝達関数の設計・解析の利点

要点の簡潔な表現

伝達関数はシステムの入出力関係を簡潔に書けます。微分方程式を直接扱わず、掛け算や割り算でつなげられるので、直感的に理解しやすくなります。たとえばモーターやサーボの応答を“箱”として扱い、組み合わせて考えられます。

安定性の判断がしやすい

伝達関数を使うと、応答が収束するか発散するかを判断しやすくなります。設計中に極(応答を決める要素)の位置を確認して、安定化のために調整できます。これにより試行錯誤が減り、安全に設計できます。

性能特徴の把握が容易

零点や極の分布から立ち上がりの速さや振動しやすさ、周波数ごとの応答特性を予測できます。周波数に応じた挙動を調べれば、ノイズや外乱に対する強さも評価できます。

設計と調整が効率的

PIDなどのゲイン調整や補償器の設計を伝達関数上で行うと、効果を定量的に見ながら進められます。試作品を何度も作らずに理論的に候補を絞れます。

複雑系の分割・統合が簡単

ブロック線図で部分系ごとに設計し、全体の伝達関数を組み合わせて解析できます。これにより担当分野ごとに作業を分け、最終的に全体性能を確認できます。

実務上の利点

設計の反復が速く、チーム内で図や数式を共有しやすい点が役立ちます。機器の交換や改良を行う際も、伝達関数を更新すれば全体への影響を素早く見積もれます。

これらの利点により、伝達関数はフィードバック制御の設計・解析で中心的な役割を果たします。

PID制御と伝達関数

説明

PID制御はフィードバック制御の代表例で、制御器の伝達関数は
C(s)=K_p + K_i/s + K_d s
と表します。ここでK_pは比例、K_iは積分、K_dは微分の利得です。ラプラス変換の式にすると解析しやすく、周波数や安定性の視点で設計に役立ちます。

各成分の役割(やさしく)

  • 比例(K_p): 出力のずれに比例して応答を強めます。応答が速くなりますが、ゲインを上げすぎると振動や過渡的な大きな振れが出ます。
  • 積分(K_i): 長時間続く小さなずれを打ち消し、定常偏差をゼロに近づけます。ただし遅れを生みやすく、振動を誘発することがあります。
  • 微分(K_d): ずれの変化の速さに反応して振幅を抑えます。過渡応答を滑らかにしますが、測定ノイズに敏感です。

チューニングの流れ(実用的な手順)

  1. 微分を0にして比例を徐々に上げ、応答が速くなる限界を探します。
  2. 積分を加えて定常偏差を補正します。
  3. 微分で過渡の振れを抑え、必要なら比例を微調整します。
    この順で調整すると作業が分かりやすくなります。

実装上の注意

微分はノイズを増幅するため、実装では小さなフィルタを入れて安定化します。また、積分の値は飽和や風袋効果に注意して制限を設けます。伝達関数の形を使うと、設計目標と周波数特性を結びつけて調整できます。

実践的な設計・解析の流れ

この章では、実際の設計と解析を段階的に進める流れを丁寧に説明します。例として一次遅れや質量・ダンパ系を想定すると分かりやすくなります。

1. システムのモデル化

対象プロセスの運動方程式やエネルギーバランスから微分方程式を作ります。簡単な例は一次遅れ: τ dy/dt + y = K u。ラプラス変換で伝達関数 G(s)=K/(τs+1) を得ます。実機では識別実験でパラメータを推定します。

2. コントローラ設計

目標(追従性、安定度、応答速度)を決めて、P・PI・PIDや位相補償などを選びます。例えば定常偏差を小さくしたいならPI、速い立ち上がりが必要ならPDやリード補償を検討します。

3. クローズドループ伝達関数の導出

ブロック線図から閉ループ伝達関数を整理します。典型的には G_cl(s)=G_c(s)G_p(s)/(1+G_c(s)G_p(s))。極配置が安定性と応答を決めるので確認します。

4. 応答解析・性能評価

ステップ応答で立ち上がり時間、オーバーシュート、定常偏差を確認します。周波数応答(ボード線図)や根軌跡で安定度や余裕を評価します。

5. パラメータ調整と検証

まずシミュレーションで調整し、小さな実験で実機検証します。アクチュエータ飽和、センサノイズ、モデル誤差に注意して、必要ならアンチワインドアップやロバスト性を高める工夫を加えます。

実務上の注意点

  • モデルと実機は必ず差が出ます。識別と検証を繰り返してください。
  • ロバスト性(変動に対する耐性)を優先目標にすることが多いです。
  • 設計→シミュレーション→小規模実験→実装の順で安全に進めてください。

まとめ

本書で扱ったように、伝達関数はフィードバック制御系の解析・設計で中心になる道具です。システムの入力と出力の関係を簡潔に表し、ブロック線図で全体像を整理できます。これにより、応答の速さや安定性、外乱に対する強さなど設計目標を数式的に評価できます。

主な要点:
- 伝達関数は応答を予測する道具です。例えると、機械の“説明書”のように働きます。
- ブロック線図は複数の要素のつながりを視覚化します。組み合わせて全体応答を計算できます。
- 解析手法(周波数応答や極・零点の評価)で安定性や余裕を確かめます。これで問題点を早く見つけられます。
- PIDなど実用的な制御則は伝達関数を使って設計・調整します。チューニングの効果を定量的に確認できます。
- 実務ではモデリング、解析、設計、評価という流れを繰り返すことで性能を高めます。

最後に、理論と実測を両方使って確認する習慣を付けると良いです。伝達関数はその橋渡し役になりますので、まず簡単なモデルから始めて段階的に精度を高めてください。

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