目次
はじめに
概要
本資料は、介護・医療現場における管理者の兼務について、最新の運用と法的基準を分かりやすくまとめたものです。管理者が他職種や他事業所の業務を兼務する際の条件や申請方法、運用上の注意点を順を追って解説します。具体例を交えて実務に役立つ情報を提供します。
本資料の目的
- 管理者兼務の基本的理解を促すこと
- 手続きや法的留意点を明確にすること
- 現場で起きやすい課題と対応策を示すこと
想定読者
介護事業所の管理者、現場リーダー、人事・総務担当者、これから管理者を兼務する可能性のある職員を想定しています。法律の専門家でなくても理解できる表現で説明します。
本資料の使い方
各章ごとに制度的背景、運用例、手続き、注意点を整理しています。実務に当てはめる際は、各事業所の規程や自治体の指導を確認してください。
次章以降で、制度の基礎から具体的な運用方法、2024年度の改定点まで順に説明します。
管理者兼務の基本的な意味と制度的背景
兼務の意味
「兼務」とは、一人が複数の職務を同時に担当することです。介護事業所では、管理者がサービス提供責任者や生活相談員などの実務も担うケースを指します。小規模事業所では職員数の都合で兼務が現実的な選択になることが多いです。
制度的背景
運営の基本は管理者の専従です。運営基準や監督指導の考え方は、管理業務が滞らないことを重視します。とはいえ、法令や基準は事業の実情に応じて柔軟に解釈される余地があります。業務に支障が出ないことを条件に、兼務を認める自治体や指導事例があります。
具体的な留意点
具体例として、訪問介護の管理者がサービス提供責任者を兼務する場合、利用者対応や記録業務が偏らないよう勤務時間や業務分担を明確にします。就業規則や職務分掌に兼務の前提を記載し、職員間で責任範囲を共有することが重要です。研修や資格要件も確認してください。
介護事業所における管理者兼務の運用
運用の基本方針
訪問介護事業所では、管理者がサービス提供責任者や訪問介護員と兼務することが可能です。兼務の可否や細かな運用ルールは自治体と事業所の規程で決まります。2024年度の介護報酬改定により、同一法人が設置する複数事業所間では地理的制約なく兼務できるようになりました。運用では「役割の明確化」と「負担の見える化」を優先してください。
具体的な運用方法(実務例)
- 役割分担の明文化:管理業務(人事・会計・苦情対応など)と現場業務の範囲を書面で定めます。例:週20時間は管理業務、残りは訪問対応と明示。
- 勤務表と記録の整備:兼務時間、訪問記録、管理業務の実績を日々記録します。外出・移動時間も勤務時間として扱います。
- 代替体制の確保:管理者不在時の対応者をあらかじめ決め、連絡先と権限を明示します。
書類・確認事項
- 自治体や運営規程の確認:兼務を始める前に自治体窓口や所属法人の規程を確認してください。
- 届出・記録:必要に応じて兼務の届出や運営基準に沿った記録を提出します。
メリットと注意点
メリットは人材の有効活用と運営コストの抑制です。一方で管理者の負担が増え、現場管理が手薄になるリスクがあります。負担を抑えるために、業務の可視化、ICTの活用、定期的な業務見直しを行ってください。
運用のチェックポイント(実務チェックリスト)
- 兼務の可否を自治体・法人規程で確認済みか
- 役割分担を書面化して職員に周知したか
- 勤務表や業務記録を整備しているか
- 代替者や緊急連絡体制を確立しているか
- 定期的に負担状況を評価し改善策を実行しているか
これらを実行すれば、兼務による効率化と安全なサービス提供を両立できます。
管理者兼務の法的手続きと申請方法
申請が必要な場面
薬局や医療施設で管理者が別の薬局や営業所の業務を兼務する場合は、原則として保健所長などの許可が必要です。保健衛生上支障がないことが前提になります。たとえば、A薬局の管理者が日中にB薬局も管理する場合は申請が必要です。
提出書類と記載例
- 管理者兼務許可申請書(様式に沿って記入)
- 兼務先の名称・所在地・連絡先
- 兼務する理由と期間の明示(例:人手不足のため、2025年4月1日〜6月30日)
- 管理者の資格証明書や履歴書
- 勤務予定表(兼務時の勤務時間と交代体制)
- 必要に応じて運営規程や緊急対応の体制図
記載は具体的にします。勤務時間が不明確だと審査に時間がかかります。
提出のタイミングと窓口
事由発生の1週間前までに提出することが推奨されます。窓口で直接提出するのが原則です。急を要する場合は事前に電話で相談すると対応が早くなります。
審査の流れと留意点
保健所は書類を確認し、必要なら現地確認や聞き取りを行います。保健衛生に支障がないかを重点に審査します。審査結果は文書で通知され、許可が下りれば兼務が可能になります。場合によっては条件付きの許可や期間設定がなされます。
