目次
はじめに
プロジェクトマネジメント計画書は、計画したプロジェクトを成功に導くための地図のような役割を果たします。たとえば、新しいシステムをつくる場合、計画書には「誰が」「どんな作業を」「いつ」「どのように行うか」といった情報がわかりやすくまとめられています。
この計画書は、プロジェクトの規模によって10ページほどのものから100ページ以上におよぶものまでさまざまです。プロジェクトを進めていくうちに状況が変わることもあるため、計画書の内容も柔軟に見直しや更新を行います。最初に作成して終わりではなく、途中で「本当にこの進め方でよかったか？」と立ち止まって確認できるようにするのが目的です。
また、計画書をつくるプロセスは「計画担当者だけの作業」ではありません。関係者全員の認識をすり合わせたり、同じ情報を共有したりする大事なタイミングです。「こんなリスクがあるのでは？」「実はやり方に違和感がある」といった現場の声も反映できます。そのため、計画の内容だけではなく、計画づくり自体がプロジェクトの質を高めるポイントにもなっています。
次の章では、計画書にどんな内容を盛り込むべきか、その必須セクションをご紹介します。
第2章: 第1章: 計画書の基本構成—押さえるべき必須セクション
1. 目的・ゴールの明確化
計画書の冒頭部分では、プロジェクトの目的やゴールを具体的に記載します。このとき「QCD」（品質・コスト・納期）に基づき、たとえば「3カ月以内にシステムを稼働させる」「予算1,000万円以内で完了する」など、数値で測れるKPIも示します。これにより、関係者全員の認識合わせができ、進行中に方向性がブレにくくなります。
2. スコープ（範囲）設定
スコープでは「どこまでやるのか」をはっきりさせます。たとえば「顧客管理システムの開発」なら、対象機能や対象外機能をリスト化します。また必要な作業・成果物・受け入れ基準などもセットで挙げ、後々の認識ズレを防ぐのが重要です。
3. 体制・役割分担の明示
プロジェクトを進める体制や、それぞれの役割分担も記載します。組織図としてビジュアル化したり、「○○さんはリーダー」「○○さんは設計担当」と名前とともに責任範囲を明記したりします。これは、万一問題があった場合の連絡や責任の所在の明確化にも役立ちます。
4. スケジュールと進捗管理
スケジュールは、大まかなタスク分解（WBS）や見積もりをもとに作ります。各作業の期間や依存関係、主要な「マイルストーン」を示し、さらに「ここまで出来ていれば進捗50%」など進捗率の定義も合わせて明記します。
5. コスト・リソース計画
費用の内訳や人員・ツールなどのリソースも盛り込みます。たとえば「Aさんが100時間、Bさんが80時間」「外部ツール購入費30万円」など、何にどのくらいお金や人手がかかるのかを具体的に書き出しておきます。
6. リスク管理
予測されるトラブルや障害をリストアップし、「発生した場合の対応」も考えておきます。たとえば「開発遅延が起きたときはリーダーへ連絡」「追加予算申請フロー」などを簡単に決めておくと、万一の事態にも慌てず対応できます。
7. 品質・コミュニケーションの方針
納品物や作業内容の品質基準を決めておきます。さらに、定例ミーティングの頻度、進捗報告の方法（メール、チャット など）、問い合わせ受付担当など、連絡体制・コミュニケーションのルールも明確にします。
次の章では、計画書を実際に作成するための標準的な手順について解説します。
第3章: PMBOK整合とPEP（Project Execution Plan）の位置づけ
PMBOK（プロジェクトマネジメント知識体系）との関連性
計画書を作成するとき、「PMBOK」というフレームワークの存在がよく話題になります。PMBOKは、世界中のプロジェクトで広く用いられているガイドラインです。主に計画・実行・監視・コントロール・完了という流れでプロジェクト全体を管理します。
例えば、前章で紹介した5〜6段階の標準フローも、PMBOKの「計画プロセス群」に該当します。要件の明確化やリソース割り当て、コスト管理、リスク評価といったステップが、PMBOKの知識エリアと対応しています。したがって、計画書をしっかり作れば、自然とPMBOKに沿った進め方も実践しやすくなります。
