リーダーシップとマネジメントスキル

コーチングで活かす傾聴の本質と実践的アプローチ

はじめに

本資料は、コーチングにおける「傾聴(けいちょう)」について、基礎から実践までわかりやすくまとめたものです。傾聴は単に相手の言葉を聞く行為ではなく、感情や価値観に寄り添い、相手の内面を深く理解するための積極的な聴き方です。本章では、本資料の目的と想定読者、読み進め方を丁寧に説明します。

  • 目的
  • 傾聴の本質を理解し、日常や職場の対話で実践できるようになることを目指します。

  • 想定読者

  • 管理職やリーダー、コーチを志す方
  • チーム内のコミュニケーションを改善したい方
  • 傾聴の基本を学びたいすべての方

  • 使い方

  • 第2章以降で定義や段階、具体的な方法を順に説明します。まずは本章で傾聴の重要性と全体像をつかんでください。実践に移る際は、無理をせず少しずつ意識を変えることが大切です。

この資料を通じて、相手の話に向き合う姿勢が自然と身につき、信頼関係や対話の質が高まることを願っています。

1. 傾聴とは何か - 「聞く」と「聴く」の本質的な違い

定義

傾聴とは、単に音を受け取る「聞く」とは違い、相手の言葉・感情・価値観に意図的に耳を傾け、理解しようとする行為です。NHKの用法でも「注意深く耳を傾ける場合に『聴く』を使う」とされ、コーチングでは相手の背景を探る姿勢を指します。英語ではActive listeningにあたります。

「聞く」と「聴く」の違い

・聞く:受動的に情報を受け取る行為。音や言葉を聞き流すことも含まれます。例)会議中に他のことを考えながら話を聞く。
・聴く:能動的に関心を向け、理解と共感を探る行為。話の裏にある感情や価値観を探すことが目的です。例)相手の言葉を反芻し、問いかけで深める。

コーチングにおける意味(Active listening)

コーチは判断や解決策を押し付けず、相手が自分で気づきを得られるよう場を整えます。傾聴はその土台です。話を遮らず、感情を認め、要点を整理することで相手の内面が明らかになります。

具体的な違いが分かる例

相手:「最近、仕事がつらくて…」
聞く反応:「ああ、そうなんだ」→会話が続かない。
聴く反応:「どういう場面でつらさを感じますか?」→相手は詳細を話しやすくなる。

非言語の要素

姿勢、うなずき、視線、沈黙の使い方で「聴いている」ことを伝えます。簡単な相槌や表情の一致が安心感を生みます。

まずは意図を持って耳を傾けること。短い質問と沈黙を使うだけで、相手の話はぐっと深まります。

2. コーチングにおける傾聴の定義と目的

定義

コーチングにおける傾聴とは、クライアントの話を受け止めて深い気づきを引き出すために意図的に聴く行為です。単なる情報収集ではなく、言葉の裏にある思いや感情、価値観に寄り添い、クライアント自身が答えを見つけられるようサポートします。

目的

  • 気づきを促す:話すことで自分の考えや感情に気づけるようにします。例えば、昇進について愚痴を言う中で本当に大切にしている価値に気づくことがあります。
  • 思考の整理を助ける:言葉を整理する過程で選択肢や優先順位がはっきりします。コーチは問いや反映でその過程を支えます。
  • 行動につなげる:気づきと整理が行動計画へと結びつきます。小さな一歩を明確にする手伝いを行います。

コーチの関わり方(具体例)

  • 聴く姿勢:身ぶりや間で安心感を作り、話しやすい場をつくります。
  • 反映と要約:相手の言葉を言い換えて返し、本質を一緒に確認します。例:「~と感じているのですね。何が一番気になりますか?」
  • 掘り下げる質問:事実・感情・価値観を分けて訊くと理解が深まります。例えば「その時、どんな感情でしたか?」「それはあなたにとって何を意味しますか?」

傾聴で避けること

評価や解決策の押し付けを避けます。助言は必要な場面で用いることもありますが、まずは相手の内面を開くことを優先します。

3. 傾聴は「スキルを超えたスキル」 - 態度と関わり方の重要性

傾聴は技術だけではない

傾聴は質問やオウム返しの技術だけではありません。相手に寄り添う姿勢や関心の向け方が根本にあります。態度があることで、相手は安心して内面を話せるようになります。

なぜ態度が重要か

態度は相手の自己受容や気づきを促します。たとえば頷きや視線、声のトーンが穏やかだと相手は自分の感情を受け止められていると感じます。行動が言葉の意味を支えます。

具体的な関わり方(行動例)

  • 注意を向ける:スマホを置き、身体の向きを相手にする。
  • 聞く姿勢:沈黙を恐れず、相手が考える時間をつくる。
  • 反応の仕方:評価せずに受け止め、要点は確認する。