許可後の手続き
許可を受けたら、変更が生じたときは速やかに保健所へ届出します。たとえば兼務期間の延長や管理者の交代があれば、追加申請や再承認が必要になります。
兼務できる範囲と制限事項
概要
介護事業所では、管理者が同一法人内や近隣の複数事業所を兼務することが認められる場合があります。一方、サービス管理責任者は原則として他職種との兼務ができないとされています。兼務は「業務に支障が出ないこと」が絶対条件です。
兼務できる範囲(例)
- 同一法人内の複数事業所の管理者を兼務
- 訪問系サービスと通所系サービスの管理者兼務(自治体の判断による)
- 管理者と事務長等、明確に職務分担できる役割の兼務
主な制限事項
- 勤務時間や休憩を確保し、過重労働を避けること
- 人員配置基準や報酬算定要件を満たすこと
- 緊急時の対応が遅れない体制を保持すること
- 利益相反や利用者の不利益が生じないこと
- 必要な場合は自治体への届出・承認を得ること
自治体ごとの差と確認事項
自治体によって兼務を認める範囲や条件が異なります。実務では必ず最新の自治体ガイドラインを確認し、必要なら書面で確認を取ってください。
実務上の対策例
- シフトや業務分掌を明確にする
- 代替要員や緊急連絡体制を整備する
- 定期的に兼務状況を評価し記録する
上記を基に、兼務が現場に負担をかけないか常に確認してください。
2024年度介護報酬改定による管理者兼務範囲の拡大
背景
2024年度の改定は、人手不足と事業運営の効率化に対応するため行われました。従来のように同一敷地や隣接事業所に限定せず、同一事業者が運営する事業所であれば地理的な制約なく兼務できるように拡大されました。
改定のポイント
- 管理者の兼務は同一事業者設置の事業所間で可能になりました。
- 通勤や配置の実情を踏まえ、柔軟な人員配置を認める内容です。
期待される効果
- 人材の流動性が高まり、空き時間や専門性を生かせます。
- 小規模事業所でも管理機能を確保しやすくなります。
- 事業所間でノウハウを共有しやすくなり運営改善につながります。
具体例(イメージ)
- 居宅介護支援の管理者が同じ事業者の訪問介護事業所も兼務する。
- 小規模通所サービスの管理者が複数拠点を遠隔で統括する。
運用上の注意点
- 管理業務の負担過多にならない配置にすることが重要です。
- 利用者の安全確保や緊急時対応の体制を明確にしてください。
- 労務管理や報酬計算のルールは事業所間で統一すると運用しやすくなります。
現場の事情を踏まえつつ、柔軟で安全な運用設計が求められます。
兼務運用時の注意点と現場での課題
はじめに
兼務を始めるときは、管理者業務の質を落とさない仕組み作りが最優先です。ここでは、実務で注意する点と現場でよく起きる課題を具体例を交えて説明します。
事前手続きと確認
兼務前に許可申請や自治体への相談を済ませます。例:兼務予定の職員の勤務表を示し、業務時間の目安を説明して了承を得ます。
業務配分と時間管理
管理者業務は時間がかかるため、週単位で時間割を作ります。例:毎朝30分は管理者業務、午後は現場対応と明確に区切ります。優先順位を付け、非対面で済む作業はまとめて処理します。
役割分担と情報共有
兼務による混乱を防ぐため、代行者や担当者を明確に決めます。日報や共有フォルダで業務状況を見える化し、問題が起きたら即連絡するルールを作ります。
人員負荷とフォロー体制
現場では業務負荷が増えがちです。週1回の面談や定期的な業務レビューで疲労や課題を早めに把握します。急な欠勤時の代替手順も用意します。
評価と見直し
導入後は数週間ごとに運用状況を評価し、必要に応じて業務配分を修正します。利用者・職員双方の声を集め、柔軟に改善してください。
まとめ
管理者兼務は、人手不足の解消や業務の効率化に役立ちます。現場で活用するには、法的手続きや自治体の規定を確実に守ることが前提です。業務支障を避けるために、次の点を意識してください。
- 業務分担を明確にする:日常業務と管理業務の時間配分を決め、具体的な業務内容を書面で残します。たとえば、週に一定時間を事務処理に充てるなどです。
- 代替体制を整える:担当者が不在のときに誰が対応するかを決め、連絡先一覧や代行フローを用意します。
- 勤務時間と負担管理:過重労働を防ぐために勤務時間を把握し、必要なら業務の削減や外部支援を検討します。
- 記録と評価:兼務による影響を定期的に記録し、業務改善につなげます。利用者の安全やサービス品質を常に確認します。
2024年度の改定で兼務の範囲が見直された点も踏まえ、運用ルールを定期的に見直してください。適切な準備と検討を行えば、兼務は現場の力になります。