PEP（Project Execution Plan）の役割と活用
PEPは日本語で「プロジェクト実行計画書」といいます。この文書は、プロジェクトの全体設計図といえる存在です。概要や目的、スケジュール、体制、リスク対応など、前章で説明した各ステップをまとめて具体的に記載します。
たとえば実際のITシステム開発プロジェクトで、PEPを使って「何を、いつまでに、誰が、どのように進めるか」を細かく定めておくと、関係者全員が同じイメージを持ちやすくなります。抜け漏れの防止やトラブル発生時の迅速な対応にも役立ちます。
組み合わせて活用しよう
計画書づくりの際は、PMBOKのガイドラインを土台に、実際の現場ではPEPとして具体的な形に落とし込んでいく方法がおすすめです。これは、堅苦しさを避けつつ、必要なポイントを押さえるバランスのよいアプローチです。特に複数部門や外部ベンダーを巻き込むプロジェクトでは、この二つを意識して活用することで、全体の進行管理や合意形成をしやすくなります。
次の章では、「システム開発プロジェクト特有のポイント」について解説します。
第3章: PMBOK整合とPEP（Project Execution Plan）の位置づけ
PMBOKとは何か？
「PMBOK（プロジェクトマネジメント知識体系ガイド）」は、国際的によく使われているプロジェクト管理のガイドラインです。PMBOKでは、プロジェクトに必要な作業範囲（スコープ）、スケジュール、コスト、品質といった要素を明確に定め、それらを管理する方法が整理されています。例えば、住宅を建てる場合、「間取りを決める」「資材を発注する」「予算内に収める」といったプロセスごとに分け、その実行方法と手順をしっかり管理します。
PEP（Project Execution Plan）の特徴
PEPとは、「プロジェクト実行計画書」のことです。プロジェクトを始めるときに、実施計画や目標、役割分担などを具体的かつ詳細に決めて文書化します。たとえば、「この担当者は何をいつまでにやるか」を明示することで、メンバー全員が同じ理解のもとで動けるようになります。PEPの特徴は、計画通り実施できているかを定期的にチェックし、必要に応じて計画の修正や対策を打つことです。これにより、大きなトラブルを未然に防ぐ助けになります。
PMBOKとPEPの関係性
PMBOKの「管理計画書」の枠組みとPEPは、役割や項目が非常に似ています。PMBOKの管理計画書を現場で実践するために具体化したものがPEPと考えると分かりやすいでしょう。どちらもプロジェクトのアウトラインや役割、品質管理などの項目を定めますが、PEPは実際のプロジェクト現場で「この流れで実行しましょう」と明確に示す点に強みがあります。
実務での活用例
特に、受託開発や法律で厳しく管理されている産業（例えば建設やインフラ関係のプロジェクト）では、PMBOKとPEPを合わせて使うと効果的です。たとえば、建設プロジェクトでPMBOKの基本ルールを押さえつつ、現場専用のPEPに落とし込み、全員が分かる言葉でルールを説明・共有します。これにより、ルールの抜けや認識の違いを防ぎ、契約内容も守りやすくなります。
次の章では、システム開発プロジェクト特有のポイントについて解説します。
第5章: 成功率を高める実務Tips
プロジェクト計画書を実際に活用する上で、成功率を高めるためのコツをご紹介します。経験豊富なプロジェクトマネージャーも、ちょっとした工夫や注意点を押さえることで、計画倒れやトラブルの回避につながります。
1. 規模に応じたドキュメント簡略化
計画書は「全部しっかり書かなければ」と思いがちですが、重要点を絞ることも大切です。たとえば、小規模なグループ作業ではA4用紙1枚程度でまとめる、という柔軟さで十分です。余分な手間を減らしながらポイントだけを全員が把握できるよう意識しましょう。
2. チーム全体での合意形成
プロジェクト計画書は一人で作って終わり、ではありません。リーダーがメンバー全員と内容を確認し、「分からないところ」や「不安な点」を率直に話し合う場を必ず設けましょう。こうすることで後々の食い違いを防げます。たとえば、朝会や週次ミーティングなど、その場に合わせて柔軟に進めてみてください。