注意点

共感は理解を示すことで同情とは違います。解決を急がず、まずは相手の声を最後まで聴くことを優先してください。

4. 傾聴の3段階レベル - 内的傾聴から全方位的傾聴へ

はじめに

傾聴には、意識の向け方によって大きく三つのレベルがあります。日常の会話で自分の心や反応にとらわれている状態から、相手の声や表情に集中する状態、さらに場全体を含めて聴く状態へと広がります。ここでは各レベルの特徴と、実践で気を付けたい点を具体例で説明します。

レベル1:内的傾聴(自分に向いている)

特徴:話を聴きながら自分の考えや評価、次に何を言うかに意識が向いています。
例:相手の話中に「こう言ったらいいか」と考えたり、感情が先に動いたりします。
気づき方:話が抜け落ちやすく、相手の重要な情報を聞き逃します。
対処法:深呼吸して一呼吸おき、メモではなく要点だけを短く受け止めます。

レベル2:集中的傾聴(相手中心)

特徴:言葉だけでなく声のトーンや表情、身振りに注意を向けます。
例:声が小さくなったら不安があると察する、表情の変化で話題の重要さを感じ取る。
行動例:相槌や要約で確認し、相手が続けやすい空気を作ります。

レベル3:全方位的傾聴(360度)

特徴:相手だけでなく場の雰囲気や第三者の反応、非言語の「ギャップ」に敏感になります。
例:言葉と表情に矛盾があるとき、背景にある価値観や欲求を想像して補います。
取れる対応:穏やかな質問でギャップを探り、相手に自分の観察を伝えます(例:「声は元気ですが、表情からは心配が見えますね」)。

レベルを上げるための実践ポイント

  1. 自分の内側を察する時間を短くし、まずは相手の一つの要素(声や表情)に集中する練習をします。
  2. 小さな観察を言語化して確認する習慣をつけます。誤解を減らせます。
  3. 相手の話すペースに合わせ、沈黙を恐れず待つことを意識します。

日々の会話で意識を少しずつ外へ広げることで、傾聴の質は確実に高まります。

5. 言葉以外の情報に意識を向ける - ギャップの察知と伝達

非言語情報に注目する理由

言葉は意図の一部にすぎません。表情、声のトーン、呼吸、姿勢、手の動きなどに注目すると、話し手の本当の気持ちや迷いに気づけます。コーチはその差に敏感になり、クライアントの気づきを促します。

観察ポイント(具体例)

  • 表情:笑顔でも目が伏せているなど、表情と言葉が食い違う。
  • 声の調子:声が小さい、言葉の強さが変わる。
  • 姿勢・動き:肩がこわばる、足が落ち着かない。
  • 呼吸・沈黙:浅い呼吸や無言の長さは感情のサイン。

例:クライアントが「やってみます」と言っているが、声が震え、視線が泳いでいる。言葉だけで受け取ると見落とします。

ギャップを伝えるコツ

  • 推測で断定しない:「〜のように見えます」「〜と感じますが、いかがですか?」と柔らかく伝えます。
  • 許可を得る:「差し支えなければ、気づいたことをお伝えしてもよろしいですか?」
  • 観察をそのまま返す:「今、『やってみます』とおっしゃいましたが、声の震えと視線の動きから不安を感じます。どのように思われますか?」
  • 相手の説明を促す:指摘は問いに変え、本人の言葉で整理してもらいます。

全身で聴く実践方法

  • 目と耳だけでなく、呼吸や沈黙にも意識を向ける。
  • メモは最小限にして、クライアントに集中する。
  • 伝えるときは短く、非評価的に。相手が受け止められるタイミングを選びます。

6. 傾聴の実践ポイント - 具体的な5つの方法

イントロダクション

傾聴は技術だけでなく心の置き方が大切です。ここでは日常ですぐ使える具体的な5つの方法を丁寧に説明します。

1. 全身で聴く

目の動き、表情、姿勢、声のトーン、沈黙も観察します。たとえば相手が視線を落とすときは内面に注意が向いている合図です。体を少し前に傾け、相手のペースに合わせてください。

2. 感情に焦点を当てる

事実の裏にある感情を探します。「疲れているようですね」「悩んでいる感じがしますね」と感情を言葉にするだけで相手は安心します。

3. 励ましやアドバイスを控え、問いを増やす

すぐに解決策を提示しないでください。代わりに「それはいつからですか?」「具体的にはどんな場面でしたか?」などオープンな問いを投げ、相手に考える時間を与えます。

4. 要約と確認でギャップを埋める

短く要約して確認します。相手の言葉と自分の受け取りに差がないか確認することで誤解を防げます。

5. 沈黙と間を恐れない

沈黙は深い思考や感情の整理の時間です。急いで埋めず、受け入れる姿勢を示してください。短い沈黙の後に相手が本音を話すことがよくあります。

実践のコツ

  • 具体的な言葉例を用意しておくと安心です。
  • 会話の終わりに「ここまでで大丈夫ですか?」と確認すると信頼が深まります。

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