3. 柔軟に見直す習慣
システム開発の現場ではイレギュラーがつきものです。一度作った計画書も“たたき台”と捉え、必要に応じて見直しましょう。進捗や課題が出たら、計画書を最新状態に更新することが、軌道修正と成功への近道になります。
4. 簡単な進捗管理ツールの活用
エクセルやGoogleスプレッドシートなど、身近なツールでタスクとスケジュールの見える化を行うと、関係者全員で状況を把握しやすくなります。進捗が一目で分かるガントチャート形式などがおすすめです。
5. 成功・失敗事例を残す
プロジェクトが終わったら「何がうまくいったか」「次に気をつけることは何か」を簡単なメモとして残しておきましょう。次のプロジェクト計画書作成の際に、大いに参考になります。
次の章では、いますぐ使えるチェックリストについて解説します。
第6章: いますぐ使えるチェックリスト
計画書の質を向上するためのチェックリスト
プロジェクト計画書の完成度や実用性を高めるためには、網羅的なチェックが不可欠です。ここでは、すぐに活用できるチェックリスト形式にまとめました。
1. 基本情報の確認
- プロジェクト名や目的、期間、範囲など、基本的な情報は盛り込まれていますか。
- プロジェクトの背景やゴールが明確に記載されていますか。
2. 体制・役割分担の明示
- プロジェクトメンバーや関係者の役割が記載されていますか。
- 役割分担が不明瞭になっていませんか。責任の所在（例：RACIマトリクス等）も明示していますか。
3. スケジュールの具体化
- プロジェクトの主なタスクと、それぞれの担当者が記載されていますか。
- スケジュールがガントチャート等で視覚化されていますか。進捗管理の方法も明記していますか。
4. 進捗・成果物の管理
- 進捗率の測定方法や、成果物の提出基準が明記されていますか。
- チェックポイントや進行中のレビュー体制はどうなっていますか。
5. リスクと変更管理
- 想定されるリスクが挙げられ、それぞれの対応策も記載されていますか。
- 変更発生時の対応ルールと合意形成の手順が明記されていますか。
6. コミュニケーションと情報共有
- 定期的な情報共有ルールや連絡体制が記載されていますか。
- プロジェクトのすべての関係者がプラン内容をいつでも確認できるようになっていますか。
このチェックリストを活用することで、計画書の抜けや漏れを防ぎ、実行しやすいプロジェクト推進が可能となります。
次の章に記載するタイトル：プロジェクト計画書まとめと今後の活用ポイント
第6章: いますぐ使えるチェックリスト
計画書の質と実効性を高めるには、要点を具体的にチェックすることが大切です。ここでは、システム開発プロジェクトの計画書に欠かせない項目をリスト形式で整理します。
主要チェックポイント
1. 目的・ゴールの明確化
- QCD（品質・コスト・納期）の指標でゴールが明確に測定できるかを確認しましょう。
2. スコープ管理
- プロジェクトの範囲（対象・非対象）が具体的に定義されていますか？
- 受入基準も明確に設定しましょう。
3. 体制・責任範囲
- 組織図がありますか？
- RACI（役割と責任分担）、承認フローが決まっていますか？
4. スケジュールと進捗管理
- WBS（作業分解構成図）、マイルストーン、クリティカルパスの設定ができていますか？
- 進捗率の定義が明確になっていますか？
5. コスト管理
- コストの見積方法や根拠が細かく書かれていますか？
- 予備費や全体の収支計画も含めて明記されていますか？
6. リスク管理
- 想定されるリスクの一覧（リスク登録簿）がありますか？
- それらに対する具体的な対応策が示されていますか？
7. コミュニケーション計画
- 報告や情報共有の頻度、使用チャネル、エスカレーション方法が書かれていますか？
8. 変更・版管理
- 仕様変更などが発生した場合の手順や管理方法が明記されていますか？
9. 契約・PEP反映事項
- 契約で決められている条件や、プロジェクト実行計画（PEP）に関する要素が反映されていますか？
このようなチェックリストを使うことで、計画書の抜け・漏れを防げます。プロジェクトの現場でぜひ役立ててください。